「我々はこれを“ランブルノイズ”と呼んでいます。一般にギヤトレーンで発生するノイズには、ワインノイズやラトルノイズのように、擬音表現を基とする呼称が用いられるのですが、じつはスプラインで発生するこのノイズには、まだ(業界で通用する)共通の呼び名がありません。ノイズとして意識されるようになって日が浅く、当てはまる擬音すら定まっていないためです」(牧田氏)
ギヤトレーンの設計開発用途に特化したCAEツール、SMTのMASTAにまもなく新たな機能が追加される。これは従来のバージョン13.0から13.1へのアップデートにともなうもので、そこで目玉といえるのが、スプライン嵌合部で発生する音振現象、“ランブルノイズ”の解析だ。聞き慣れない名だが、それもそのはず。牧田氏が説明するように、このノイズの呼称はSMTによるもので、まだ一般的な呼び名が存在していないのである。
このランブルノイズなる音振現象が“ノイズ”として認識されるようになったのは、自動車のパワートレーンにおいて電動化が進んだ近年のこと。おもに問題となっているのは駆動用モーターの出力軸に設けられるスプライン嵌合部だ。
「自動車メーカーでもその存在は認識していたようですが、詳細な発生メカニズムの究明や解析方法となると、手付かずに近い状態でした。我々がランブルノイズという呼称を公の場で提唱するようになったのは、2023年1月、SMT Ltd.とヒョンデの共同でSAEに発表した論文からです。この論文はランブルノイズとその発生源であるスプライン部をモデルベースで解析する手法を示したものでした」(牧田氏)
SMTではこうした研究などを通して、ランブルノイズの発生において、スプラインのピッチ誤差と、ラジアル方向の配置誤差(芯ずれ)の二つが支配的となっていることを見出し、モデルを用いて解析する手法を確立することに成功。これが最新版のMASTAに実装されるというわけだが、論文発表されたばかりの研究成果をわずか1年あまりで製品化という点もさることながら、やはり驚くべきは解析の速さである。
同席していたケビン・チャン氏に解析作業を実際に披露していただいたのだが、処理負荷の“軽い”準静解析であれば、ほんの数秒程度で解析が完了する。この時扱ったのは20秒ほどの現象で、さらに複雑な条件を高精度な動解析で解けば数時間以上掛かる場合もあるというものの、同氏が用いていたのはラップトップPC、しかもスタンドアロンの状態。もちろん、CAEツールとしては革命的なまでに扱いやすく、モデルの作成も驚くほど迅速という点は従来通りだ。ランブルノイズのモデルベース解析が“吊るし”で即可能というツールは、現段階においておそらくMASTAが唯一である。