国産各社のエンジン型式命名規則を探る[内燃機関超基礎講座]

記号の羅列であるエンジン型式名。しかし詳しい人はこともなげにすらすらと次々とエンジンの名前を語る。そこにはどのような法則性があるのだろうか。各社の事情を調べてみた。
*本記事は2010年10月に執筆したものです

■エンジン型式命名規則 トヨタの場合

原則として最初の記号または数字は開発順序を、次の記号はエンジン系列を示す。たとえば「4GR」の場合「4番目に開発されたGR型」という意味となる。3番目以後にも記号が続く場合は、最初の2ケタの記号の後にハイフンの区切りが入る。ハイフン以後に続く記号は、そのエンジンに含まれる技術要素を表し、最大3文字までとされる。現行のエンジンで使用されている主な技術要素記号は下記の通り。

G:高性能広角ツインカム(おおむねバルブ挟み角50°以上の高圧縮比・高回転のDOHC)
F:省燃費狭角ツインカムもしくは高効率エンジン(コンパクトツインカム)(いわゆる「ハイメカツインカム」=狭角4バルブDOHC)
P:LPG仕様
N:CNG仕様
B:エタノール仕様
T:ターボ過給
Z:スーパーチャージャー過給
X:アトキンソンサイクル仕様
H:高圧縮比もしくは高圧過給仕様
A:連続可変バルブリフト機構採用
E:電子制御式燃料供給
S:D-4(筒内直噴燃料噴射装置)装備
V:コモンレール式燃料噴射装置装備(ディーゼルのみ)

たとえば「4GR-FSE」は「4番目に開発されたGR型のうち狭角4バルブDOHC、D-4装備、電子制御式燃料供給方式のエンジン」という意味になる。

■エンジン型式命名規則 日産の場合

基本的には頭の1~2ケタのアルファベットはエンジンのシリーズ(系列)名、その後の数字は排気量(単位はcc)の100cc未満を四捨五入し、100で割った値を2ケタで示す。たとえば「VQ35」ならば「VQ型エンジンの3.5l仕様」という意味。尚、1000ccに満たない場合は最初のケタは「09」のように
「0」となる。

エンジンのシリーズ名でV型エンジンには慣例的に「V」、ディーゼルエンジンには「D」のアルファベットが最初の1ケタ目に付与されている。2ケタの排気量数字に続くアルファベットはエンジンに含まれる機械要素の組み合わせを示す。機械要素はバルブ形式、燃料供給方式または使用燃料、過給方式の順に並べられる。ただし「VQ37HR」の「HR」のような例外も存在し「、HR」は高応答・高回転を表す。

1)バルブ形式
 D:DOHC
 V:可変バルブリフトタイミング
2)燃料供給方式または使用燃料
 D:直噴
 E:電子制御式燃料噴射
 P:LPG仕様
 N:CNG仕様
3)過給方式-1
 T:シングルターボ過給
 TT:ツインターボ過給
 R:スーパーチャージャー過給
4)過給方式-2
 i:インタークーラー装備

■エンジン型式命名規則 ホンダの場合

1985年登場のA型以後のホンダのエンジンは、最初のアルファベットがエンジンのシリーズ(型式系列)名、その後の数字は排気量(単位はcc)の100cc未満を四捨五入し、100で割った値を2ケタで示す。たとえば「K20」ならば「K型エンジンの2ℓ仕様」という意味。最後のアルファベットはAから順に開発順序を示す。「K20A」の場合「K型の最初に開発された2ℓ仕様エンジン」という意味になる。

なお、ハイブリッド・システム(IMA)に使用されるエンジンは現状、アルファベット3文字で表されるが、MFiの過去の関係者インタビューによれば、これも基本的には前記同様。最初のアルファベットはそのハイブリッド・システムに使用されているエンジンのシリーズ(型式系列)名、次のアルファベットはエンジンの開発順序、最後のアルファベットはハイブリッド・システム用としての開発順序となる。たとえば「LEA」の場合「5番目に開発されたL型エンジンを用いた最初のハイブリッド・システム用」という意味になる。2番目のアルファベットは4番目の開発順序を示す「D」から始まっているが、これは過去の先例から、純粋に内燃機関として開発されたエンジンが最長でも3番目、すなわち「C」までしか続いておらず(例外的に海外仕様などでは「Z」が存在する)「“D”は絶対にない」ということからだという。

またディーゼルエンジンには最後に英小文字でディーゼルの頭文字である「di」が付与され、識別点としている。

■エンジン型式命名規則 マツダの場合

【ロータリー】
型式名の最初の数字は合計排気量(単位はcc)を100で割った値を2ケタで示す。ただし切り上げ、切り捨て、四捨五入の基準などは曖昧である。これに続くアルファベットは原則としてトロコイド曲線のパターン分類を示す。

たとえば「13B」の場合「合計排気量1.3ℓでBパターンのトロコイド曲線を採用したロータリーエンジン」という意味になる。またアルファベットの“G”や“J”はトロコイド曲線ではなくレーシングエンジンを示す例外記号であり、“X”は開発中試作機を示す。このアルファベットの後ろにハイフンでつながれたアルファベットが来る場合は、それぞれ下記の機械的要素を示す。

SI:スーパーインジェクション
T:ターボ過給
REW:シーケンシャルツインターボ過給
MSP:サイドポート吸/排気

たとえば「13B-MSP」の場合「合計排気量1.3ℓでBパターンのトロコイド曲線を採用したサイドポート吸/排気のロータリーエンジン」となる。また、型式名の一番最初に“R”が付く場合があるが、これは純レーシングマシンやコンセプトカー搭載用の特殊な試験的モデルであることを示す。

【レシプロ】
基本的に最初の2ケタのアルファベットもしくはアルファベットと数字の組み合わせでエンジンのシリーズ(系列)名と排気量を示す。各シリーズの対応排気量は決まっているため、排気量(単位はcc)を100で割った値を2ケタで示したものの末尾1ケタで排気量を示している。

たとえば「L3」なら「L型エンジンの2.3ℓ仕様」という意味。L型エンジンの対応排気量は1800〜2500ccと決まっているため「3」は自動的に2.3ℓ(2300cc)と決められるのである。また末尾が「0」になる場合には他との混同や重複を避けるため、特に2.0ℓ(2000cc)の場合は「F」を用いる。「LF」だと「L型エンジンの2.0ℓ仕様」という意味だ。

ハイフンの後のアルファベットは最初のものがグループごとの通し記号、続く1〜2ケタのアルファベットが使用燃料や技術要素を示す。代表的なものとしてD:DISI(Direct Injection Spark Ignition)/T:ターボ過給/M:ミラーサイクルといった記号がある。

■エンジン型式命名規則 スバルの場合

スバルのエンジン型式名は基本的に2ケタのアルファベットと2ケタ以上の数字の組み合わせで表される。前半2ケタのアルファベットがエンジンのシリーズ(系列)名を示し、続く2ケタの数字は排気量(単位はcc)の100cc未満を四捨五入し、100で割った値を示している。さらに、この2ケタの数字の後に登場順を示す数字が付与される。

たとえば「EJ203」ならば「2ℓ仕様のEJ型の3番目に登場したエンジン」という意味である。

■エンジン型式命名規則 三菱自動車の場合

三菱のエンジン形式はいささか混乱が見られるため、まずは三菱自動車工業発足後の原理原則を示す。最初の数字が気筒数を、2番目のアルファベットが燃料による種別(A、B、G=ガソリン、D、M=ディーゼル)を、3番目の数字がエンジンシリーズを表し、4番目の数字がシリーズ中の排気量コードを示している。

たとえば「4B11」ならば「4気筒のガソリン仕様、1シリーズの排気量コード1番」という意味になる。4B1系の場合の排気量コード「1」は2000ccを示す。

各シリーズの排気量コードは原則として、そのエンジンが開発当初に目標とした排気量の最小排気量に対して「1」が付与され、排気量がアップするごとに「2「」3」と大きな数字が与えられる。その後、当初予定の最小排気量よりも下回った排気量のエンジンが開発された際には「0」の数字が与えられる。現行エンジンのシリーズごとに付与された基本的な排気量コードは以下の通り。

3B2シリーズ:0=660cc、1=1000cc
3G8シリーズ:1=550cc、3=660cc
3A9シリーズ:1=1100cc
4A3シリーズ:0=660cc、1=1000cc
4A9シリーズ:0=1300cc、1=1500cc
4B1シリーズ:0=1800cc、1=2000cc、2=2400cc
4G1シリーズ:1=1200cc、2=1400cc、3=1300cc、4=1400cc、5=1500cc
4G6シリーズ:1=1600cc、2=1800cc、3=2000cc、4=2400cc
4M4シリーズ:1=3200cc
4N1シリーズ:1=1300cc、2=2000cc、3=1800cc、4=2300cc
6B3シリーズ:1=3000cc
6G7シリーズ:1=2000cc、2=3000cc、3=2500cc、4=3500cc、5=3800cc

しかしながら三菱のエンジンには例外が多く、燃料による種別を示すとされる2番目のアルファベットのうち実際に燃料種別を示す記号はガソリンの“G”とディーゼルの“D”だけで、たとえば“A”はアルミ合金製ブロックを示し、実際には燃料種別を示すものではないという。また、最後の排気量コードの数字には最も例外が多く、例示した4G1シリーズを見てみるとわかるように“2”と“4”が1400ccなのに“3”が1300ccだったりと、必ずしも排気量の順に数字が付与されていない現象が見受けられる。これは当初の予定よりも幅広いファミリー展開が必要となり、同排気量で異なった機械要素を持つエンジンに対して空き番号がないために発生する現象のようだ。

また一見すると欠番が生じているように見える場合があるが、海外仕様や他社供給モデルに対してその番号が与えられている場合がある。また、この4つの文字列の後にターボエンジンを示す“T”や何らかの対策を施した改良型を示す“B”といったアルファベットが特に付加される場合がある。

■エンジン型式命名規則 スズキの場合

スズキのエンジンの型式名は非常にシンプルで、最初のアルファベットがエンジン・シリーズ(系列)名を、続く数字が排気量(単位はcc)の100cc未満を四捨五入し、100で割った値を示す。軽自動車の660ccは例外的に1ケタの「6」である。これに続くアルファベットはAから順に開発順序を示す。

たとえば「J24B」は「J型エンジンの2.4ℓ仕様の最初の型」という意味である。

■エンジン型式命名規則 ダイハツの場合

ダイハツのエンジン型式名は前2ケタの記号と後2ケタ以上の記号から成る。なお、この規則はトヨタからの受託エンジンや共同開発エンジンには適用されず、トヨタの命名規則に準拠する例が多く見られる。

最初の2ケタの記号はエンジンのシリーズ(系列)名を表し、エンジン・ブロック名と同義である。ハイフンをはさんだ後半2ケタ以上の記号は、かつては分かりにくいものだったが、現在ではエンジンに含まれる機械要素の組み合わせを表し、その記号分類はトヨタ式に近似したものとなっている。記号の例を以下に示す。

S:SOHC
D:DOHC
V:可変バルブ機構(DVVT)
E:EFI
M:低圧ターボ過給
T:ターボ過給

たとえば「EF-DET」ならば「EF型のDOHC、EFI装備、ターボ過給」という意味である。燃料噴射方式を示す記号のない「EF-VD」は直噴エンジンであることを示す。

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