「性能が造形を決める」トヨタGR GTの設計思想、その核心とは?

GR GTはトランスアクスル方式を採用する。エンジンから発生したトルクは一度車体後端部まで伝達され、そこから折り返すようにしてデファレンシャルへと送られ、最終的に左右の後輪へと分配される構造である。

2025年12月5日に発表されたGR GTのプロトタイプ車はその後、年が明けて1月の東京オートサロン2026で展示され、タイヤスモークを巻き上げながらデモランを行なった。そのGR GTを間近で観察し、車内に乗り込んだり、エンジン始動〜レーシング(空ぶかし)の迫力を味わったりする機会を得た。

GR GTは1200mmを切る全高にこだわったということだが(全高は1195mm)、あくまでドライバーファーストの設計コンセプトである。背が低ければいいというわけではない。「公道を走るレーシングカー」を標榜するクルマなので、ドライバーがきちんとした運転姿勢をとれることが重要である。

全高は1195mm。単なる低さの追求ではなく、正しい運転姿勢を確保するための“ドライバーファースト”思想から導き出された数値である。

低さだけじゃない、操作系まで徹底した“ドライバー中心設計”

ドライバーズシートに腰を下ろしてみた(筆者の身長は184cm)。低いフロアに直に腰を下ろしている気分である。パッケージング図を見ると、ヒップ(尻)ポイントとヒール(かかと)ポイントがほぼ同じで、フォーミュラカー的なポジション。RECAROのロゴが確認できるシートは太ももの外側、脇、肩口のサポートがしっかりしており(決して窮屈ではない)、強い旋回Gがかかるような状況でも体の軸がぶれることはなさそうだ。

ヒップポイントとヒールポイントがほぼ同一線上に並ぶフォーミュラ的ポジション。RECARO製シートは各部を的確に支え、強い旋回G下でも体軸を安定させる。

ステアリングホイールのグリップは太め。センターパッドの右下にはドライブモードを切り換えるダイヤルが確認でき、パッドの左下にはVSC(Vehicle Stability Control)のオン/オフや介入の強弱を切り換える(?)ダイヤルが設置されている。

センターコンソールには、シフトセレクターを挟んで左右に3つずつ物理スイッチが並んでいる。レーシンググローブをつけていても操作できるよう、スイッチはあえて大きめにしたそう。右下のスイッチは、フロントの車高を上げる機能であることを絵文字が示している。縁石を乗り越えてホテルのエントランスや駐車場にクルマを入れる際に便利な機能だ。カットモデルを確認すると、フロントの減衰力可変ダンパーにだけ、車高を上げるための油圧配管がつながる構造になっているのがわかる。

シフトセレクターを挟んで左右に3基ずつ並ぶ大型スイッチ。右下はフロント車高アップ機能で、可変ダンパーに接続された油圧機構により前部のみを持ち上げる構造となる。

コクピットに座って実感する、視界の良さと安心感

内装デザインは「ドライバーの運転を妨げない室内環境」を狙った。GR GTはサーキット走行を視野に入れているため、視界と安心感、それに包まれ感を重要視したという。Aピラーは断面形状も含めて視界を妨げない工夫を施し、インパネの断面は窓反射が起きないような角度を吟味した。フロントウインドウとインパネの境は水平にしている。これはプロドライバーからの強い要望を受け入れたもの。水平にしたほうが車両の姿勢変化が分かりやすいからだ(逆に言うと、水平でないインパネは姿勢変化がわかりにくい)。

視界と安心感を最優先に設計されたコクピット。Aピラー形状や反射を抑えたインパネ断面、水平基調のウインドウ下端は、姿勢変化を正確に把握するための工夫である。

ドライバーズシートに収まってみると、ボンネットフードの長さが印象に残る。やけに長い。試しに説明員の方に車両の前に立ってもらったが、感覚的には、信号待ちしたときの前のクルマのリヤバンパーくらい遠くに感じる。超高速域で走るときは、この長さが安心感につながるのだろうか。いっぽうで、見切りの良さを確認することができた。

ひときわ長く感じるボンネットフード。その先端は前車のリヤバンパーほど遠くに思えるが、見切りの良さは確保されている。

ペダルはアクセルとブレーキのふたつで(クラッチペダルはない)、どちらも床から生えるタイプで直立している。ブレーキペダルがお好み焼きの切り分けに使うヘラのような幅広形状なのは、左足ブレーキに対応しているからだ。

床から直立するアクセルとブレーキの2ペダル構成(ATなので)。幅広のブレーキは左足操作を前提としたレイアウトである。

「空気をきれいに流す」思想が形に──GR GTエクステリアの核心

エクステリアは性能ファーストであり空力ファーストだ。「空気の流れを整えることが一番の大きなポイント」だと、デザイン担当者は話す。

「Cd(空気抵抗係数)を下げるとか、ダウンフォースを上げるといった単純なことではなく、きれいに後ろに流すことを主体に考えました。それが、運転のしやすさにつながるからです。空力設計側から、こういったコンセプトでこういう形状にしたいという提案をもらい、我々デザイナーがそれを見える化した格好です」

空力最優先で造形されたエクステリア。Cdやダウンフォースの数値追求ではなく、空気をきれいに後方へ流すことを主軸とし、空力側の提案をデザインとして可視化した。

苦労したポイントのひとつに、リヤタイヤの上にある冷却風のインレットを挙げた。ここに冷却風が効率良く流れるような形状を作り込みたいが、同時に、きれいに後ろまで空気が流れるようにもしたい。ボンネットフードやAピラーの形状を含め、相反する要求をバランスさせるのに苦労したという。

リヤタイヤ上の冷却風インレットは、効率的な導風と後方への整流を両立させるために造形を緻密に調整。ボンネットやAピラー形状とのバランスに苦心した。

フロントマスクは、「性能に起因する凄みを野性味として表現したい思いが根底にあった」という。造形ありきではなく、機能が先にあり、その機能を満たしながら造形に生かす考えだ。ノーズの高さと角度は空力設計側からあった提案の中から選択して決定。小さなGRバッジですら冷却風に影響を与えるので、空力設計側から「あまり大きくしないでほしい」と要望があったという。

性能に由来する凄みを野性味として表現したフロントマスク。造形より機能を優先し、ノーズ形状やGRバッジのサイズに至るまで空力要件を踏まえて決定された。

ヘッドライトはパフォーマンスを重視し、最軽量になるユニットで構成。あまり装飾的にはしていない。いっぽう、リヤはプレゼンスを高める意図から、一文字のライティングを採用した。

ドアノブはフラッシュサーフェスを意識。ノブの前側を押すと後ろ側がポップアップし、飛び出した部分をつかんで手前に引くタイプも検討したが(GR GT3のプロトタイプ車はこのタイプを採用している)、GR GTではノブを押し下げてドアをつかみ、手前に引くタイプを採用している。レクサスLFA(初代)で採用したタイプと同種だ。プロトタイプなので今後変更される可能性もあるが、GT3も含め、最終的にはドアを開けるアクションが少なくて済むノブ押し下げタイプとなる模様。

フラッシュサーフェスを意識したドアノブは押し下げ式を採用。LFAと同系統の機構で、開閉動作を最小限に抑える設計とする。

トヨタ初のオールアルミ骨格──GR GTが到達した軽量高剛性の新境地

GR GTはトヨタ初となるオールアルミ骨格を採用した。サスペンションの入力を受け止める部位の骨格は低圧鋳造。前後ともにダブルウィッシュボーン式のサスペンションアームとナックルはアルミ鍛造品である。アーム、ナックル、骨格ともに、設計可能な領域のなかで与えた条件を満たしつつ、最も効率的な形状を導き出すトポロジー最適化技術を用いて開発したという。3Dプリンターを使えば複雑な形状も実現可能だが、鍛造と(中子を用いた)鋳造なので、作りの観点も条件に加えて最適化している。

トヨタ初のオールアルミ骨格を採用。低圧鋳造の骨格とアルミ鍛造アームを組み合わせ、製造条件も織り込んだトポロジー最適化で形状を導き出した。

その結果、アーム類は従来手法で設計するより細く、軽くなったという。骨格は断面を稼いで剛性を確保するためと、軽量化を両立するため中空構造とした。サスペンションの入力を受け止めるアームの締結点まわりは強度を確保するため肉が厚くなっていたり、柱が立っていたりするのが見てとれる。

最適化の結果、アームは従来比で細く軽量化。骨格は中空構造で剛性と軽さを両立し、締結部周辺は肉厚や補強柱で強度を確保する。

GR GTのために専用開発した4.0L V8ツインターボエンジンは、車室内にいる乗員の耳に届くサウンドだけでなく、外に向かってもいい音を発するようチューニングがなされた。乗っている人だけを気分良くするならオーディオスピーカーから演出音を流す手もあるが、開発陣はそれで良しとしなかったのである。好みはあるだろうが、迫力あるサウンドを発することだけは間違いない。アクセルオフしたときのバブリング音(破裂音)が特徴だ。

専用開発の4.0L V8ツインターボは、車内外に響く本物のサウンドを追求している。

公開されたのはプロトタイプ車のため、GR GTの量産仕様が登場したあかつきには、投入される技術も見た目も異なる部分があるかもしれない(その可能性は高い)。そうであっても、ただ者ではないパフォーマンスを備えて登場することだけは確かだ。