北米向けモデルを国内に導入! 完全新設計180㏄スクーター

「シグナス180」。この車名を出すと、「シグナスに180なんてあった? 150(※1)は聞いたことあるけれど……」というくらい、令和のバイク乗りの記憶から消えかかっているモデルである。

発売は1982年で、当時はRZ250や400㏄4気筒スポーツ車がメインになりつつあった時代。日本のバイクシーン全体が高性能化に突き進んでいた。

そうした中、OHVという高回転高出力化とは真逆をいくエンジンを採用して登場した「シグナス180」に、当時のユーザーは興味薄目・・・・・・。 日本国内では唐突な登場であったのだが、海外に目を向けると事情が分かってくる。同車は巨大市場のひとつ、北米のニーズに応えたモデルだったのだ。


当時の北米ではスクーターの利便性が認知され、体格の大きなユーザーはよりパワーや車格のあるモデルを求めていた。そこでヤマハは北米市場の要求に対応すべく、完全新設計の180㏄スクーターを発売(ちなみにホンダは「エリート150」という水冷エンジン搭載のスクーターを発売していて、日本国内では「スペイシー125ストライカー」としてデビューしている)。その後、北米モデルは200㏄に排気量を拡大。ホンダからは排気量250㏄の「フリーウェイ」や「フュージョン(北米名ヘリックス)」が登場する。

時代を先取り! エンジンは横置きシリンダーレイアウトを採用

そんなシグナス180に採用したエンジンは、シリンダーを大きく前側に寝かせた、いわゆる横置きエンジンレイアウトを採用したのもトピック。今日では低重心化や前後重量配分の最適化のため、スクーターでは一般的に採用されているシリンダーレイアウトだが、当時は画期的だった。

また、駆動系に目を向けるとクラッチには初代「TMAX」や「CZ125」にも採用されている乾式多板方式を採用。

さらにエンジン振動低減においては、エンジン懸架をホンダスクーターのように防振リンクを介さず、直接フレームにマウントしており(ゴムブッシュはかましているが……)、振動対策は一軸バランサーで行なうという機構を採用。これにより車体剛性が高まっているのは確かで、フリーウエイと乗り比べれば(フリーウェイは重心高めの縦型エンジンをリヤ寄りに配置、リンクを介してエンジンを結合している)、低重心&剛性の違いが分かる。


こういった先進、というかチャレンジングだった機構は、のちに横置き水冷2 ストエンジンを搭載したCZ125トレイシーや、振動を抑えるためダミーピストンを設定しエンジンをフレームと剛結合した初代「TMAX」に受け継がれ、ヤマハのスクータースポーツコンセプトの根幹を形作ったといえるだろう。

※1 シグナス150: 1992年に登場。4スト水冷149㏄エンジンを採用した台湾ヤマハ製。ホイールサイズは前後10インチ。

シリンダーヘッドの大きさ制約からやむなくOHVに?

しかしなぜ、当時先進のOHC(Overhead Camshaft)でなくOHV(Overhead Valve)を採用したのか。

それは足元スペースの確保および車体のスリム化のために、OHCに比べてシリンダーヘッドがコンパクトなOHVを採用したのではないかと思われる。もしOHCであれば、本車の評価は変わっていたかもしれない。

ちなみにこのOHVエンジン、往年のアメ車のように低回転でドロドロと走るというよりも、ブン回して乗る特性。回すと独特の「動いてる感」があり、これを鼓動感と呼ぶかどうかは人それぞれだが、筆者は好きなエンジンフィールだ。

高性能化の一途をたどっていた当時、日本でアピールできる高性能スペックがなかった同車は日本でこそあまり人気が出なかったが、北米ではのちにデジタルメーターを装備したデラックスや、排気量をアップした「RIVA200」などが出て、長く生きながらえた。

このシグナスとう車名とスポーツスクーターDNAは、「シグナスX」にもしっかりと継承されていく。

1982年登場

ヤマハ

シグナス180

SPECIFICATIONS
■エンジン:空冷4スト単気筒171㏄ 
■最高出力:15㎰ /7300rpm 
■車重:108㎏
■当時価格:28万9000円

著者紹介:佐藤大介  

ギョーカイ歴も長くマニアックな小排気量車が大好物。通勤はTMAX、週末のツーリングはヴェクスター150という、間違った? 使い方も得意だ。

※この記事は月刊モトチャンプ2023年1月号を基に加筆修正を行っています