i-MiEV以来の本格参入・三菱 eKクロスEVの走りは『街乗り番長』?【瀨在仁志の新型車チェック】

三菱eK X EVは、日産SAKURAとの共同開発によって生まれたピュアEVだ。車両本体価格:293万2600円(試乗車はオプション装着車)
2009年に軽自動車初のEVモデル『iミーブ』を発売して以来、13年ぶりの本格参入となった三菱の電気自動車『eKクロスEV』。日産SAKURAとの共同開発によって生まれたピュアEVを、モータージャーナリスト・瀨在仁志はどう見たか。

TEXT:瀨在仁志(SEZAI Hitoshi) PHOTO:Motor-Fan.jp

13年ぶりの本格参入!

2009年に軽自動車初のEVモデル『iミーブ』以来、13年ぶりの本格参入となった三菱の電気自動車『eKクロスEV』。

日産との共同開発によって生まれたこのピュアEVは、軽自動車のeKクロスをベースに、先代アウトランダー後期モデルのリヤモーターと同じ明電舎製のユニットをフロントに搭載。20kWhのリチウムイオン電池との組み合わせによって、WLTCモードで180kmの充電走行距離を可能にしてくれている。

パワースペックはターボモデル同様に47kW(64ps)の最高出力と、最大トルクに関しては倍近くの195Nmを発生。この200Nm近くのトルクは他のモデルで比較すると、先代のトヨタ86やマツダ・ロードスターRFと同レベルで、2.0ℓ NAエンジンのトルクを軽自動車で実現したことになる。その走りは、ひと言で言ってしまえば『街乗り番長』だ。

直線だけ速い直線番長は良く聞くが、eKクロスはスムーズなうえにロスがなく、誰にも迷惑をかけることなくその恩恵を受けられる。先に出ている登録車サイズのEVモデルのように、急な出力の増加やボディの重さを感じることなく、ひと踏みした瞬間から滑るように走り出す。「これは、いい」と乗り出しから期待を感じる瀨在氏。

大きく踏み込んでいけば、滑らかな加速感が時間と共に積み上がっていって、高速道路への流入などでもじつに素直。確かに2.0ℓ NAエンジン並みの加速感を味わえるうえに、シフト操作も不要だから街乗り専門のスペシャリストでも、不安なく高速ドライブにトライできる。

もっとも100km/h弱程度からの追い越し加速においては、街乗り領域での盛り上がり感は少なく、軽自動車のターボモデル同様にジワジワと速度を伸ばしていく。このあたりは軽自動車の出力規制の枠内にしっかりと抑えられていて、初めて黄色ナンバーのクルマに乗っていることを理解する。

その理由はパワーユニットのできの良さばかりではない。トルキーなユニットを積んでいながら、ゼロ発進加速でフロントタイヤが暴れることなく、滑らかさを最大限に活かす接地力の高さが大きいと言えるだろう。

新時代のクルマとして、大いに評価したい

リヤ寄りにバッテリーを搭載していることから、兄弟モデルの日産のサクラでは、フロントが上下する感覚があり接地の変化がわずかに気になったが、eKクロスEVにおいてはフラット感をキープし常に落ちついていた。

セッティングには違いはない、とのことだが、ボディ形状の違いや個体差などで微妙な差異が生まれるのかもしれない。

ステアリング操作に対する沈み込みも穏やかなことから、コーナーにおける旋回姿勢は安定していて、背の高さや軽自動車特有の操舵フィールの変化が小さい。リヤサスペンションはFFモデルながらeKクロス4WDモデルの3リンクリジッドアクスルを採用することで剛性感が高く、細かな振動を遮断。

足元全体がひとつのかたまり感をもって路面に接していることから、軽自動車離れした、安定感と静粛性を生み出してくれている。
室内においてもモーターの音は耳に入りづらく、ロードノイズも剛性感の高いシャシー性能によって抑えられていることから、静粛性はもちろんEVならでは、だ。
身なりは軽自動車サイズでも、クオリティは他のEVモデル同様、ガソリン車では味わえない新次元の乗り味を楽しめる。

強いて挙げるとすれば、高速での車線変更等でやや横揺れが残る点だろうか。唯一、背の高い軽自動車の名残を感じられた部分だが、このあたりも高い静粛性にこだわったゆえのものだろう。
タイヤサイズは、試乗車のPグレードは165/55R15、Gグレードは155/65R14を履く。

従来の軽自動車では味わえない、上質さと新時代の乗り味を極めた点は、軽自動車王国の日本において大きなターニングポイント迎えたと言っていいだろう。
このサイズでプレミアム感満載のモデルなら、登録車から遠慮なく乗り換えられる。

三菱 eKクロスEV、高い価値観を持つ新時代のクルマとして、大いに評価したい。

三菱 eK X EV P

全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1655mm
ホイールベース:2495mm
トレッド(前/後):1300mm/1295mm
最低地上高:145mm
室内長×室内幅×室内高:2065mm×1340mm×1270mm
車両重量:1080kg
駆動方式:前輪駆動
サスペンション:F|ストラット式/R|トルクアーム式3リンク
ブレーキ:F|ベンチレーテッドディスク式/R|トレーリング式ドラム
タイヤ:165/55R15

最小回転半径:4.8m

駆動用バッテリー
種類:リチウムイオン電池
槽電圧:350V
総電力量:20kWh

原動機型式:MM48
定格出力:20kW
最高出力:47kW/2302-10455rpm
最大トルク:195Nm/0-2302rpm

WLTCモード燃費:124Wh/km
 市街地モード:100Wh/km
 郊外モード:113Wh/km
 高速道路モード:142Wh/km
一充電走行距離:180km

車両本体価格:2,932,600円

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著者プロフィール

瀨在 仁志 近影

瀨在 仁志

子どものころからモータースポーツをこよなく愛し、学生時代にはカート、その後国内外のラリーやレースに…