エアバッグ搭載という革新がもたらす新たな価値

ヤマハが投入した新型トリシティ300は、単なるモデルチェンジの枠を超えた存在である。最大のトピックは、同社初となるライダー用エアバッグの採用だ。二輪・三輪モビリティにおいてエアバッグは長らく装備として一般化してこなかったが、このモデルでは車体側に統合される形で実現された。 

このエアバッグは前方衝突時に作動し、ライダーの前方への投げ出しを抑制する役割を持つ。センサーが減速度を検知し、一定の条件を満たした際に展開する仕組みであり、後方や側面衝突、転倒では作動しない設計となっている。 

従来、二輪車の安全性はライダーの装備に依存する部分が大きかったが、車両側で安全を補完するという思想がここで一気に進んだ。通勤用途を主軸とするトリシティ300において、この機能は心理的な安心感をも大きく高める装備と言える。

三輪構造と電子制御が生む高い安定性

トリシティ300の核となるのは、ヤマハ独自のLMW(Leaning Multi Wheel)機構だ。前二輪が独立して路面を捉えながら傾くことで、通常の二輪車よりも高い接地感と安定性を実現している。 

この構造に加え、新型では電子制御も大きく進化した。特に注目すべきはコーナリングABSの採用で、IMU(慣性計測装置)によって車体姿勢を検知し、旋回中のブレーキングでも安定した制動を維持する。 

さらに、前後三輪を統合して制御するUBS(ユニファイドブレーキシステム)も組み合わされ、ライダーの操作負担を軽減しつつ高い制動性能を確保する。三輪という物理的安定性に加え、電子制御による安全性が重層的に構築されている点が特徴だ。

TFTメーターとナビ連携が変える日常移動

装備面では、デジタル化の進展が顕著だ。右側に4.2インチTFTディスプレイ、左側に2.8インチLCDを配置し、視認性と情報量を両立した構成となる。 

スマートフォン連携にも対応し、専用アプリを通じて通知や音楽、通話機能を扱えるほか、Garmin StreetCrossナビゲーションを統合。リアルタイム交通情報や天候、目的地案内までを一体化し、都市移動の効率を高めている。 

日常の足として使うユーザーにとって、単なる移動手段から“情報端末化したモビリティ”へと進化した点は大きい。特に都市部では、ナビと通信機能の統合が利便性に直結する。

実用性と快適性を両立した都市型パッケージ

パワーユニットは292ccの水冷単気筒Blue Coreエンジンを継続採用し、ユーロ5+に適合。十分な動力性能と燃費性能を両立する仕様となる。 

実用面では、容量45リットルのシート下収納を備え、フルフェイスヘルメット2個を収納可能。13リットル燃料タンクと相まって、通勤から日常使用まで幅広く対応する。 

また、停止時に車体を支えるスタンディングアシスト機構やスマートキー、パーキングブレーキなども備わり、三輪ならではの扱いやすさがさらに強化されている。 

価格は欧州で9499ユーロから、エアバッグ仕様は1万299ユーロとされ、2026年6月の市場投入が予定されている。 

新型トリシティ300は、三輪スクーターの「安定性」という従来価値に、「車両側で守る安全」という新たな軸を加えたモデルである。エアバッグという革新を核に、電子制御、デジタル装備、実用性を高次元で融合させたこの一台は、都市モビリティの次の標準像を提示している。