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開発の概要

今回の開発により、Astemoのインホイール式EV向けダイレクト駆動システムには12インチが新たに加わり、16インチ、19インチのラインナップと併せてさまざまなサイズの電動モビリティへの展開に向け、2030年ごろの実用化が目指される。
インホイール式EV向けのダイレクト駆動システムは、EVの性能向上や車室空間の拡大をもたらすだけでなく、各車輪を個別に制御することで車両の運動を多様に制御できるため、今後のモビリティ用途を拡大させる技術として世界的に注目され、さまざまな企業で開発が進められている。Astemoはこれまで、日立製作所(以下、日立)の研究開発グループとともに、油冷方式のダイレクト駆動システムの開発を進め、19インチおよび16インチホイールへの適用を検討してきた。しかし、レイアウトやコストの制約が厳しい小型車や二輪車などへの搭載にあたっては、油冷方式で必要となる冷却配管や付帯する設備の追加が課題となっていた。一方、空冷方式にする場合は、小型車のホイールサイズが小さいため、冷却に必要な放熱面積の確保が困難になるという別の課題があった。
今回開発された12インチのダイレクト駆動システムでは、ホイールに収められるモーターの回転を利用して放熱量を増大させる新たな空冷構造が採用され、従来の課題が克服された。具体的には、モーターの回転部分の外表面全体に放熱フィンを配置した「ロータリーフィン構造」にしたことで、放熱性能を大幅に向上させている。その結果、1輪あたり同サイズではトップクラスとなる連続定格5.5kWが実現され、最大出力は13kWに達する。これを4輪に搭載した場合、電動軽自動車に求められる駆動性能を満たすことが可能とされる。
この新たな空冷構造は日立の研究開発グループとの共同開発によって実現された。冷却機構を簡素化することで、レイアウトの複雑化やコストの増加といった課題の解消にもつながっている。また、本システムには、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によるグリーンイノベーション基金事業/次世代モーターの開発(JPNP21026)の助成事業を通じて開発された、高占積率ながら分解性・リサイクル性に優れる「易解体集中巻コイル」が採用されており、資源循環設計にも対応している。このコイルはモーターの高効率化と資源循環を実現する共通技術として16インチおよび19インチのダイレクト駆動システムにも適用されており、今回12インチモデルが新たに加わることで、さまざまなサイズの電動モビリティへの対応が可能となる。
今回開発された12インチの空冷ダイレクト駆動システムは、2025年5月21日からパシフィコ横浜で開催される「人とくるまのテクノロジー展2025」に展示される。
主な仕様
ホイールサイズ | 12インチ | 16インチ | 19インチ |
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最大出力 | 13 kW | 70 kW | 100 kW |
最大トルク | 370 Nm | 900 Nm | 1700 Nm |
供給電圧 | 400 Vdc | 400/800 Vdc | 400/800 Vdc |
冷却方式 | 空冷 | 油冷 | 油冷 |