連載

GENROQ BMW Mの軌跡

M5

1985年1月に発表された初代

E28型BMW M5
クロームパーツをブラックアウト化するとともに、前後に専用のスポイラーを装着した。

「6シリーズ」に「M1」譲りの3.5リッター直6DOHC M88/3ユニットを搭載した「M635 CSi」は、BMWモータースポーツ社のコンプリートカーの方向性を決定づけることとなった。そしてその成功を受ける形でE28型「5シリーズ」をベースに1984年末から開発が始まり、1985年1月に発表されたのが初代「M5」である。

その誕生の背景には、よりパワフルなサルーンを求める市場の声があったのは事実だが、そのほかには当時のエバーハルト・フォン・クーンハイム社長がターボを装着した特別仕様の「745i」で移動する際、護衛の5シリーズ(当時はまだ東西冷戦下であったため、要人は高速かつ安全に移動することが必要であった)が伴走できず、よりパワフルな5シリーズの開発を命じたというエピソードも残されている。

M635CSiに遅れることわずか0.1秒

E28型BMW M5
M1用をルーツとする3.5リッター直6DOHC24バルブM88/3ユニット。

E28型5シリーズのトップグレードとして、3.5リッター直6SOHC12バルブを搭載する「535i」が用意されていたが、M5に搭載されたエンジンはM635CSiと同じ、M1用をルーツとする3.5リッター直6DOHC24バルブM88/3ユニットであった。

BMWモータースポーツ社でハンドビルドされるこのエンジンは、M1用のM88/1ユニットが油圧タペットを使っていたのに対し、構造がシンプルなシム式を採用。また圧縮比を9.1から10.5へ引き上げるとともに、フューエルインジェクション・システムを機械式のクーゲルフィッシャーから電子制御のボッシュ・モトロニックへ変更するなど、扱いやすさを重視したものにリセッティングされていた。

最高出力は286PS/6500rpm、最大トルクは340Nm/4000rpmと、スペック自体はM1とほぼ同じ(1PSと9.8Nmのアップ)。もちろんサルーンゆえ車重は1430kgと重いものの、最高速度245km/h、0-100km/h加速6.5秒と、218PSの535i(MT仕様)の最高速度230km/h、0-100km/h加速7.2秒を大きく上回る、当時としては破格のパフォーマンスを発揮したのである。ちなみにその0-100km/h加速はM635CSiに遅れることわずか0.1秒でしかなかった。

スポーティなキャラクターを際立たせる演出

E28型BMW M5
強化スタビライザーやビルシュタイン製スプリングとダンパーが採用された。

一方、シャシーはフロアパン、フロント・ストラット、リヤ・セミトレーリングアームのサスペンションなど基本構成は5シリーズと同じだったものの、パワーアップに伴い、スタビライザーの強化、ビルシュタイン製スプリング、ダンパーの採用。さらにLSDの装着やブレーキの強化といった対策が施されていた。

あわせてボディもクロームパーツをブラックアウト化するとともに、前後に専用のスポイラーを装着。M5のエンブレムも前後に貼り付けられ、過度に強調しすぎないものの、Mモデルとしてのキャラクターを際立たせるスポーティな演出がなされていた。またタイヤサイズも220/55VR15へと変更。ホイールはBBS製のアルミホイールが奢られている。

オプションでスポーツシートも

インテリアはE28型をベースとしながらも、レザーを多用した高級感あふれる仕立てとなり、オプションでMの刺繍と電動調節機能がついたスポーツシートもセレクトできるようになっていた。なおギヤボックスは専用のM-Power 5速MTのみの設定となっている。

ハイスペック故、クラッチが重いなどの癖はあったものの、その高いパフォーマンスと実用性を両立した内容は好評をもって迎えられた。その後5シリーズが1988年にE34型へモデルチェンジしたこともあり、E28型M5の生産は2年ほどにとどまったが、その間に2145台が生産され、メーカー謹製のスーパーサルーンという新たなジャンルを切り開くパイオニア的存在となったのである。

M635CSi

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