世界唯一の市販車用2気筒エンジンはなぜ生まれたか:Fiat TwinAir[内燃機関超基礎講座 ]

フィアットは排気量875ccの2気筒エンジンを実用化した。なぜ、4気筒や3気筒ではなく2気筒なのか。2気筒、3気筒、4気筒それぞれのメリット、デメリット、そして効率の観点から、2気筒を選択した意味を検証する。
TEXT:世良耕太(SERA Kota)

フィアットのTwinAirは、2020年現在、市販乗用車用エンジンとしては唯一の2気筒エンジンである。なぜ2気筒なのか。そこには論理的な帰結があった。メリットばかりではなく、デメリットがあるのも承知のうえ。ヨーロッパのA、B両セグメントで「燃費向上」と「ファン・トゥ・ドライブ」(後者を重要視している点、とくに強調しておきたい)を両立し、競合に対して優位性を保つには、2気筒エンジンを新開発する必要があるとフィアットは判断したのだ。

500やパンダ、グランデ・プントが街中できびきび動き回るには、48kW(65ps)から77kW(105ps)の出力が必要だと判断。そこから妥当な排気量を弾き出した。燃費、発進性、パフォーマンス、異なるモデルで使用する際のフレキシビリティ、ターボだけでなく自然吸気仕様も設定することなどを考え合わせると、排気量は900cc前後が妥当という結論に達した。

総排気量を900ccに設定した場合の、2気筒、3気筒、4気筒の単筒容積はそれぞれ、450cc、300cc、225ccとなる。熱力学的な観点から最適な効率を求めると、単筒容積325cc~500ccが最適ゾーン。総排気量が900ccなら、3気筒と4気筒はゾーンから外れる。逆に、3気筒を選択するなら総排気量は975cc~1500cc、4気筒なら1300cc~2000ccが最適。単筒容積だけでなくS/V比も大事で、スクエアだったりショートストロークだったりすると、冷却損失が増えて熱効率は落ちる。

そこでシリンダー数である。2気筒か3気筒か4気筒か。というより、既存技術を転用できる点などから、4気筒、3気筒、2気筒の優先順位で取捨選択が始まったことだろう。燃費、コスト、NVH、パフォーマンスの4項目をバランス良く成立させるシリンダー数はどれか、と。

排気量が同じなら、単気筒容積を大きくしつつスモールボアにすると、S/V比(燃焼室の容積に対する表面積の比率)が小さくなって冷却損失が減る。ピストンの数を少なくすれば、それにともなって軸受やバルブの数も少なくて済み、フリクションが減る。熱効率の面から4気筒を切り落とし、3気筒と2気筒の一騎打ちで比較してみると、2気筒は全長が短くできるので、A/Bセグメントのクルマに横置き搭載するには都合がいい。既存の3気筒エンジンのほとんどがバランサーシャフトを備えていないが、2気筒は必須。その点を勘案してもムービングパーツ類の点数は3気筒の3分の2になるしで、2気筒にコストメリットがある。

TwinAirのバランスシャフト。2気筒の場合、一次の往復慣性力をキャンセルするためのバランスシャフトは必須。一次ゆえ、クランクシャフトと同じスピードで回転する。二次は4気筒より弱いので問題にならなかったと、フィアットは説明。困るのはトルク変動で、一次の往復慣性力を打ち消すためのバランスシャフトの位置を吟味することで、燃焼によるクランクケースの揺れを打ち消す動きを作り込んだ。
2気筒のクランクレイアウトは180度、270度、360度が考えられる。フィアットの2気筒は360度位相で、360度ごとの等間隔爆発。一次の振動が大きいため、バランスシャフトは不可欠。180度位相の場合、点火は0度、180度と連続すると、360度と540度は休みで、720度、900度と続く。つまり、不等間隔爆発。270度位相は90度V型2気筒とした場合で、4輪よりもむしろ、2輪向けのレイアウト。どの位相を選択しても回転変動は大きい。

問題はNVHだが、これはバランスシャフトで解決できる(膨大な試行錯誤は必要だったが)。スタート/ストップシステムを組み込めば、少なくともアイドリング時の振動は気にならなくなる。燃費、コスト、NVH、パフォーマンスの4項目を満足させるだけでなく、ハイブリッド化する際にも、全長の短い2気筒は好都合だった(ただし、モーターで振動を制御することは考えていない)。

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