岡山大学:ナノ立方体ブロックでリチウムイオン電池の充放電時間を大幅に短縮

リチウムイオンがナノキューブ表面を高速で移動する様子(掲載雑誌に使用した図に和文説明を加えた)
岡山大学学術研究院自然科学学域・寺西貴志准教授のグループは、産業技術総合研究所極限機 能材料研究部門・三村憲一主任研究員のグループと共同で、ユニークなナノサイズの立方体ブロックをリチウムイオン電池に加えることで、従来の電池の充放電時間を大幅に短縮することに成功した。

 本研究は、リチウムイオン電池の正極材料と電解液の間に、リチウムイオンを引き寄せる性質をもつナノサイズの立方体ブロック形状の結晶を適量加えることで、リチウムイオンの出し入れ速度が大幅に早まることを見出した。小型コインセルを用いて、3分間の急速充放電試験を行ったところ、ナノキューブを加えた電池において、従来電池の4.3倍もの電気容量が得られることが分かった。今後、普及が広まる電気自動車に向けて、数秒での超急速充放電を可能とする次世代電池の開発に大きく貢献しうる画期的な研究成果であると岡山大学は述べている。

 リチウムイオン電池を充放電させるとき、通常、リチウムイオンは電解液と電極材料の間で、吸着・脱離、溶媒和・脱溶媒和、表面拡散など様々な電気化学反応を経て移動する。リチウムイオン電池の出力特性、つまり、急速充放電特性は、この一連の電気化学反応をいかに素早く行えるかで決まる。一般的に、リチウムイオンが電解液と電極の間を移動する際に生じる電気化学反応の抵抗は高く、この移動抵抗が電池の出力特性を支配する一つの大きな要因だった。

 岡山大学・寺西准教授らはこれまでの研究で、誘電体※1からなるナノサイズ※2の粒子を、正極材料と電解液の間に導入することで、一定条件の下で、誘電体ナノ粒子の表面にリチウムイオンが選択的に吸着し、その表面においてリチウムイオンの動きが加速されるという新しい現象を見出した。
 今回、ナノキューブとよばれる非常にユニークなナノサイズの立方体結晶に着目した。このナノキューブは水熱法※3とよばれる方法で合成することができる。これまで合成方法の最適化により、高い結晶性を有する単結晶かつサイズの揃ったナノキューブを作製することに成功している。また、ナノキューブ表面に残留するオレイン酸が立体障害を起こすことで、非常に高い分散性を示すことが分かっている。さらに、形状が立方体であることから、電極表面と密着性が高い面接触が可能になった。ナノキューブをリチウムイオン電池に導入したとき、リチウムイオンは図1にあるような移動経路を辿る(放電時)。ナノキューブに吸着したリチウムイオンは溶媒分子を脱離し(脱溶媒和)、表面拡散を経て、最終的にナノキューブ、活物質、電解質の三相が交わる界面(Triple Phase Interface:TPI)付近から正極内に挿入する。このナノキューブを介したリチウムイオンの移動が非常に短時間に起こることから、電池の急速充放電が可能となる。

 実際に、誘電体のナノキューブとしてチタン酸バリウム(BaTiO3)という材料を用い、小型コインセルによる3分間の急速充放電試験を行った。結果、ナノキューブを加えた電池は、加えていない従来電池の約4.3倍の電気容量が得られることが分かった。

社会的な意義

「本研究成果は、リチウムイオン電池の電極と電解液の間にナノキューブを添加剤として少量加えるだけで、電池の充放電速度を劇的に改善できるというものであり、工業的にもその価値は極めて高いものと岡山大学は考えます。究極的には数秒以内での超急速充放電を可能とするような次世代電池の実現に向けて、貢献しうる画期的な研究成果であると考えます」と岡山大学は言う。岡山県および岡山大学は「大学と連携した地域産業振興に係る岡山県と岡山大学との協力に関する協定」に基づき、次世代電池分野におけるデバイス、モジュール、材料、製造プロセス、計測などに係る共同研究を目指す複数の企業及び複数の研究者が参画し、多面的な連携による共同研究の促進を図ることを目的として、岡山大学津島キャンパスに「おかやま次世代電池共創コンソーシアム」を2020年2月に立ち上げた。本技術を含めた電池関連技術の社会実装が期待される。

論文名:Ultrafast Ion Transport via Dielectric Nanocube Interface
掲載紙:Advanced Materials Interfaces
著者:Takashi Teranishi, Ryoji Yamanaka, Ken-ichi Mimura, Mika Yoneda, Shinya Kondo, Kazumi, Kato, and Akira Kishimoto
DOI:10.1002/admi.202101682
URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/admi.202101682

※1 誘電体:電気を通さない絶縁体であるが、電場を与えると電気分極(電荷の偏り)を生じる物質
※2 ナノサイズ:10-9m(10 億分の 1 メートル)オーダーの大きさ
※3 水熱法:高温かつ高圧力の熱水中で行う材料の合成法

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