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高精度3次元地図
まず大事なのは、自分のクルマ(自車)の位置を知ることです。つまり詳細な地図が必要となります。ただし、カーナビなどの一般的な地図の場合、それは平面的な情報であり、自動運転には不十分です。カーナビゲーションによっては、建物などが立体化して見える地図もありますが、それはあくまでも平面(2次元)の情報からイメージしたものに過ぎません。
これを3次元化するため、専用の測定器を搭載した車両で実際に道路を走行することで一般的なカーナビゲーションの地図に比べて圧倒的なデータ量を誇る地図が生成されます。橋や立体交差などの高さや位置、そして道路の起伏などを正確に把握しています。
こうした高精度3次元地図では、建物や標識などの「地物(ちぶつ)」を表現します。
地物や道路の構成物などは、道路工事や建物の立替などで変化することもあるため、定期的に走行して新しい地図に書き換えることが必要です。
また、道路の車線情報などは自治体や道路事業者からのデータを収集して最新状況を把握します。
国は産学官連携により、高精度3次元地図「ダイナミックマップ」を作り上げていて、現在では実用化されており、一部の自動車メーカーの高度運転支援システムで利用されています。
衛星測位
高精度3次元地図の上で、自車の位置を知るために使われるのが衛星による測位です。
ざっくり言えば、GPSのことです。カーナビゲーションやスマホのナビで、皆さんすっかりお馴染みのGPSですが、具体的にどういうものなのか、あまり深く考えたことはないかもしれません。
GPSは衛星測位の一種で、アメリカが打ち上げた30数基の衛星から送信される電波を最低3つ受信することで、高さを含めた位置が分かる測量法です。GPSを仕切っているのは米・国防総省で、GPSの基本的な任務は軍需なのですが、そのごく一部を民間に解放しているものです。
GPSの実態について、アメリカで空軍関係者などを何度か取材したことがあるのですが「有事になれば、こちらの判断でGPSの民需用電波はすぐに止めることができる」と、高飛車な態度に驚いたものです。
GPSの他に、欧州連合、ロシア、中国、インド、そして日本が独自に衛星測位も可能な衛星を打ち上げています。現在利用されている、カーナビゲーションの一部は、こうした各種の衛星情報をミックスして利用しているのが実状です。
日本では「準天頂衛星」と呼んでいますが、基本設計はGPSに準じており、GPSを補完する役目がある他、準天頂衛星の独自の電波もあり、こうした技術を駆使することで数センチ程度の位置精度が可能になっています。
V2I/V2V/V2X
次に、通信でつながること(コネクテッド)の技術について紹介しましょう。
高精度3次元地図があり、そして衛星測位によって自車の位置がしっかり分かるようになって、さらに必要なのはリアルタイムでの周辺情報です。
例えば、信号機については、赤・黄・緑に変化する時間を通信によってクルマ側に送る技術が量産レベルまで実現しています。
信号機の近くに専用のデータ送受信装置があり、そこから送られてくるデータをもとにクルマ側が黄色信号に変わる前からブレーキをかける準備をするのです。また、赤信号で停車中も青信号までのカウントダウンが行われる仕組みです。
こうした、クルマと道路側の装置(インフラ)が通信によって協調する仕組みを、V2I(ヴィークル・トゥ・インフラストラクチャー)と呼びます。日本語では、路車間通信と略されています。
さらに、クルマとクルマが通信で位置、速度、加速度などのデータをやり取りする方法が、V2V(ヴィークル・トゥ・ヴィークル)の車車間通信。これにより、信号機のない交差点などでの出会い頭の事故を防ぐことができます。
V2IやV2Vなど、クルマがさまざまなモノと通信でつながることで安全安心な走行ができる仕組みの総称として、V2Xと呼んでいます。
カメラ、ミリ波レーダー、ライダー
これまでは、クルマ周辺のデータや、クルマが外部と通信でつながることで自動運転を考えてきました。
こうしたデータの基盤が十分に確立された上で、クルマ側に搭載されている各種のセンサーの有効性が高まると言えるでしょう。
主なセンサーとしては、カメラ、ミリ波レーダー、そしてライダーなどがあります。
カメラは、1基のシステムを単眼カメラ、また人間の眼の原理を利用した2基のシステムを「ステレオカメラ」と呼んでいます。また、欧州車などでは、3つの単眼カメラで短距離、中距離、長距離を見る仕組みがあったり、スバルが新型「クロストレック」から採用しているステレオカメラ+単眼カメラという方式もあります。こうしたカメラは、いわゆる自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)に対しても活用されています。
また、ミリ波レーダーは単眼カメラと併用したり、クルマの斜め後方から接近する物体を検知するブラインドスポットウォーニングなどにも使われている技術です。
そして、ライダーはレーザーを多重に照射することで、物体の位置、形、大きさを認識する装置で、カメラやミリ波レーダーと比べると、いまのところ価格が高価なので、新車価格の高いモデルを主体に徐々に搭載が始まっています。公共交通向け自動運転ではライダーは必需品となっています。
つまり、各種センサーは、クルマの車格、コスト、そして自動運転レベルなどに応じて、上手く融合して使うことがベターだと言われています。これを、センサーフュージョンと呼びます。
著者PROFILE 桃田健史
1962年8月、東京生まれ。日米を拠点に、世界自動車産業をメインに取材執筆活動を行う。インディカー、NASCARなどレーシングドライバーとしての経歴を活かし、レース番組の解説及び海外モーターショーなどのテレビ解説も務める。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
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[スタイルワゴン・ドレスアップナビ編集部]