2010年代、マツダデザインには勢いがあった
魂動デザインを主導した前田育男氏がマツダのデザイン本部長に就任したのは2009年。それ以降、同社は意欲的なコンセプトモデルを矢継ぎ早に発表していく。
たとえば、
2010年「勢(MINAGI)」 → 初代CX-5へ発展
2010年「靭(SHINARI)」 → 魂動デザインのビジョンモデル
2011年「雄(TAKERI)」 → MAZDA6(アテンザ)へ昇華
2014年「跳(HAZUMI)」 → MAZDA2の原型
という具合だ。

そして2015年、フランクフルト・モーターショーで世界初公開されたのが「MAZDA 越(KOERU)」である。
当時のプレスリリースでは、このクルマをこう説明している。
「マツダ越(KOERU)は、マツダの新世代技術SKYACTIV技術およびデザインテーマ『魂動 – SOUL of MOTION』を全面採用しながら、スポーティで洗練されたスタイリングと走りを実現したクロスオーバー」
KOERUという名前には、既存の概念や枠組みを“越える”新しい価値を提供したいという想いが込められていた。








コンセプトを最も色濃く受け継いだのは中国専用SUV「CX-4」

その3年前の2012年には、魂動デザインを全面採用した初の市販車、初代CX-5が登場している。プレスリリースでは、そのデザインをこう説明している。
「獲物に飛びかかろうとするチーターを彷彿とさせる、生命力と躍動感を研ぎ澄ませたスタイリング」
この流れを見ると、
2012年:初代CX-5
2015年:コンセプトカー「越(KOERU)」
2017年:2代目CX-5

となるため、KOERUが2代目CX-5へ発展したようにも見える。
しかし実際には、その間にもう一台のモデルが存在する。




2016年に登場した MAZDA CX-4 だ。
このクルマこそ、越(KOERU)のコンセプトを最も色濃く体現した市販モデルと言える。
CX-4は中国市場専用車で、一汽マツダによって開発・生産・販売されたクロスオーバーSUV。プラットフォームはCX-5と共通だが、クーペのように低く構えたプロポーションが特徴である。
ボディサイズを比較してみよう。
MAZDA CX-5(初代・2012年)
全長×全幅×全高:4540mm×1840mm×1705mm
ホイールベース:2700mm
MAZDA KOERU(2015年)
全長×全幅×全高:4600mm×1900mm×1500mm
ホイールベース:2700mm
MAZDA CX-4(2016年)
全長×全幅×全高:4633mm×1840mm×1535mm
ホイールベース:2700mm
MAZDA CX-5(2代目・2017年)
全長×全幅×全高:4545mm×1840mm×1690mm
ホイールベース:2700mm





こうして並べると、CX-4がKOERUのパッケージングに最も近いことがわかる。
とくにサイドシルエットを見ると、低い全高と長いノーズ、後方へ流れるルーフラインなど、KOERUのクーペライクなクロスオーバーデザインを色濃く受け継いでいるのが明らかだ。
つまり、魂動デザインのクーペSUVというアイデアは、コンセプトカー「越(KOERU)」から中国専用モデルCX-4へと結実したのである。
日本ではなぜ発売されなかったのか
これだけ完成度の高いモデルでありながら、CX-4は中国専用車として登場し、日本や欧州では販売されなかった。
理由のひとつは、中国市場におけるSUV需要の大きさだ。当時、中国ではSUV人気が急速に拡大しており、各メーカーが中国専用SUVを投入していた。マツダもその流れの中で、クーペSUVという新しい提案を中国市場向けに投入したのである。
結果としてCX-4は中国で一定の成功を収め、魂動デザインの新しい表現として存在感を示すモデルとなった。
もしCX-4が日本市場にも導入されていたら──。
そう想像してしまうほど、「越(KOERU)」のコンセプトは魅力的なものだった。





