BMW M2 CS
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BMW M2
87台限定の特別なM2

「M2」から「M2 CS」へと乗り換える。エンジンを掛けた瞬間に、もう何かが違うと感じていた。サウンドやバイブレーションからはノーズに収まったS55B30からの圧を感じてしまう。もちろん、ようやくCSをドライブできるという意気込みは乗り込む前からあった。とはいえインテリアの様子にさほどの違いを感じなかったから、それは余計に衝撃的だったのだ。同じ心臓が違うミュージックを奏でている。ドキドキさせる。
M2 CSはM2をベースにした国内わずかに87台という限定モデルである。同じS55B30型の3.0リッター直6ツインターボを搭載しながら、標準仕様の最高出力480PS、最大トルク600Nmに対し、それぞれ530PS、650Nmまで高めている。パフォーマンスは0-100km/h加速3.8秒(M2=4.0秒※8速AT)、最高速は302km/h(M2=280km/h※Mドライバーズパッケージ装着時)といずれも圧倒する。CSにはカーボン製ボンネット、ルーフ、エアロパーツなどが採用され、車重も約30kg軽く仕上がった。さらに、専用アダプティブMサスペンション、専用ホイール、軽量シート、カーボン製センターコンソール、ダックテールトランクリッドなどを備えた点が主な違いだ。
単なる高性能な派生モデルではない

M2 CSとは何か。スタンダードなM2をベースに、出力を高め、軽量化を施し、シャシーを研ぎ澄ませた高性能な派生モデル──、そう説明すれば事実としてはこと足りる。だが実際に走らせてみなければ、M2 CSが単なる上級グレードであるという枠を取り払うことはできない。なぜならパフォーマンススペックはこれまでのM2とほぼ同等のままで、価格がほとんどM4に近づいているからだ。装備差やスペックの違いのみならず、実際に乗った印象がその価格差を埋める価値になることだろう。
インプレッションに戻ろう。エンジンをかけてから発見する相違点はアイドリングの雰囲気だけにとどまらなかった。ひと転がりしたときの身のこなし、なかでも最初にステアリングを切り込んだときの反応、フロントアクスルからの手応えがまるで違ったのだ。明らかにタイヤの存在感が強く、ドライバーには“ねじ伏せる”意志の強さが求められる。裏を返せばM2の前捌きの方がよりクリアだった。好みの分かれるところかもしれないが、いずれにしても前輪を動かした瞬間にBMWM2 CSという名にふさわしい濃度を、ドライバーはまず感じることになる。
ハードコアなモデルから上出来なグランツアラーへ

速度がのってくるに従って、M2らしい、クリアで正確なハンドリングが“戻ってくる”。おそらくサーキットではさらに高い領域までFRらしさを堪能できるはずだ。公道上での限界域は高く、ノーマルで楽しいと思った速度域でも難なくこなせてしまうため、速いけれどスリリングだと思う事態にはなかなか至らなかった。その上、加速などにおけるパワースペックの差も、実ははっきりとは感じることができない。知らぬまに高い速度域で走っている。そんな表現がぴったりくる。
それよりも一般道で強く印象に残ったのは、ハードコアなモデルでありながら、ひとたび速度にのって高速域でのクルージングが始まると、極めて上出来なグランツアラーに変身することだった。リヤアクスルの落ち着きや、硬めのサスセットがそう思わせるのだろう。もちろんその分、道が荒れると動揺するが、余裕のクルージングの最中に、しみじみとストレート6の滑らかな回転フィールを味わう楽しさは、そんなネガティブを上回る。
ノーマルのM2との違い












さらにストレート6の余裕と、丈夫な骨格、ステアリング系の芯の強さもまた、速度域を問わず一貫していた。そのため、CSを試した後にもう一度ノーマルのM2に戻ってみれば、これはこれで濃厚な乗り味だと思っていたにも関わらず、まるでMモデルではなくなったかのように穏やかなモデルに感じられてしまう。ふつうの2シリーズか、と思ってしまったほどだ。人間はそうそう絶対的な感覚で物事を判断することはできない。相対的に生きている。
一連の感覚をひと言で表すなら、M2 CSはもはや“M4のショートホイールベース版”である。コンパクトなFRクーペであるM2の器に、M4に通じる力強さと濃密な運動性能を押し込んだような存在。とはいえ、ノーマルM2の価値が薄れるわけではない。日常での扱いやすさ、フロントのクリアな切れ味、そして何よりマニュアルトランスミッションを選べること。いまや世界的にも稀少な、コンパクトで高性能なFRクーペとしての魅力は、標準のM2に未だ明確に残っていると言っていい。
とことんM2を味わうための対価

比較試乗で確かめたかったのは、どちらが速いか、あるいは楽しいかといったシンプルな優劣ではない。コンパクトで高性能なFRクーペとしてのM2が、標準モデルとCSでどのように異なる価値へ展開されているのかを見極めることだった。日常域に楽しさを残すM2に対し、M2 CSはその世界観をより高い密度と緊張感で凝縮したモデルである。
価格差は確かに小さくない。けれどもその差額が、単なる性能の向上ではなく、M2という存在をどこまで濃く味わいたいかに対する対価だと考えれば、そしてそのパフォーマンスの成果がもはやM4レベルであったことを考えれば、CSの価値もまたはっきりしたといえよう。購入できた人が羨ましい。
PHOTO/平野陽(Akio HIRANO)
SPECIFICATIONS
BMW M2 CS〈M2〉
ボディサイズ:全長4590〈4580〉 全幅1885 全高1405〈1410〉mm
ホイールベース:2745mm
車両重量:1700〈1730〉kg
エンジン:直列6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2992cc
最高出力:390〈353〉kW(530〈480〉PS)/6250rpm
最大トルク:650〈600〉Nm/2750〈2700〉〜5730〈5620〉rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前&後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35R19 後285/30R20
燃料消費率:9.9〈10.0〉km/L(WLTCモード)
最高速度*Mドライバーズパッケージ装着車:302〈285〉km/h
0→100km/h加速:3.8〈4.0〉秒
車両本体価格:1488〈1031〉万円
