フィアットのTwinAirは、2020年現在、市販乗用車用エンジンとしては唯一の2気筒エンジンである。なぜ2気筒なのか。そこには論理的な帰結があった。メリットばかりではなく、デメリットがあるのも承知のうえ。ヨーロッパのA、B両セグメントで「燃費向上」と「ファン・トゥ・ドライブ」(後者を重要視している点、とくに強調しておきたい)を両立し、競合に対して優位性を保つには、2気筒エンジンを新開発する必要があるとフィアットは判断したのだ。
500やパンダ、グランデ・プントが街中できびきび動き回るには、48kW(65ps)から77kW(105ps)の出力が必要だと判断。そこから妥当な排気量を弾き出した。燃費、発進性、パフォーマンス、異なるモデルで使用する際のフレキシビリティ、ターボだけでなく自然吸気仕様も設定することなどを考え合わせると、排気量は900cc前後が妥当という結論に達した。
そこでシリンダー数である。2気筒か3気筒か4気筒か。というより、既存技術を転用できる点などから、4気筒、3気筒、2気筒の優先順位で取捨選択が始まったことだろう。燃費、コスト、NVH、パフォーマンスの4項目をバランス良く成立させるシリンダー数はどれか、と。
排気量が同じなら、単気筒容積を大きくしつつスモールボアにすると、S/V比(燃焼室の容積に対する表面積の比率)が小さくなって冷却損失が減る。ピストンの数を少なくすれば、それにともなって軸受やバルブの数も少なくて済み、フリクションが減る。熱効率の面から4気筒を切り落とし、3気筒と2気筒の一騎打ちで比較してみると、2気筒は全長が短くできるので、A/Bセグメントのクルマに横置き搭載するには都合がいい。既存の3気筒エンジンのほとんどがバランサーシャフトを備えていないが、2気筒は必須。その点を勘案してもムービングパーツ類の点数は3気筒の3分の2になるしで、2気筒にコストメリットがある。
問題はNVHだが、これはバランスシャフトで解決できる(膨大な試行錯誤は必要だったが)。スタート/ストップシステムを組み込めば、少なくともアイドリング時の振動は気にならなくなる。燃費、コスト、NVH、パフォーマンスの4項目を満足させるだけでなく、ハイブリッド化する際にも、全長の短い2気筒は好都合だった(ただし、モーターで振動を制御することは考えていない)。