Aston Martin Valhalla
まずはハイブリッドの仕組みから

アストンマーティン初のAWDミドシップPHEV「ヴァルハラ」。超弩級の性能を持つハイパーカーであるが、特に重要なのは、初の3モーター、初の8速DCT、初の本格アクティブエアロという「初物づくし」である点だ。つまりヴァルハラは単なる999台限定車ではなく、アストンマーティンの転換点であり次世代技術のショーケースといっていい。本稿では、先日アップした試乗記ではカバーできなかった技術的注目ポイントを解説する。
まずはハイブリッドパワートレインだ。ミドに搭載されるAMG製4.0リッターV8ツインターボエンジン、フロント左右の独立したP4モーター、そしてリヤのDCTに内蔵されるP2.5モーターを統合制御していることが特徴だ。ハイパフォーマンスバッテリー(HPB)と呼ばれる高性能バッテリーこそエンジンと同じくAMG製を採用したというが、そのほかのモーター、インバーター、充電ユニットなどすべて専用で完全新設計だという。高性能バッテリーのHPBは560個に分割されたセルが絶縁オイルに浸される構造だ。高い冷却性能によって短時間で大量のエネルギーを出し入れしても負荷が少なく、ヴァルハラの本籍とも言えるサーキット走行に適しているという。
P2.5モーターとはP2とP3の長所を兼ね備えると説明された。一般的にP2ハイブリッドはエンジンとトランスミッション間にISG(インテグレーテッドスタータージェネレーター)を配置し、クラッチで出力を断続する方式で、この場合パワートレイン全長が長くなる。一方のP3ハイブリッドはトランスミッション内(またはトランスミッションより下流)にモーターを配置する方式となる。ヴァルハラではモーターをトランスミッション内部に組み込むことで、ホイールベースを延長することなくギア駆動のメリットを活かすという。
ちなみにフロントのP4とはエンジンから完全に独立したモーターのことだ。ヴァルハラには、ラジアルフラックス型内部永久磁石モーターが採用され、左右独立してトルクベクタリングを行う。フロントモーターは低速域のみ作動するというハイパーカーが多い中、ヴァルハラは350km/hまでの全速度域で機能するよう設計されているという。これが高速コーナーでの安定感につながっていることは、ナバラサーキットで実証済みだ。
重要な要素としての制御技術

そもそもアストンマーティンが電動化する目的とは「環境ではなく性能」である。これは技術陣がプレゼン中に「ヴァルハラは単なるハイブリッドではない」と何度も繰り返していたように、あくまでCO2削減が目的ではなく、アクセルに対するレスポンス、トラクション、コーナリング、加速性能のために電動化を取り入れているということだ。
エンジンとモーターの協調による高性能だが、人間が違和感なく速さを感じる制御を目指したという。だから数値的な性能よりも、ドライブフィールに“自然なフィーリング”を与えることが最終的な目的ということだ。つまり環境のためでも性能のためでもなく「感覚のため」なのが、なんともアストンマーティンらしい。
その目的を実現するための重要な要素が「制御技術」だ。ヴァルハラをメカニカルなスーパーカーというより、ソフトウェア制御時代のアストンマーティンだと感じさせるのは、前述した最終目的のために電子制御を徹底的に煮詰めているという点だ。開発陣がプレゼン中に繰り返し述べていたのは、「すべてが統合制御されている」ということだ。トルクベクタリング、AWD制御、DCT、回生ブレーキ、アクティブエアロ、エアブレーキ、ESPなどすべてをリアルタイムに制御することで、運転操作と車両の挙動の一致を重視したという。
かつてのピュアなレーシングカーを目指して

たとえばフロントのトルクベクタリングによってグリップは向上するが、それを高めすぎると人工的な感覚になる。ドライバーが感じる限界点と実際のグリップが乖離しないように、性能と自然なフィーリングのバランスを取ることに腐心したという。正確にコントロールできるという感触が、ドライバーに自信を与える性能を生み出すのだ。技術説明でチーフエンジニアは「人工的なグリップ感を避ける」「スリップアングルを感じさせる」「わずかなロールを残す」「自然な限界感を保つ」といったことを強調していたが、つまり彼らは電子制御で人間らしさを消さないことを重視したのだ。これらは、1000PS級ハイパーカーがもたらす超人的速さだけでなく、むしろかつてのピュアなレーシングカーの乗り味を最新のテクノロジーを使って再現することを狙っているという印象だ。
フロント左右トルクベクタリングの他にも、AWDらしく前後トルク配分(フロントへ最大25%)のアクティブ制御を組み合わせている。コーナー進入で回頭性を制御し、ブレーキ操作に応じてヨーを調整するという。コーナリング中は安定してラインをトレースし、立ち上がりではRWD主体に戻り、自然なスリップを伴う加速を実現するという。ESP作動時もブレーキではなくトルク制御で姿勢を補正するので減速せずに安定性を確保する。
さらにブレーキ制御にも大きな特徴がある。フロントは大径カーボンブレーキに加え、回生ブレーキとの統合制御を行う。これにエアブレーキとトルクベクタリングが組み合わされることで、減速時の安定性と直進性が高まるという。
デザインはロードカーとしての重要な性能

ヴァルハラのデザインテーマは“二面性”だという。アストンマーティンなのだから今さらその美しさを解説する必要はないだろうが、プレゼンで面白かったのはラグジュアリーとテクノロジーを明確に分離していた点だ。具体的には、その造形とカラーリングが美しさや官能性を表現しているのに対して、カーボンファイバーパネルが機能性を表現しているという。空力だけの機能性を重視したレーシングカー的ではなく、アストンマーティンらしい美しさとF1のような機能性の融合を狙った。これによってヴァルハラは、非日常的ハイパーカーではなく、ロードカーとして成立することを強く意識したように感じた。
ロードカーにとっては、インテリアも重要な要素だ。低い着座位置と横長のフロントウインドウは、まるでLMPマシンのような視界をもたらす。これは従来のアストンマーティン車よりもはるかにスポーティな印象だ。スポーツカーで重要なのは腰と足の位置関係で、車両の中心に座っている感覚が一体感を生み出し、車両の挙動を感じ取りやすくなる。もちろん“透明感”を追求したという操舵感も重要な要素だった。
一方で乗り心地も重要だ。カーボンモノコックは高剛性だが、そのぶんサスペンションの入力を正確に受け止めてしまう。さらに、通常、ダウンフォースが大きいほど硬いスプリングを必要とするが、ヴァルハラではアクティブエアロによってダウンフォース量をコントロールできるため、比較的柔らかいサスペンション設定が可能になったという。
ヴァルハラの到達した新境地

見た目は極端なハイパーカーだがロードカーとしてもっとも重要なのは、公道における乗り心地、視界性能、快適性、安心感だ。つまり「ヴァルキリー」のような“極端さ”ではなく、F1技術を日常で使える形に翻訳したことがヴァルハラの到達した新境地だ。複雑な電動制御技術を使いつつ、それを人間に自然で感性的な体験として成立させた、アストンマーティンの新世代ミドシップスーパーカーがヴァルハラなのである。
SPECIFICATIONS
アストンマーティン ヴァルハラ
ボディサイズ:全長4727 全幅2014 全高1161mm
ホイールベース:2760mm
車両重量:1655kg(Dry)
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:4.0リッター
エンジン最高出力:828PS
エンジン最大トルク:857Nm/6700rpm
モーター最高出力:251PS
システム最高出力:1079PS
システム最大トルク:1100Nm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前プッシュロッド式インボード 後5リンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前285/30ZR20 後335/30ZR21
0-100km/h加速:2.5秒
最高速度:350km/h
車両本体価格:1億2890万円

