ホンダ・シビックe:HEV 気分良く走って燃費がいいなんて、最高ではないか

ホンダ・シビック e:HEV 車両価格○397万8700円 ディーラーop ドライブレコーダー/フロアカーペット
今年50周年を迎えたホンダ・シビック。現行モデルは11代目。11代目は1.5ℓ直列4気筒直噴ターボモデルからスタートしたが、2022年に本命ともいえるハイブリッド「e:HEV」が加わった。その走りを試した。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota) PHOTO:MFi

新世代e:HEVがもたらす走りはひと言でいって「すばらしい」

中央自動車道・小淵沢IC(山梨県北杜市)の近くにあるホテルを起点に、八ヶ岳高原ラインを通って清里方面に向かうルートを選択した。ずっと上り勾配だ。標高が高くなるにつれて曲率の小さなカーブが連続するようになり、それにともなって路面は荒れてくる。デキの良くないクルマだと馬脚が現れ、路面からの入力をサスペンションが減衰しきれずにボディに伝わり、ボディもその入力をいなしきれず、脚はバタバタ、クルマ全体はワナワナと震えて、ダメだこりゃとなる。

そういう、クルマにとって過酷なルートを「ぜひ走ってください」と勧めたのはホンダだ。よほど自信があったのだろう。2021年に同じルートを新型シビックのガソリンエンジン仕様で走った際にデキの良さを確認済みだが、今回は7月1日に発売された、ハイブリッドシステムを搭載するe:HEV(イーエイチイーブイ)仕様で同じルートをたどり、デキの良さを再確認した。

爽快シビックの名に恥じない走りを披露する。

シビックで八ヶ岳高原ラインを走ると、「この道、荒れているはずじゃなかったっけ?」との疑問が湧いてくる。走り自慢の別のクルマで走って見ると荒れた道であることがはっきりわかるので、シビックのデキが抜群にいいということだろう。タイヤとサスペンションとボディが(そして、それをまとめ上げた開発陣が)いい仕事をしているということだ。新型シビックは「爽快CIVIC」のグランドコンセプトを掲げているが、ワインディングを走るシビックはガソリンエンジン仕様もハイブリッドのe:HEVも、間違いなく“爽快”だ。

ホンダ・シビック e:HEV 全長×全幅×全高:4550mm×1800mm×1415mm ホイールベース:2735mm 車重:1460kg
トレッド:F1535mm/R1565mm
最小回転半径:5.7m最低地上高:135mm
新開発エンジンと新世代のハイブリッドシステムを組み合わせたe:HEVを搭載する。

アクセルペダルを踏み込んだ瞬間にグッと力を出してくれるガソリンモデルの爽快ぶりを、1年ぶりに同じ場所で再確認した。回転上昇にともなうサウンドの変化を響かせながらエンジンで走っている実感を味わわせるいっぽう、ドライバーの加速要求に対してターボを即応させて力を出し、CVTの変速を抑えてむやみにエンジン回転を上げない。ターボをうまく使いながら、エンジン回転をジワッと上げていく。MTはしなやかな乗り味とは対照的に硬派な操作フィールだ。自分の思いどおりの回転バンドを選択できる楽しさがある。

新たにシビックのラインアップに加わったe:HEVが爽快に仕上がっているのは、ガソリンエンジン仕様と共通している。より上質な味わいだ。事前に受けた技術説明から、エンジンの主張がもっと強いのかと予想していたが、実際はエンジンが主張しすぎず、静粛性の高さが際立つ。発電用と走行用の2つのモーターを持つホンダのe:HEVは、モーターで走るのが基本だ。加速時や登坂時など、大きなパワーが必要なときはエンジンを始動し、発電用モーターで発電した電力で走行用モーターを駆動する。

エンジンは動いているが、エンジンの力で走っているわけではなく発電に徹しており、路面に力を伝えているのはモーターということになる。つまり、日産ノートや7月25日に発売になったばかりのエクストレイルと同じ、シリーズハイブリッドで走っていることになる。日常走行のほとんどは、走行用モーターのみを駆動して走るEVモードか、バッテリーの電力にエンジンで発電した電力を加えて走行用モーターで走る(シリーズ)ハイブリッドモードで事足りてしまう。

高速道路でのクルーズ時など、効率面でエンジンが得意とする領域のみ、バッテリー+モーターの力を借りず、エンジンが発生する力のみで走るエンジン直結モードに切り替わる。高速走行時の追い越しシーンなどでは、エンジン直結のまま、モーターのアシストを加えることで瞬時に大きな加速Gを発生させる制御も取り入れた。ハイブリッドシステムのシステム構成は従来のe:HEVと変わらないが、システムを構成するエンジンやパワーコントロールユニット(PCU)、インテリジェントパワーユニット(IPU、リチウムイオンバッテリーを内蔵)は新開発し、2モーター内蔵電気式CVTは改良した。つまり、ハイブリッドシステムは新世代に進化している。

ガソリンエンジン仕様より上質な走り

その新世代e:HEVがもたらす走りはひと言でいって、すばらしい。ガソリンエンジン仕様より上質に感じる理由は、e:HEVのデキの良さに由来する。前述したように、ドライバーが強い力を求めたシーンではエンジンが始動して発電した電力をバッテリーの電力に加えるシリーズハイブリッドモードに移行するが、エンジンが始動したかどうかを音や振動で判別するのは困難だ。意識すれば別だが、日常的な走行でエンジンの存在を意識することはまずないだろう。メーター表示を見て、エンジンが始動しているのを知るのが実態だし、同乗者に「いま、エンジンかかっているんですよ」と知らせると、「そうなの?」という反応が返ってくるのが実状だ(体験談)。

エンジン 形式:直列4気筒DOHC 型式:LFC 排気量:1993cc ボア×ストローク:81.0mm×96.7mm 圧縮比:13.9 最高出力:141ps(104kW)/6000rpm 最大トルク:182Nm/4500rpm 燃料供給:DI 燃料:無鉛プレミアム 燃料タンク:40ℓ

e:HEV初の直噴エンジン(2.0L直列4気筒自然吸気)は、従来のポート噴射から直噴化することによって走りと燃費と排ガス性能を満足させている。エンジン直結モードの走行範囲を拡げることができたのは、燃料比率を高める(リッチにする)ことなくストイキ(理論空燃比)で発生できるトルクを向上させたからだ。だから、従来のe:HEVではシリーズハイブリッドモードに切り替わっていたような走りのシーンでも、エンジン直結のまま粘って走る。ゆえに、エンジンの回転数が変動せず、静かなまま上質に走ることができる(このあたり、別の機会に改めてじっくり確かめてみたい)。

システム側の都合でエンジンが始動しても、それを乗員に悟らせないのは、振動・騒音に気を使った設計をしているからでもある。従来、クランクシャフトはコストと重量の観点から、耐久性を担保できる最小限の剛性としていたという。引き換えに、音や振動の面でネガが出た。2.0L直噴エンジンを開発するにあたっては、音や振動を抑えるために重量増は承知のうえで、クランクシャフトの剛性を上げた。エンジン再始動時のショックが出ないようにシリンダー内の圧力を逃がす制御なども効いており、エンジンの存在を意識しないで済むハイブリッドになっている。従来のハイブリッドシステムは、エンジンがかかるとがっかりしたものだが、シビックe:HEVはそれがない。そこが上質で爽快な走りにつながっている。

タイヤサイズは235/40R18
ミシュラン PILOT SPORT4を履く

走り方にもよるが、そうはいってもエンジンが高回転まで回るシーンがある。発進で全開加速をしたり、コーナーからの立ち上がりで急加速を求めたりするようなシーンだ。エンジンは高回転で回っているので、エンジン音はさすがにドライバーの耳に届く。だが、耳のすぐそばでがなり立てている感じではなく、距離感がある聞こえ方だ。だから、不快ではないし、そもそも、いい音がする。

それに、演出が効いている。エンジン回転が一本調子で上昇していくのではなく、有段トランスミッションがアップシフトを繰り返すように、回転数を変化させていく。このとき、実際にはエンジン直結モードではなくシリーズハイブリッドモードで走っているので、路面に力を伝えているのはモーターだ。エンジンは発電のために動いているので、効率を考えるなら一本調子で回っていたほうがいい。だが、ホンダの開発陣は走りとエンジン回転を連動させたほうが爽快だと考え、段階的制御を選択した。

室内長×幅×高:1915mm/1545mm/1145mm

これがまたよくできていて、「エンジンで走っているわけではないですよね」と、試乗後に確認したほどだ。アクセルペダルの操作と、その操作に応じて発生する加速と、エンジンの回転変化がぴったり合致しているため、まるでエンジンで加速しているような錯覚を覚えさせる。繰り返すがこのとき、エンジンががなり立てず、少し離れたところでいい音を発している絶妙な距離感がいい。

シビックe:HEVは実に爽快。短い試乗だったので燃費を確かめるまでには至らなかったが、WLTCモードはガソリン仕様の16.3km/Lに対してe:HEVは24.2km/Lである。気分良く走って燃費がいいなんて、最高ではないか。

ボディカラーはプラチナホワイト・パール
ホンダ・シビック e:HEV
全長×全幅×全高:4550mm×1800mm×1415mm
ホイールベース:2735mm
車重:1460kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式/R トーションバー式
駆動方式:FF
エンジン
形式:直列4気筒DOHC
型式:LFC
排気量:1993cc
ボア×ストローク:81.0mm×96.7mm
圧縮比:13.9
最高出力:141ps(104kW)/6000rpm
最大トルク:182Nm/4500rpm
燃料供給:DI
燃料:レギュラー
燃料タンク:40ℓ

モーター
H4型交流同期モーター
最高出力:184ps(141kW)/5000-6000rpm
最大トルク:315Nm/0-2000rpm


WLTCモード燃費:24.2km/ℓ
 市街地モード 21.7km/ℓ
 郊外モード 27.6km/ℓ
 高速道路モード 23.4km/ℓ

車両価格:397万8700円
ディーラーop ドライブレコーダー/フロアカーペット

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…