常磐道をいわき勿来ICで降り、このフェアレディZニスモに搭載されているVQ37VHR型エンジンの生産拠点である日産自動車いわき工場を横目に見ながら進路を北西へ。国道6号から49号、4号と、徐々に海沿いから山間部へ入り込むにつれ、大型トラックも数多く走行する道幅の広いワインディング区間が増えていく。すると、これまではさほど気にならなかった傾向が明確に、不快かつ不安な要素として顔を出し始めた。
深いわだちや凹凸で大きく跳ねるうえ進路を乱されやすく、ステアリングをしっかり握っていなければ真っ直ぐ走れないのだ。
フロント245/40R19 94W、リヤ285/35R19 99Wという太めのタイヤを装着しながら、ホイールベースは2550mmと短く、スペックだけを見てもワンダリングが出やすいだろうと想像できるが、特に低中速域では想像以上にふらつきやすい。その際ステアリングに伝わるキックバックも強烈で、“技術”という意味での“腕”以上に、肉体的な意味での“腕力”が要求される。
夕方になってようやく磐梯山に着いた頃には、横浜を出発してから約8時間が経過。高速道路と一般道を約4時間ずつ走行し、持病の腰痛こそレカロシートのおかげで守られたものの、重いクラッチペダルを踏む左脚の付け根、お尻の筋肉からは鋭い痛みが走り、3月末から未だに完治しない右肘の捻挫は著しく悪化していた。
そこに来て、どしゃぶりの雨である。しかも、最初に走行したワインディング区間、磐梯吾妻レークラインは、道幅が狭いうえブラインドコーナーが非常に多く、路面のアップダウンや凹凸、うねりも激しく、しかも大雨のおかげで所々に池や川、ぬかるみが出来てしまっていた。加えて対向車や、平然と路上駐車し景色を眺める観光客も散見されるとあっては、国内屈指の難コースとして知られる群馬サイクルスポーツセンター以上に、ドライバーとクルマに厳しい道と評しても過言ではないだろう。
そのような道を大排気量のFRスポーツカーで走行するのは困難を極め、「急」の付く操作が厳禁となるのは言うまでもない。しかも、荒れた路面で大きく跳ねて進路を乱されやすい傾向がより一層顕在化したため、この荒天のワインディングでは運動性能云々以前に、ワンダリングとの戦いに終始することとなってしまった。
やがて磐梯山ゴールドラインに差し掛かると、路面のコンディションは幾分良くなったものの、真っ直ぐ走るのが精一杯という状況は変わらず。宿泊先の会津若松市内へと下山すると、それまでの豪雨がウソのように晴れていたが、荒れた舗装には引き続き苦しめられることになった。
翌日、気を取り直して再度磐梯山へ。雨は上がったものの所々雨が残り、落ち葉や倒木も見られたが、それでも前日よりは若干速いペースで走行できるコンディションに回復していた。そこで改めて感じたのは、355ps&374Nmというエンジンスペック、1540kgの車重に対し、ブレーキの絶対的な制動力がやや追いついていないこと。
このフェアレディZニスモはフロント4ポット・リヤ2ポットの対向アルミキャリパーに加え、GT-Rと同様の高剛性ホースと高性能フルードを採用しており、ペダルタッチの剛性感や、効きのリニアさに関しては申し分ない。それでもコーナーの進入では、その感触から想像されるよりも手前からブレーキングを開始しなければ、充分な安全マージンを確保することはできない。
以前箱根で試乗した際は、下りの高速ワインディングを走行後にフェードの予兆が現れたため、安全性を高めるためにもブレーキパッドはストリートからサーキット走行まで想定したものに交換した方が良いだろう。
ハンドリングに関しては、多少の凹凸であればキレイにいなしてフラットな姿勢を保ち、オンザレール感覚で旋回できるものの、凹凸やうねりが大きくなると急激に車体の跳ねやワンダリングが出やすくなり、ライントレース性が著しく悪化する傾向は、乾いた路面でも変わらなかった。
この時点でいよいよ体力の限界に達したため、復路は磐梯山を下りてすぐ二本松ICから東北自動車道に入り、1時間に1回ほどのペースでこまめに休憩を取りながら、その後首都高を経て横浜市内へ。丸2日間・約1000kmに及ぶ長距離ドライブを終えた。
なお、各区間の燃費は下記の通り。JC08モード燃費8.4km/Lを上回る結果となり、特に高速道路での燃費の良さが光った。
横浜市内(市街地)…5.8km/L
首都高~常磐道…12.2km/L
国道6→49→4号…11.1km/L
磐梯山(往路)…7.5km/L
磐梯山(復路)…7.0km/L
東北道~首都高…10.7km/L
総計…9.6km/L
さて、1000kmドライブの果てに出た、「モデル末期の日産フェアレディZニスモは“買い”か“待ち”か?」という問いに対する結論は、ズバリ“待ち”だ。技術的にも肉体的にも“腕でねじ伏せる”タイプの古典的なFRスポーツカーであり、こうした走り味が好みでなければ、敢えて積極的に選ばない方が無難だろう。
間もなく登場する新型は、基本設計の多くを現行Z34型から流用する可能性が高いものの、エンジンはスカイラインに設定されているVR30DDTT型となり、グレードによっては高性能グレード「400R」と同様に電子制御ダンパーも搭載されるかもしれない。となれば、今回大いに悩まされたじゃじゃ馬な性格も、少なからず洗練されると期待できる。
また、ニスモに限っても、ニスモブランドを積極的に展開している日産が、デビュー当初は別として、新型フェアレディZにモデルライフを通じてニスモを設定しないということは考えにくい。
なお、日産広報部に確認した所、8月上旬時点では現行モデルの生産・販売を継続しているとのこと。このじゃじゃ馬な性格が好みであれば、今が新車で手に入れる最後のチャンスになるかもしれない。残りの生産枠がすべて埋まる前に、日産ディーラーへ駆け込んだ方が良いだろう。
■日産フェアレディZニスモ(FR)
全長×全幅×全高:4330×1870×1315mm
ホイールベース:2550mm
車両重量:1540kg
エンジン形式:V型6気筒DOHC
総排気量:3696cc
最高出力:261kW(355ps)/7400rpm
最大トルク:374Nm/5200rpm
トランスミッション:6速MT
サスペンション形式 前/後:ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ 前後:ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ 前/後:245/40R19 94W/285/35R19 99W
乗車定員:2名
JC08モード燃費:8.4km/L
車両価格:640万9700円