宗谷岬より北に位置する島で

筆者(伊藤英里)はこれまでに2度、マン島に行ったことがある。もちろん、現存する世界最古の二輪レースである、マン島TTレースのためだ。

1回目は2023年のことで、このときは一人の観客としてマン島TTレースを見ていた。2回目は2025年で、メディアとして取材をした。顔見知りのMotoGPジャーナリストがメディアセンターにいて驚いたが、彼はイギリス人なのでそれはそうか、と思った。その後、別のイギリス人ジャーナリストは「僕はマン島に行ったことがない」と言っていたので、やはりイギリス人といってもマン島TTレースを取材するのかは人によるのだろう。

今年もマン島TTレースが、イギリスの西に浮かぶマン島で開催されている。はるか遠くのマン島から飛んでくる情報によれば、どうやら天候がよくないらしく、かなりスケジュールが変更されているらしい。筆者も昨年のマン島TTレースでは、初めてスケジュールのディレイと変更と、中止の洗礼を受けたものである。

天候がよくない日が続くこともあるが、それ以上につらいのは、寒さである。マン島は日本最北端である北海道の宗谷岬よりも北にある。それにしては海流のおかげで気温が低くはないのかもしれないが、6月でもヒーターが手放せないほどに寒いし、外出時には冬用コートを着る。

朝起きるなり「寒い、寒い」と震えている筆者に、ホストマザーは「そういうときは、これだよ」と掃除機を手渡してきたこともある。どうやら「動いて暖まりなさい」ということらしい。その家に泊まる宿泊者たちの多くはイギリス人だったが、まったく平気な顔をしてイングリッシュ・ブレックファストを食べていた。彼らはバイクでマン島に来て、このあとレースを見に出かけるのである。なぜ寒くないんだろう。と、ひたすら疑問に思ったものだ。

じつはこうした経験はマン島だけではなくて、フランスのル・マンやイギリスのスウィンドンでもあった。彼らは一様に「日本人には寒いだろうから」と、ヒーターを持ってくる。ということは、彼ら自身は寒くないのだろうか。

初めて食べる魚料理に舌鼓

マン島と言えば、印象に残っている食事がある。西海岸の港町、ピールにあるレストランで食べた魚料理だ。

マン島はイギリス王室属独立地域であり、イギリスではない。ただ、イギリスにとても近いし、話される言語は英語である。だからというわけではないが、筆者はてっきり、「あまり食事には期待ができないのかなあ」と思っていたのだ。イギリスの食事は、あとから自分で味付けをするスタイルなので、出汁文化で育った日本人には味がないように感じる。あとから味付けをしても、いまひとつ物足りないのである。

ただ、2023年にピールのパブで食べた魚料理は絶品だった。ニシンの燻製は脂がのっていてとてもおいしい。日本でいう干物に近いのだが、これと同じお皿にパンが乗っているのがおかしい。マン島の人にはおかしくはないのだろうけれど、日本人としては白米がほしくなる味である。それから、「クイニーズ」というホタテをベーコンとバターで炒めた料理。これが本当においしかった。パンにもよく合う(白米を欲さずにすんだ)。

「マン島のごはん、おいしいなあ」と、感動したパブめしである。クイニーズは、今でもたまに食べたくなる。

左がニシンの燻製。右奥にあるのがクイニーズ©Eri Ito
港町ピールのパブ©Eri Ito

その2年後に、機会があって少しかしこまったレストランで食事をした。このときも魚料理がメインで何度か出た。海沿いのレストランだったからかもしれない。やけにおしゃれなフィッシュ&チップスが出てきた。

筆者はMotoGP取材の合間、イギリスに滞在していた時間がいちばん長いのだが、ほとんど外食をしたことがない。外食をするときは、日本食レストランに行ってしまう。なにしろ、円安だ。しっくりと舌に合わないかもしれない料理に、1食5000円もかけられない。もちろん、美味しいレストランもあるだろう。ただ、探し当てるくらい食費をかけられなかった、というのが本音だ。ロンドン在住の日本人におすすめのイギリス料理レストランを尋ねたこともあるが、「外食するなら、中華街に行って中華料理を食べる」と言っていた。

だから、マン島の雰囲気のいいレストランで提供されたフィッシュ&チップスを見て、「こういうフィッシュ&チップスもあるのか」と驚いた。付け合わせのタルタルソースとの相性がいい。フライドポテトではない「チップス」も美味だった。このレストランでは何度か食事をする機会があったけれど、どれも美味しかった。こう言ってはマン島に悪いけれど、どうにも肩すかしを食らった気分である。思い出すくらいには、美味しかったから。

もしまたマン島に行くことがあれば、クイニーズを食べたいなと思う。そして、今度は別の料理も食べてみたい。現金なものだが、美味しい食事のことを考えていると、寒さにうんざりしていたことを忘れてしまうのだった。

おしゃれなフィッシュ&チップス。サイズ大きめなので、これだけでおなかいっぱいになる©Eri Ito
白身魚のバターソテー。身が肉厚でこれも美味。味付けもしっかりしている©Eri Ito
前菜のサーモンもおいしい©Eri Ito