モーターファン・イラストレーテッド vol.167から一部転載
まずは評価のコントロール(基準)を決めていただくため、スズキ・アルトからお乗りいただいた。
「このクルマは“きれいに走らせる”のが難しいですね。一定の力でブレーキを踏んでも、減速度が安定しないし、ハンドルの不感帯も、少し大きめに感じます」
“きれいに走らせる”とは、“ジャークを出さない”ということ。“ジャーク”とは加速度の変化のことで、“加加速度”とも呼ばれる。
山門先生の評価基準は、その「ジャークを出さない運転がしやすいかどうか」。運動が変化する際に物体に作用する力は『質量×加速度』なので、発生する加速度が一定であれば、ドライバーは一定の力を出し続けるだけで姿勢を保持できる。しかし、意図しないパターンで加速度が変化すると、人体はそれに対してフィードバック制御する必要が生じ、“思いどおりにクルマが動かない”と感じるようになる。
アルトに違和感を覚える原因のひとつは、ACGによるエネルギー回生の強さだ。アルトは実測重量668kgと軽量なので、重いクルマより、回生ブレーキによるG変化の感度が高い。
「ピッチ方向の動きは抑えられていますけれど、ロールはダイヤゴナルな感じではないですね」
アルトは軽自動車とはいえ、ホイールベースは2459mm(実測値)と長い。現代の軽自動車には共通することだが、ピッチ方向の動きには比較的寛容だ。また、ロワーアームに少し下反角が付いているように見えるので、フロントのロールセンターが高く、ロール姿勢は水平に近いのかもしれない。同じプラットフォームでスペーシアのようなスーパーハイト系までカバーすることを考えると、得心のいく設定ではある。
続いて、日産デイズにお乗りいただこう。
「減速して旋回に入る際、ロールとピッチを連成させようとしたときに、頭が振り回される感じはありますね。でも動き自体は、ブレーキやステアリング操作でマネジメントできますから、“きれいに走らせる”のはやりやすい。重心や着座位置が高い影響は感じられますが、フラストレーションの溜まらないクルマです」
加減速や操舵の応答がリニアなので、クルマとやりとりをしながら、ジャークが出ないようにコントロールするのは容易、ということだ。
「それに、ある程度、大きなGをかけなければ、頭が振り回される感じは出ませんし、ロール姿勢もダイヤゴナルで自然です。イン側のジャッキダウン効果とアウト側のジャッキアップ効果に差があると、違和感のある動きが出ることもあるのですが、そのへんは計算をうまくやっているのではないでしょうか」
日産の軽自動車のラインアップは、ハイトワゴンのデイズと、スーパーハイトワゴンのルークスだけ。となれば、サスペンションのジオメトリーも重心高の高いクルマに特化して仕立てることができる。そういう点では、そもそもフィジカルが有利なのかもしれない。
最後は今回の試乗車中、もっとも重心の高いホンダN-BOX。駐車場内の移動だけでも路面の凹凸で頭が左右に揺すられ、着座位置と重心の高さは明らかに感じられる。ところが道路に出ると、意外に違和感はない。山門先生はまったくコメントを発することなく、湖岸のワインディングを黙々と走り続けた後、ようやく口を開いた。
「ここまで重心が高くなると、三次元でコントロールしなければならない感じが出てきますね。ロールとピッチがバラバラに動きたがるのをきれいにまとめるのはレベルの高い作業ですが、それを楽しみながら運転するのは、ゲーム感覚のようなところがある。その作業がけっこう面白かったので、つい熱中してしまいました(笑)」
重心高が高い感じはあっても、ネガはあまり感じられない、ということだろうか。
「『上屋を動かさないように走る』という作業がやりやすいクルマであるとはいえます。“自分でやるGベクタリング”に、ちゃんと付いてきてくれる。雑な操舵を入れると重心高なりのロールは発生しますが、そうならない走らせかたのできるクルマです。緊急回避レベルの操舵では、ネガは出ると思うのですが、それをどこまで許容するか、ということではないかと思います」
最後に、全般の感想をお聞かせいただこう。
「重心の高いクルマでも、常用域では違和感が出ないよう、ノーズダイブやリフト、ジャッキアップやダウンのバランスなど、よく計算されて作られていると感じました」
軽スーパーハイトワゴンは03年にダイハツ・タントが登場して以来、第2~第4世代目に突入しており、高重心車の操安性をまとめるノウハウも確立してきているようだ。