専用部品多数で固めた三菱ランエボXの4B11ターボ、狙いは高出力高耐久[内燃機関超基礎講座]

ランサーエボリューションXが搭載する4B11型はギャラン・フォルティスが積む2ℓ自然吸気エンジンと型式こそ同じだが、 ターボが追加されただけでなく、多くを一新。競技ユースを前提に、基本技術の洗練で内容の充実を図っているのが特徴だ。TEXT:世良耕太(SERA Kota)

ランサーエボリューションがX世代に移行するにあたっては、4G63をアルミブロック化しつつ後方排気にして搭載することも検討がなされたようだが、その場合、ほとんどが設計変更となるため、新世代の4B系をベースにすることになったという。三菱自動車、クライスラー、ヒュンダイの3社が使用するワールドエンジンの4B系(1.8Lの4B10が起源で、基礎的な部分を共用するのが初期の目的だった)は、三菱では2.4Lをアウトランダー(2005年10月発売)が搭載。三菱が専用で使うターボの4B11については生産ラインを共用するものの、ブロックやヘッドをはじめ、多くが専用設計となっている。

コンプレッサーハウジングに32mm径のリストリクター装着が義務付けられるグループNラリーでの使用を前提に開発したのが「4B11 MIVECインタークーラーターボ」である。一般ユーザーの使用ではライトチューン程度を想定。開発当初はスーパー耐久レースでの性能要件についても検討したというが、市場規模の大きいグループNに絞り込んでの開発となった。高回転化を指向するスーパー耐久と、低中回転域重視のグループNではベクトルが違いすぎる。動弁系が高回転化に対応できるスペックとなっているのは、それを指向した開発初期の名残だ。

バルブトレーンは4G63のロッカーアーム式からダイレクトドライブ式に変更。潤滑や素材の改良でラッシュアジャスターを不要にしている。軽量化とコスト低減に効果があるが、元々は高回転化を図るための措置。4G63との相違ではスプリングシート一体のバルブステムシール、カムシャフトへのリン酸皮膜の追加、バルブステムへの弾性砥石研磨追加などが挙げられる。

冷却効率を高めるため、シリンダーヘッドとシリンダーブロックそれぞれに冷却回路を持つ分離冷却方式を採用。低速時の燃焼効率向上を狙って、吸気ポートはタンブル比を向上させている。

モータースポーツでの使用を前提としながら、参戦カテゴリーをグループNに絞り込むことで、カバーすべき剛性値が弾き出される。だからアルミダイキャスト製シリンダーブロックによる軽量化を追求できた。鋳鉄製シリンダーライナーは、ベースエンジンのオープンデッキ構造に対し、9ヵ所で支えるセミクローズドデッキ構造。ラダーフレームもアルミダイキャスト製。ベアリングキャップのボルトは自然吸気の2本に対し、4本。当初は1番、4番を2本にしていたが、耐久試験を経て4本に落ち着いた。

また、4B11ではバランサーシャフトを取り去っているが、これはエンジン+トランスミッションのベンディング剛性向上、エンジンマウントの剛性向上により振動を抑えることで可能にした。

低中回転重視の具体的施策としては、レスポンスの向上が最優先。つまり、いかにターボラグをなくすかに意が注がれた。吸気系は短くストレートに。可変バルブタイミング機構は従来まで吸気側だけに採用されていたが、4B11では排気側にも採用し、低速トルクの引き上げに寄与している。

また、競技用にはターボで加圧された吸気の一部をエキゾーストマニフォールドに導き、未燃ガスをここで燃焼させてスロットル開度に関係なくタービン回転圧を維持する2次エアシステムの継続採用を検討したが、電子制御スロットルの採用など、周辺技術で緻密な制御が可能となったため、投入を見送っている。

電子制御スロットルの効能はアクセルオフ時の車両挙動に顕著に現れる。従来はアクセルをオフにすると急激なピッチング変動が現れた(良くも悪くも第3世代までのランエボの特徴だった)が、エボリューションXではこのあたりの挙動がマイルドになっている。ユーザーの裾野を広げたいとする車両コンセプトとも合致する部分だろう。加速時のフィーリングも角がとれたマイルドさが身上だ。

ターボチャージャーはランサーエボリューションIV以来のツインスクロール式を採用。1番と4番、2番と3番のエキゾーストマニホールドを組み合わせ、それぞれを別のスクロールに導く。こうすることで、排気干渉を回避。エンジン回転が低い領域から効率良くタービンを回転させられる。作りにくい素材なうえに間仕切りが入るため高価。レスポンス向上をターゲットに、A/Rの最適化やブレードの形状変更など、細かな改良を積み重ねている。高回転狙いではないので、大型タービンは不要。

軸受けはフローティングメタル。確認のためボールベアリングも試験したが、性能はフローティングメタルの方が上回っていたという。ボールベアリングは「ギャー」音が発生するが、フローティングメタルは平面で受けるため音が静かなのもメリット。十分な性能が発揮できるため、製造元の三菱重工もボールベアリングを勧めていないという。

競技ユースを見越して強度に優れたマーレ製ピストンを採用。F1をはじめとするモータースポーツの世界で実績を誇る。「アルミ鋳造品で市場に出回っているものでは一番強い」とは開発担当者の評価。これ以上の強度を求めるならアルミ鍛造という選択肢になる。4G63型では全数X線検査をしていたというが、マーレ製ではその必要がなくなり、実はコスト減になっているとも。ピストンクラウンの内側にクーリングチャンネルを設けている。フリクションロスを低減するフルフローティング構造。

モータースポーツでの使用を前提として考えているので、「直噴は考えていなかった」と三菱側は説明。高圧ポンプを搭載した際の重量増加と、アフターでチューンする際の自由度を奪ってしまうのを嫌ったためだ。

一方で、第3世代までの4G63は性能一辺倒で開発を続けてきたが、4B11では環境対応との両立にも積極的に取り組んでいる。後方排気、吸排気可変バルブタイミングの採用などは環境性能に貢献するアイテムの一例でもある。

ランサーエボリューションIXの前方排気・後方吸気から、Xでは前方吸気・後方排気に変更。レイアウト変更のメリットを効率向上に積極的に使う。IXの場合、吸入空気は螺旋状に回転しつつエアクリーナーを通過してターボチャージャーに向かうが、Xはエア取り入れ口からターボチャージャーまでの距離は長いものの、ストレートに空気が流れる構成。インタークーラーの配管は曲げ点を極力減らし、吸気抵抗を低減する工夫が見られる。
エボリューションIXでは吸気側のみに可変機構を採用。Xでは吸排気ともに取り入れた。カムシャフト側スプロケットに内蔵したアクチュエーターが、カムシャフトの位相を進角・遅角(吸気カム変換角25°、排気カム変換角35°)させ、吸排気バルブの開閉タイミングを制御する。吸気側のみでは進角→充填効率を高めて高出力を確保、遅角→オーバーラップを小さくすることで燃費と排ガス性能を改善するという2種類の使い方しかできなかったが、吸排気の組み合わせでより幅広いエンジン負荷、エンジン回転に対応できるようになっている。

■ 4B11 T/C
シリンダー配列 直列4気筒
排気量 1998cc
内径×行程 86.0×86.0mm
圧縮比 9.0
最高出力 221kW/6500rpm
最大トルク 422Nm/3500rpm
給気方式 ターボチャージャー
カム配置 DOHC
ブロック材 アルミ合金
吸気弁/排気弁数 2/2
バルブ駆動方式 直打
燃料噴射方式 PFI
VVT/VVL In-Ex/×
(ランサーエボリューションX)

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…