ボンジョルノ!在イタリア・ジャーナリストの大矢アキオ ロレンツォです。

今回は2026年のミラノ・デザインウィークでフィアットが公開した学生プロジェクトをファイナリストの語りとともにお伝えします。

メンターにジウジアーロ氏も

フィアットは2026年4月21日から26日に開催されたミラノ・デザインウィーク期間中「CIAO FUTURO(チャオ・フトゥーロ=こんにちは未来)!」と題した企画を、トルトーナ地区のイベントスペース「マーニャ・パルスMagna Pars」で公開しました。

ブランドのDNAを軸に、都市モビリティーの先駆けとしての歴史と未来を辿るのが趣旨で、核となったのは、デザインスクール「IEDトリノ」と「ISIAローマ」の学生を対象にしたコンペティションのファイナリスト作品公開でした。

フィアットのデザイン統括を務めるフランソワ・ルボワン(François Leboine)が提示した課題は、「あなたと家族や友人が、日々必要な場所へ、賢く楽しく、そして持続可能に移動できる、手の届く解決策を描いてほしい」というものでした。審査にはフィアット車のデザイン開発に携わったジョルジェット・ジウジアーロ(Giorgetto Giugiaro)も加わりました。

フィアットCEO兼ステランティス・グローバルCMOのオリヴィエ・フランソワ(Olivier François)は、名設計者ダンテ・ジャコーザ(Dante Giacosa : 1905-1996)の「車は洗練される前に、まず有用であるべきだ」という言葉を引用し、「その考え方は、今日ますます重要になっています。人々が求めているのは、より大きく、より複雑な車ではありません。明確で、意味のある答えなのです」とコメントしました。

プロジェクト3作は、ジャコーザが手掛けた1957年フィアット「ヌオーヴァ500」、ジウジアーロによる初代「パンダ」、そして現行「トポリーノ」の新バージョン「スポルト」に囲まれるかたちで発表されました。

1957年フィアット「ヌオーヴァ500」
初代フィアット「パンダ」
フィアット「トポリーノ・スポルト」

以下がファイナリストによる3つのコンセプトです。

「ルーモ・スー・ミズーラ(LUMO SU MISURA)」 
エレットラ・カプッジ(Elettra Cappugi) ✕ダニエル・サヴィウク(Daniel Saviuc) IEDトリノ
カスタマイズ性を基本に設計されたモジュラー型ヴィークル。キャンパーやMPVなど、ユーザーが過ごす時間に合わせて進化します。アクセサリーは購入/レンタル、新品/再生品の選択が可能で、バイオプラスチックや天然繊維などを活用して環境循環性を高めます。

「ルーモ・スー・ミズーラ」。
ルーモ・スー・ミズーラのスケッチ。Photo:Stellantis
ルーモ・スー・ミズーラのブース。Photo:Stellantis

「フィズ(FIZZ)」 
ガブリエレ・メノッツィ(Gabriele Menozzi) IEDトリノ
効率的な移動だけでなく、目的地までの時間をどう過ごすかにも着目したコンセプト。 駐車した際、人が集い休憩できる場所に変わるというアイディアです。ネーミングは同名のノンアルコール系アペリティフにちなんだもので、それを嗜むときの人々の社交性に思いを馳せています。

「フィズ」
フィズのブース。Photo:Stellantis
フィズのスケッチ

「イッポ(IPPO)」  
ルカ・ディ・トント(Luca Di Tonto) ✕アレッシオ・ヴァスタ (Alessio Vasta) ISIAローマ
自動車を単なるモビリティ・ツールとしてではなく、小さな町の生活リズムに寄り添う「場所」として捉え直したコンセプトです。車を公共空間の延長として位置づけ、人と人のつながりやコミュニティ意識を育むという、より人間的で共有されたモビリティの姿を提案しています。

「イッポ」

製作を通じて学んだもの

上記3作の中で、筆者は「イッポ」を手掛けたルカ・ディ・トント(2003年生まれ)とアレッシオ・ヴァスタ(2003年生まれ)に、開発の背景とそこから得たものについて振り返ってもらいました。いずれもISIAのプロダクト&システムデザイン学科に在籍する学生です。

Q.自動車デザインの道を選んだきっかけは。

ディ・トント :  子供の頃から抱いた2つのパッションが重なる場所が自動車デザインでした。車や機械そのものへの情熱と、自分のアイデアを現実の形に変えられるという「創造すること」への熱意です。車は私たちの生活に関わる存在です。それをより良くするデザインができることに強く惹かれています。

ヴァスタ : 僕の場合も自動車への愛着は子供時代からでした。父と車に乗っているときはいつも、通り過ぎる車を見て「あれは何という名前?」と聞いていました。各車の特徴に、ひたすら惹かれていました。高校時代から始めたデザインの勉強を通じて、その熱意は本格的な関心へと育っていきました。

ルカ・ディ・トント(左)とアレッシオ・ヴァスタ(右)

Q. 課題が提示されたのは、いつでしたか。

ヴァスタ : 2026年2月でした。 条件は全長3.5メートル以内の小さなシティカー。価格は1万5000ユーロ以下。乗車定員は4名。強いイタリア的な個性、そしてフィアットの歴史も反映させることでした。


Q.その中で 「イタリア的な個性」とは何だと思いましたか。
ヴァスタ :
イタリアの小さな町では、人々がお互いを知っていて、道端で出会う光景を思い浮かべました。そこで私たちは、この車を人々が出会い、交流を助けるための場に変えようと試みました。

Q.具体的に、どのようなアイディアを盛り込んだのですか。
テールゲート開放時に、後席バックレストを逆方向に倒すのと、座面をテールゲート側へスライドさせるのをワンタッチで行える機構です。これによって後方を向いた状態で座れるようになり、車は外部の人と交流するための空間へと変わります。

Q. イッポとはイタリア語で動物のカバippopotamoを連想させます。命名の由来は。

ヴァスタ : 初期のスケッチから少し後に出てきたものでした。ミラーなどのディテールを加えていく中で、カバに似ていることに気づいたのです。

Q. 今回のプロジェクトから、何を学びましたか。

ディ・トント : 私たちはしばしば複雑なアイデアや解決策を追い求めるあまり、シンプルなものを見落としてしまうことがあることに気づきました。シンプルであることこそが、最も効果的であることが多いのです。フィアット車はその好例で、究極の例がジウジアーロによる初代パンダです。実践的かつ機能的に考え、使う人のニーズに向き合うことを心がけることの大切さを学びました。

ヴァスタ : 第一にシンプルさ”は“平凡さ”とは異なるということです。強い意味合いと熟考に支えられたシンプルなアイディアは、アイデンティティを持たない複雑な案よりはるかに力を持ちます。第二は「実験すること」の大切さです。間違う勇気がなければ良いデザインには辿り着けないと思います。そして楽しめなければ創造性は発揮できません。

Q.メンターたちの講評は、いつ受けたのですか?

2026年3月末にトリノのチェントロ・スティーレ・フィアット(フィアット・スタイリングセンター)でした。

Q. ジウジアーロの講評はどのようなものでしたか。

ディ・トント : 彼のような象徴的な存在の人物と対話できたのは感動的な経験でした。 フォルムや美的観点からのデザインについては、やや批判的でした。しかし機能性と、複雑でなく実現可能である点について評価してくださったことに私たちは満足しています。

イッポのスケッチ

フィアットが生き抜く鍵がそこに

今回選ばれたファイナリストたちには近日、チェントロ・スティーレ・フィアットで3か月間の研修を受ける機会が与えられました。「それを聞いたとき、私たちは文字通り言葉を失いました。期待をはるかに超えるものだったからです。今でも自分たちが選ばれたことが信じられません」とヴァスタさんは喜びを語ってくれました。

華やかなスーパースポーツカーよりも日々の暮らしに役立つ車のデザインに関心を抱く学生たちがいる−−そのことに、筆者は明るい未来を感じました。同時に、派手なインスタレーションが目立つデザインウィークの中で、シンプルで賢い車を生み出そうという意欲をもった若いデザイナーたちを育成しようと試みたフィアットの姿勢を評価したいと思います。なぜならそれこそが、昨今中国系新興ブランドに猛追される欧州市場で、フィアットが生き抜くための鍵になると考えるからです。

それでは皆さん、次回までアリヴェデルチ(ごきげんよう)!

左からエレットラ・カプッジ(IEDトリノ)、ガブリエレ・メノッツィ(IEDトリノ)、フランソワ・ルボワン、オリヴィエ・フランソワ、ジョルジェット・ジウジアーロ、アレッシオ・ヴァスタ(ISIAローマ)、ルカ・ディ・トント(ISIAローマ)。Photo:Stellantis