Formula E:Gen3/Season9において初戦から高いプレゼンスを発揮[ZFとモータースポーツ]

(PHOTO:Mahindra Racing)
ZFとマヒンドラのフォーミュラEを舞台とする新たな戦いが始まった。ドイツに本拠を置くZFは自動車関連部品および自動車関連システムのグローバルサプライヤーだ。いっぽうマヒンドラはインドの自動車メーカーで、傘下のマヒンドラ・レーシングはフォーミュラEが始まった2014年から電気自動車によるレースシリーズに参戦し続けている。
TEXT:世良耕太(Kota SERA)

ZFは2019年にマヒンドラ・レーシング・フォーミュラEチームのオフィシャル・パワートレーン・パートナーになり、同年よりシャシー開発のサポートを開始。2020/2021年のシーズン7からは、モーター、トランスミッション、パワーエレクトロニクスで構成される電動パワートレーンを供給している。

ZFとマヒンドラ・レーシングの新たな戦いは、2023年のシーズン9から始まった。単に新シーズンの開幕を迎えるだけではない。車両が一新されるのだ。2022年のシーズン8までは、Gen2と呼ぶ第2世代シャシーが用いられていた。このシャシーは参戦全チームに共通。52kWhのユーザブルエナジー(総電力量のうち使用可能なエネルギー)も共通だ。

チームごとに異なるのは電動パワートレーンで、トランスミッションを独自に開発できる都合上、付随してリヤサスペンションの設計にもある程度の自由度が生まれる。限られた電気エネルギーを上手に使って速さに結びつけるエネルギーマネジメントも、予選やレースでのパフォーマンスを大きく左右する要素だ。

シーズン9からはGen3と呼ぶ新しいシャシーが導入されることになった。Gen2シャシーがリヤに最高出力250kWのモーターを搭載していたのに対し、Gen3は350kWに出力を向上。さらに、フロントにも最高出力250kWのモーターを搭載する。合わせて600kWだが、フロントは力行せず回生専用。600kWの強力な回生パワーを手に入れるため、フロントの油圧(摩擦)ブレーキをなくしたのが特徴だ。

マヒンドラ・レーシングのM9Electro(PHOTO:Mahindra Racing)

マヒンドラ・レーシングは2022年12月中旬にスペイン・バレンシアで行なわれた4日間の合同テストに参加。M9Electoro(エム・ナイン・エレクトロ)と名づけたGen3車両はシェイクダウンを兼ねたテストを成功裏に終えた。4日間で1600kmを走行し、予選やレースのシミュレーションを実施している。新たにチームのCEOに就任したフレデリック・ベルトランドは次のようにテストを総括した。

「テストの首尾に満足している。ZFのサポートを含め、チーム全体が素晴らしい仕事をした。多くのデータを収集することができたので、(イギリス・バンブリーにある)ファクトリーに戻り、開幕戦に向けた準備をしたい」

全16戦が予定されているフォーミュラEのシーズン9は、1月14日に開催されたメキシコシティ戦で開幕した。参戦する11チームは以下のとおりだ(アルファベット順。カッコ内は電動パワートレーン製造者)。各チーム2台を走らせるので、総勢22名のドライバーが腕を競うことになる。アプト・クプラはマヒンドラから(ZFが開発した)電動パワートレーンの供給を受けている。

Abt Cupra Formula E Team(Mahindra)
Avalanche Andretti Formula E(Porsche)
DS Penske(DS)
Envision Racing(Jaguar)
Jaguar TCS Racing(Jaguar)
Mahindra Racing(Mahindra)
Maserati MSG Racing(Maserati)
Neom McLaren Formula E Team(Nissan)
NIO 333 Racing(NIO)
Nissan Formula E Team(Nissan)
Tag Heuer Porsche Formula E Team(Porsche)

新時代に突入したフォーミュラE初のポールポジションを獲得したのは、今季からマヒンドラ・レーシングの一員になったルーカス・ディ・グラッシだった。イベントを行なうサーキットを事前に走行することはできないため、走行シミュレーションによるセットアップやエネルギーマネジメントの準備を入念に行なうことが重要だ。事前準備の段階で最適なセットアップや制御を確定しておき、現地での短い走行時間で修正を行なう。

予選ではバッテリー残量を気にすることなく、パワーを最優先にしたエネルギーマネジメントで走るのが基本。サスペンションのセットアップやドライバーの技量に負う部分も大きいが、オフィシャル・パワートレーン・パートナーとしてのZFが果たした役割も大きく、予選では並み居る競合を抑えてZFの電動パワートレーンを積んだマヒンドラM9Electoroが最速タイムを記録した。チームのオペレーションもさることながら、ハードウェアの優秀性を証明したことになる。

レースは2番グリッドからスタートしたジェイク・デニス(アンドレッティ)が優勝。2位はパスカル・ウェーレイン(ポルシェ)。ディ・グラッシは順位を落としたものの、3位表彰台に上がった。ベルトランドCEOは「夢のような週末だった」とシーズン9の開幕戦を振り返る。

「ポールポジションを獲得し、3位表彰台に上がったことに満足している。チームにとって素晴らしい結果だ。パートナーのZFはパワートレーンに関し、素晴らしい仕事を成し遂げてくれた」

(PHOTO:Mahindra Racing)

マヒンドラ・レーシングに幸先のいい結果をもたらしたディ・グラッシは「勝利に等しい結果だ」とよろこぶ。レースではバッテリー残量切れを起こさずに速さに結びつけるエネルギーマネジメントが重要になる。ブレーキング時の姿勢に影響を与えないようにしつつ、できるだけ効率良くフロントとリヤのモーターで回生を行ないたい。走行中の力行/回生のマネジメントは、無線でチームの指示を受けながらドライバーが行なわなければならない。

チームメイトのオリバー・ローランドがタイヤの性能劣化に悩んだ末に後方からのスタートとなり、ポイント圏外の13位フィニッシュに終わった点は、チームに課題を残した。レースに向けた対策が奏功して走りが好転したのは、明るい材料だ。

新世代のフォーミュラE車両向けに開発したZFの電動パワートレーンが高いポテンシャルを備えていることは、シーズン9の開幕戦で証明された。マヒンドラ・レーシングは「センセーショナルなスタートを切ることができた」と評価する。高効率かつ軽量なモーター、パワーエレクトロニクス、トランスミッションの開発と製造に必要な技術がすべて手の内にある、ZFの高い技術力が証明された格好だ。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…