目次
全8輪、そして全輪駆動!
2022年4月24日、富士スピードウェイ(FSW)で行なわれた「モーターファンフェスタ2022」(MFF)で、陸上自衛隊が車両などの「防衛装備品」を初めて展示した。このコーナーでは先に、出展車の16式機動戦闘車(MCV)の搬入から撤収までの様子に注目し、その次は87式偵察警戒車(RCV)を、そして3回目となる今回は、全8輪の装甲車「96式装輪装甲車(WAPC)」に密着する。
まず本車の名称に関して。96式装輪装甲車は陸自内で「96WAPC(きゅーろくダブリュエーピーシー)」や「WAPC」、さらに縮めて「APC」と呼ばれる。WAPCとは「Wheeled Armored Personnel Carrier」の略語で装輪装甲車を意味している。
「APC」は諸外国軍での装甲兵員輸送車を指している言葉だ。
WAPCは見たとおり全部で8輪のタイヤが装着されている。
全輪を駆動させられるが、通常走行時は後部の4輪(3・4軸)のみを駆動輪とする方式だ。操舵は車首側の4輪(1・2軸)が担う。
それぞれのタイヤはいわゆるコンバットタイヤで、ある程度の被弾等に耐えられる。仮に2~3輪がダメージを負ったとしても残存した車輪で走行可能だという。また、タイヤの空気圧を車内から増減するなど制御することもできる。
ボディには装甲が施され、詳細な能力は公開されないが小銃弾や砲弾の破片などは防ぐことができるそうだ。
WAPCの諸元は、全備重量約14.5トン、全長 6.84m × 全幅 2.48m × 全高 1.85m。この車内に10~12名の人員を収容し、舗装路であれば約100km/hの最高速度で走行可能、行動距離は500km以上とされる。車体は小松製作所が製造した。
エンジンは三菱製の水冷4サイクル6気筒ターボ・ディーゼル(6D40)で、三菱ふそう「ザ・グレート」などと同様なものだという。トランスミッションと一体化したパワーパックとして車体前方左側に搭載され、360ps/2200rpmを発生する。
車体上面には12.7mm重機関銃、または96式40mm自動擲弾銃(グレネードランチャー)のどちらかを搭載可能。
本車の特徴は、8輪タイヤで遠距離を高速で自走でき、装甲ボディで相手の火力脅威下でも10数名の人員を乗せて進行が可能な点にある。使用性や汎用性、なにかと使い勝手の良い車両として評価されている様子だが、古くなっているのも事実で、時代に合わせた装備へ更新するべく後継機の選定(後述)も行なわれている。
MFF当日のWAPCは、他のタイヤ式(装輪)車両と同様、静かにFSW外周路などを走ってパドックの展示場所へ入場している。走行中の様子を見ていて気づいたのは、エンジン稼働音や排気音、タイヤノイズなど各種の騒音が極力低減されている点だ。
16式機動戦闘車(MCV)や87式偵察警戒車(RCV)も同じだったが、低騒音なのは装輪車両の利点なのだと思う。そして多数の出展車両と混走しながらの入場だったが、乗用車などと同じようにスムーズに走っている。本コースに沿うように作られたFSWの外周路は勾配や加減速する区間も多いが、WAPCは大型車・装甲車だからと、モタつくことなどなかった。こうした、一般道を「普通」に走行できる点がいいと思う。
戦車ではこうはいかない。戦車を舗装路で自走させると路面を損傷させ、自車のキャタピラも傷めたり脱落させてしまうこともある。仮に、富士山麓の駒門駐屯地からFSWまで戦車を運ぶならトランスポーターが必要だ。その後パドック内へ搬入したとしても、40トン前後の戦車の重量が展示場所の路面や路面下の諸設備にダメージを与える可能性は非常に高い。
つまり、当然なのだがタイヤ式(装輪)車両は舗装路・一般道の走行に長けていることが、MFFの展示を通じて納得できた。これらの装輪車両や装備は必要な場合、一般道や高速道路などを自走して現場へ急行することができる。これは現在の我が国の国土整備状況や道路網を考えれば当然必要な能力。これが改めて実感できた(もちろん、だから戦車は不要だ、などと言っているわけではありません)。
今後、機会が訪れることに期待
WAPCの展示状況はというと、8輪タイヤは迫力を持って目に飛び込んでくるが、あとは四角いボディがそこにあるだけなので理解しにくかったかもしれない。WAPCの隣ではRCVが車両上面への乗降体験を行なっていたが、WAPCは静かに停車していただけだったからだ。そのため、装輪装甲車というものを掴み取りにくかったかもしれない。
車両後部のランプドアを開放し、車内左右に設置されたベンチシートへ着座するなどの乗車・着座体験があったとしたら装輪装甲・人員輸送車を体感できたかもしれないが、現用の装甲車ゆえに内部の公開は難しいのだろう。
仮に車内へ着座できたら、ボディ左右に設置された外部視察用の小窓から差し込む自然光が白い内装と相まってある程度の車内の明るさを確保している様子がわかったり、居住性の良さも体感できたかもしれない。今後こうした機会が訪れることに期待するばかりだ。
WAPCは後継機種の選定作業を実施中だ。そもそも防衛装備庁が次期装輪装甲車を開発していたが、うまくいかなかった。基本の装甲車体にモジュール機構でバリエーションを設けたファミリー化構想があって、通信車や救急車、施設車両などを設けるプランだった。しかし連接構造部分の防弾性能などの確保が難しいとされ、開発の継続は高コスト化と車体の大型化による走行性能の低下などが予測・指摘され、計画は中止。しかし次期車両が必要なのは変わらず、2019年から「次期装輪装甲車導入候補車種の選定」作業を開始。国内外メーカー製の試験用車両を後継車両とするテストが陸自富士学校で始まった。候補車両は三菱重工「機動装甲車」、フィンランド「パトリアAMV」、ジェネラル・ダイナミクス・ランドシステム・カナダ「LAV6.0」などだ。このうち外国製の2両はすでに国内に運ばれ演習場で試験中と噂され、富士学校でテスト中の「パトリアAMV」が目撃されてもいる。