車が象徴する力・支配・権力

1999年の航空機ハイジャック事件、そして2001年のインド国会議事堂襲撃事件――相次ぐテロに揺れるインド政府が極秘裏に発動させたのは、かつてない規模の潜入捜査<ドゥランダル作戦>。そのミッションは、パキスタンの都市カラチで最も危険な地区リヤリに巣食う最凶ギャング組織から、事前にテロの情報を掴むことでした。
そんな最高難度の任務に選ばれたのが、死刑囚ハムザ(ランヴィール・シン)。身分を偽り組織に入り込んだ彼は、血塗られた抗争と裏切りの連鎖に巻き込まれながら、徐々に組織の中枢へと迫っていきます。しかし、その先に待っていたのは、国家を揺るがす巨大な陰謀だったのです。任務か、信念か……逃げ場なき極限の中、彼が下す決断とは?
2部構成の前編となる本作では、登場人物同士の力関係や支配・権力の構図が丹念に描かれます。その“力関係”を表す重要なファクターの一つが、さまざまに登場する車たち。映画冒頭、まず映し出されるのはテロリストたちが乗る、ヒンドゥスタン・モーターズのアンバサダー。1950年代から2010年代まで製造された、タクシーでお馴染みのインド車です。

主役のランヴィール・シンを食いかねないカリスマ性たっぷりのギャングの長、レヘマーン・バローチを演じるのは実力派のアクシャイ・カンナー。普段の愛車は70年代製のフォード・ゾディアックMk4のようですが、砂漠地帯に出向く際に乗っているのはトヨタ・ランドクルーザー(60系)のラフなカスタム車。このあたりのメリハリに本作のリアルさがあり、おかげで物語にのめり込むことができます。

かたや中盤あたりで登場する、ベテラン俳優サンジャイ・ダット演じるアスラム警視は正反対の嗜好。貫禄たっぷりにレクサスのLX470に乗り、真っ白な車体と真っ白な衣装でタダモノではないオーラを放ちます。そして主人公のハムザが満を持して乗るのが、いすゞ D-MAX。仕事車として複数台登場するD-MAXは“クラッシュ専用”的なポジションでもあり、飾らず汚れ仕事をこなすハムザにぴったりです。
206分という長尺ながら章立ての構成でダレる瞬間を一切作らず、実際の事件をベースにしているだけあってバイオレンス描写も容赦ない本作。それでもしっかりダンス&ソングシーンがあり、その後の衝撃的なクライマックスに向けての怒涛のアクション展開は、文字通り息をするのも忘れるほどの緊張感に満ちています。ぜひ、そんな物語の端々に必ず映り込んでいる、車たちが象徴するものをイメージしながら観てみてはいかがでしょう。