1980年台から日本でも人気のEURO CUSTOM
空冷VWベースのCal Lookは現在でも多くのファンに愛され続ける

2026年5月24日(日)に東京都江東区にある青海駐車場で開催されたアメリカン・カスタムカルチャーの祭典である『MOONEYES Street Car Nationals®』(以下、SCN)の4回目のリポートは、欧州車ベースのEURO CUSTOM (ユーロ・カスタム)を紹介する。

「ワーゲンバス」こと1954年型VWタイプIIトランスポーター。いわゆる「アーリーバス」と呼ばれる前期型。

このジャンルで古くから人気なのが、California Lookerの略称であるCal Look (キャル・ルック)で、1960年代後半にカリフォルニア州オレンジ郡で生まれたカスタムスタイルだ。もともとは空冷VWを対象としていたが、安価な中古車の減少により、現在のアメリカではVWラビット(ゴルフ)やBMWミニ、フィアット500などのコンパクトカーがベース車に選ばれることもあるようだ。

1954年型VWタイプIIトランスポーターのリヤビュー。この車のデビューは1950年のことで、初期型のテールランプは小さな丸型となる。

Cal Lookの定番のスタイルというと、車体を黄色やオレンジ、ターコイズ、イエロー、ピンクなどの明るいカラーでリペイントを施し、ローダウンした足まわりに社外ホイールを組み込み、バンパーやサイドトリムを交換または取り外して、メッキパーツでドレスアップしつつ、よりスッキリした外観に仕上げるカスタムだ。

かつてはSCNの会場を埋め尽くした空冷VWのCal Lookだが、近年はそこまでの勢いはないものの、根強いファンによって毎回一定の台数がエントリーしている。どのクルマもカスタムカーとしてのレベルは高い。

このカスタムの発祥は、ギャングや犯罪行為と結び付けられることの多いLOWRIDER(ローライダー)に馴染めなかったチカーノ(メキシコ系)の若者たちだったが、人種とカスタムコミュニティが密接に関わるアメリカでは大変珍しく、西海岸流の明るく、開放的で、健全なイメージは、白人やアジア系の若者をも夢中にさせ、人種の垣根を越えて多くの人々から支持されるようになった。

1960~1970年代にかけてアメリカ西海岸で人気を博しVWデューンバギー。メイヤーズ・マンクスが空冷VWのコンポーネンツを利用して製作したマシンだ。

かつては日本でもCal Lookの人気が高く、1980年代中盤~1990年代初頭にかけて隆盛を極めた。その勢いはすさまじく、1987年3月に大井競馬場で開催された第1回SCNではエントリーの過半数以上を空冷VWベースのCal Lookが占めたほどだ。その頃に比べれば、その勢いはすっかり鳴りを潜めているが、現在でも根強いファンは少なくなくSCNではそれなりに多くのマシンがエントリーしている。

1961~1973年にかけて生産されたVWタイプIII。タイプIの後継車両として誕生したが、偉大なタイプIの後継車にはなり得なかった。しかし、カスタムベースとしては人気があり、今回のSCNにもエントリーする姿が見られた。

日本のシャコタン&ツライチ文化が海を渡り
アメリカで発展して近年逆輸入されたSTANCE系

SCNではCal Look=EURO CUSTOMという時代が長らく続いていたが、最近では車高を限界まで下げ、ホイールとフェンダーの隙間をオーナーの求める理想へと詰めたSTANCE(スタンス)系が人気を集めている。

STANCE MAGAZINEアワードを受賞した2003年型BMW325iツーリング。

そのルーツはVIPカーや族車などのシャコタン&ツライチに代表される日本のモーターカルチャーが、2001年の映画『ワイルド・スピード(原題:The Fast & Furious)』のヒットにより、アメリカで紹介されたことがきっかけで、HOTROD (ホットロッド )やLOW RIDER(ローライダー )などの現地のカスタムカルチャーと融合。足まわりに主眼を置いた「Stance」(立ち姿・構え)と呼ばれるカスタムジャンルが誕生した。

メルセデス・ベンツ190(W201)のSTANCE系カスタム。

そして、このカスタムのファンが集うWebメディア『Stancenation (スタンスネーション)』がアメリカで成立したことが呼水となり、世界的に人気のカスタムジャンルへと急速に発展。スポコンのブームが去った日本にも逆輸入されるかたちで紹介され、現在へと至る。

珍しいボルボ965(960シリーズ・エステート)のハース(霊柩車)。足まわりをカスタムし、オリジナルの雰囲気を保ちつつポイントを抑えたカスタムが施されている。

STANCE系カスタムで何よりも重視されるのが足まわりのカスタマイズだ。サスペンションは車高調かエアサスか、キャンパー角をつけるのに変更するアームはアッパーかロワか、ホイールは何インチのどのような製品を組み合わせるか、フェンダー加工やオーバーフェンダーの装着の手法はどのようにするか、といったことがオーナーのこだわりとなる。

ボルボ965ハースのリヤビュー。広い荷台を持つ洋型霊柩車はステーションワゴンとしての使い勝手も良さそうだ。霊柩車は総じてコンディションが良く、中古車価格も安価なのでカスタムベースとしてはなかなか面白い選択だと思う。

しかし、それ以外はまったくの自由で、ベースとなる車種はスポーツカーあり、セダンあり、コンパクトカーあり、ミニバンありとさまざまで、ベース車も日本車あり、欧州車あり、アメリカ車ありとまさに千差万別だ。
そのなかでも欧州車ベースのSTANCE系は一定の人気を保っており、なかでもメルセデス・ベンツやBMW、アウディ、VW、ポルシェなどのドイツ車がベースに選ばれることが多いようだ。

クラシック・ミニのMK.I仕様。日本でも人気のイギリスを代表する旧車だがSCNへのエントリーは少ない。

SCN創成期の頃から参加しているベテランのファンの中には、エアロで武装し、限界までローダウンした高年式のドイツ車のエントリーが増えていることに違和感を覚える人も少なくないと思う。かくいう筆者もその例外ではなく、ハイテク装備を満載した2000年代以降のドイツ車にほとんど興味がないこともあって、近年なぜSCNにローダウンした欧州製セダンのエントリーが増えているのか、最初は意味がわからなかった。だが、これがアメリカン・カスタムカルチャーの最新トレンドと聞いてようやく納得した次第だ。

ノーマル状態で油圧による車高調整が可能なシトロエンをカスタム!
ハイドロ・シトロエンベースのEURO CUSTOM

さて、そのようなSTANCE系のEURO CUSTOMはドイツ車ばかりではない。個性は揃いのフランス車、なかでもノーマルの状態でグランドタッチできるハイドロ・サスペンションを採用したシトロエンにもにわかに脚光が集まっている。

2018年に開催された32nd SCNにエントリーしていたシトロエン Hバン。これまでにもSCNにフランス車がエントリーすることはあったが、アワードを受賞するのは珍しい。

その先駆けとなったのが、2025年のSCNでMOON ZOOMアワードに輝いた1991年型シトロエンBXだろう。これまでもプジョーの老舗スペシャルショップ『原工房』(東京都江戸川区)の代表・原誠二さんの息子さんがたびたびプジョー406やシトロエンC4のカスタムカーで度々SCNにエントリーしていたが、フランス車の参加で目立つのはそれくらいで、フランス車のアワード受賞は大変珍しいことである。

2025年のSCNでMOON ZOOMアワードに輝いた1991年型シトロエンBX。このクルマは現在、千葉の中古車店で売りに出されている(2026年7月現在)。
一番人気はビートルやワーゲンバスの空冷VW!『MOONEYES Street Car Nationals』はシトロエンやBMWなどヨーロッパ車も多数エントリー | Motor Fan|自動車情報のモーターファン

ヨーロッパ車で一番人気だった空冷VWベースのCal Look 2025年5月11日(日)、お台場の青海駐車場にて『MOONEYES Street Car Nationals®』(以下、SCN)が行われた。日本最大規模のカ […]

https://motor-fan.jp/article/1243721/
37th SCN(2025年)のEURO CUSTOMエントリーカー。

そして、今年のSCNにはナント、1972年型シトロエンSMのEURO CUSTOMがエントリーしていたのだ。外観上の変更点はワンオフと思しきディッシュタイプの大径ホイールをはかされている程度だが、インテリアはチェーンハンドル、バケットシートへと変更した上で、シート座面やドアトリムを大胆な豹柄に張り替えていた。ブラウンメタリックのボディカラーとインテリアのマッチングは良好で、ベース車の上品さと内装のワイルドさが絶妙なバランスで成立したマシンである。

カスタムベースとしてはこれまでノーマークなクルマだったこともあり、会場で注目を集めていた1972年型シトロエンSM。シトロエンお得意のハイドロ・サスペンションが採用されており、ノーマル状態でグランドタッチが可能となることから、意外にもアメリカン・カスタムとの相性は良いようだ。

いわばこのマシンはポイントを絞ったライトカスタムではあるのだが、ベース車のチョイスが意外過ぎるというか、ハッキリ言って、良い意味で頭がおかしい(無論、褒め言葉)。

1972年型シトロエンSMのリヤビュー。ロベール・オプロンが手がけた宇宙船を思わせる近未来的な流麗なスタイリングを生かした見事なカスタムカーである。

シトロエンファンならご存知のことと思うが、「世界最速のFWD車」を目指して1970年に誕生したSMは、クラシック・シトロエンの中でも最大の難物。保守管理の難しさは必然に尽くしがたいクルマなのだ。

MOON VOOMアワードを受賞した1972年型シトロエンSM。

それというのもSMに搭載されるエンジンはデリケートな性格のマセラティ製V型6気筒、サスペンションやブレーキ、パワステなどの油圧制御には、ギャビン・ライアルの冒険小説『深夜プラスワン』の中で「このクルマには、人間の体内よりも多くの血管が走っている」と表されたほどの複雑なハイドロ・ニューマチックが用いられているのだ。さらに欧州の高級車に共通する電装系の脆弱さという弱点も付き纏う。

ベースとなったシトロエンSMの欧州仕様。透明カバー内の可動式角型6灯ヘッドランプはステアリング操作に連動して動く。「世界最速のFWD」を目指して開発されたSMは、安全性も考慮した高級クーペでもあった。

このクルマは一般の自動車整備工場でメンテナンスを行なうことはまず不可能な話で、車検や点検、日常整備においてもシトロエンやマセラティの旧車に精通した専門工場に任せる必要がある。

マセラティ・ボーラ。シトロエンSMと共通のV6エンジンを搭載する。

だが、そのようなプロショップでも、キャブレターやインジェクションなど燃料供給系や、すべての油圧系を1回路で統括制御するハイドロ・ニューマチック、電装系の整備や修理には手間も時間も相応にかかる。当然その分、費用は高額化する。

シトロエンSMの北米仕様。アメリカでは異形ライトやヘッドランプカバーの装着が認められなかったことから、固定式の丸目4灯ヘッドランプにあらためられた。当時、可動式ヘッドランプが認められていなかったことから、日本仕様は北米仕様をベースに製造された。

現在は所有してはいないが、筆者もハイドロ・シトロエンの独特の乗り味が好きで、これまでにGSA、BX、初代C5の中古車を3台を乗り継いできた。手放すまで問題なく乗れたのはGSAのみで、BXはLHM (ハイドロリック・オイル)漏れとエンジン故障で買って1週間で廃車、初代C5は2年間はノントラブルだったが、車検取得を前にエアコンが故障して手放した。このクルマは10万円という破格値で買ったのでまずまずアタリだったと考えている。すなわち、筆者のハイドロ・シトロエンの勝率は1勝1敗1引き分けといったところだ。

以前、筆者が所有していた1983年型シトロエンGSA。小型車にハイドロ・サスペンションを組み込んだ意欲作。一般に故障の多いクルマとして知られるが、筆者の愛車は大きなトラブルもなく日常のアシとして使用できた。近年では整備情報の入手が容易になり、メンテナンスのノウハウが蓄積されたことから、以前ほど恐れる必要はなくなったようだ。ただし、それでも個体によるアタリ・ハズレは依然としてあり、シトロエンの旧車は一般のユーザーが手を出しにくい存在ではある。

だが、これら大衆車とは異なり、高級車のSMとなると保守管理の難易度はさらに上がる。なんといっても「トラブルの巣窟」と呼ばれた、ある意味で“伝説のクルマ”だ。そして、SMの総生産台数は1万2920台。そのうち正規輸入されたクルマは約130台で、後年並行輸入されたクルマを合わせても、日本に現存する台数は30~50台程度といわれている。

ドアトリムやシート表皮を豹柄に張り替え、ステアリングを社外のチェーンハンドルに変更したシトロエンSMのインテリア。

希少車だから当然中古車相場は高い。そのようなクルマを大胆にもカスタムベースにしてしまう漢気。これは褒めずにはいられない。MOON VOOMアワードの受賞も当然の結果であり、誰もが納得する結果だっただろう。

シトロエンSMのエンジンルーム。最高出力180psを発揮するオールアルミ製の3.0L V型6気筒DOHCエンジン。緑と白色の球体はスフィアと呼ばれるパーツで、内部はダイヤフラムによって高圧の窒素ガスとLHMの2層に分かれており、ガスが圧縮されることで金属バネの代わりを果たし、オイルがバルブを通ることでショックアブソーバーの減衰力を生み出す。