BMW が2024年に特許を取得した新しいエンジン技術「BMW M Ignite technology」が、市販車へ導入される。この新しいガソリンエンジン用プレチャンバー点火システムは、2026年半ばからBMW M2、BMW M3、BMW M4に搭載される直列6気筒エンジンに採用される予定だ。
プレチャンバー燃焼とは何か?

通常のガソリンエンジンでは、点火プラグ周辺から火炎が広がり、燃焼室全体へ燃焼が伝播していく。
しかし高過給・高圧縮化が進むと、
- ノッキング発生
- 燃焼ムラ
- 希薄燃焼の不安定化
- 排出ガス悪化
といった問題が発生しやすくなる。そこで使われるのがプレチャンバー燃焼だ。
燃焼室の上部に小さな副燃焼室(プレチャンバー)を設け、まずここで濃い混合気を燃焼。その火炎を高速ジェットとして主燃焼室へ噴射することで、急速かつ均一な燃焼を実現する。
F1ハイブリッド時代を支えた「秘密兵器」

プレチャンバー燃焼が一躍注目を集めたのは、2014年以降のF1ハイブリッド時代だった。
当時のF1では、
- 1.6L V6ターボ
- 燃料流量制限
- 熱効率向上
- 超高過給化
という厳しい条件のもと、各メーカーは極限の燃焼効率を競っていた。そのなかで先行したのが、Mercedes-AMG 系パワーユニットだったとされる。
鍵になった技術のひとつが、プレチャンバーによる「TJI(Turbulent Jet Ignition)」系燃焼技術である。
副燃焼室から噴射される高速火炎ジェットによって、極めて薄い混合気でも安定燃焼が可能となり、熱効率向上へ大きく貢献した。
F1では現在、熱効率50%超とも言われる領域へ達しているが、その背景にはこうした燃焼技術の進化がある。
なぜBMWは今これを量産化するのか
低~中回転域:ダブルイグニッション




高回転域:プレチャンバー点火





今回BMWがプレチャンバー燃焼を導入する背景には、Euro 7規制への対応があるとみられる。
Euro 7では単純なCO₂削減だけではなく、
- 実走行時排出ガス
- 冷間始動時排出
- 高負荷領域の排出
- 長期間性能維持
まで厳しく求められる。
高性能ターボエンジンにとっては、従来以上に「燃焼の安定化」が重要になっている。
プレチャンバー燃焼は、
- 燃焼速度向上
- ノッキング抑制
- 希薄燃焼安定化
- 排気温度制御
など多くのメリットを持つ。
プレチャンバー点火を上方から見る



つまりBMW M Igniteは、単なるパワーアップ技術ではなく、「高性能ICEをEuro 7時代へ適応させるための燃焼技術」と言える。
BMWは“直6”を終わらせない
BMWはEV専用プラットフォーム「Neue Klasse」を推進する一方で、Mモデルでは依然として内燃機関を重要視している。
特に直列6気筒は、BMWにとって単なるエンジン形式ではない。
- スムーズな回転感
- 独特のサウンド
- 前後重量配分
- Mブランドの象徴性
を含めた“ブランド資産”そのものだ。
今回のM Igniteは、そうしたBMWの姿勢を象徴する技術とも言える。
EV時代において、内燃機関は終わりに向かっているようにも見える。しかしBMW M Igniteが示しているのは、その逆だ。F1が極限効率のために磨き上げた燃焼技術は今、“最後の高性能ガソリンエンジン世代”を支える技術として量産車へ降りてきている。EVシフトが進む現在においても、内燃機関の進化はまだ終わっていない。

