1985年のカーナは6.5ps! わずか1年でシュートから0.5psアップ

撮影にご協力いただいたオーナーのイシイさんは、大幅に姿を変えたカスタム車というより、カーナ・ロシニョール・リミテッドエディション本来の姿を大切に残しながら、必要な部分に手を加えて楽しんでいる一人。まずはベースとなったカーナがどんなスクーターだったのかを知っておきたい。

カーナが登場したのは1985年。スズキは「スポーティかつ経済的な中級スクーター」と位置付け、直線基調のボディにサイドからリヤへ流れる曲線を組み合わせた「ギャラクシーライン」を採用していた。いま見ると、直線と曲線が入り交じった何とも80年代らしいデザインである。

搭載する49cc空冷2スト単気筒エンジンは最高出力6.5ps/6500rpm、最大トルク0.72kgm/6000rpmを発揮。Vベルト無段変速との組み合わせで鋭い出足と登坂力を狙い、乾燥重量はわずか49kg。30km/h定地走行値で91.1km/L、新車価格は11万9000円だった。

ここで同じスズキのシュートと比べると、当時の開発競争の勢いが見えてくる。1984年登場のシュートは最高出力6psだったのに、そのわずか1年後にカーナは6.5psへアップ。たった0.5psと思うなかれ、50ccでは約8%の上乗せだ。しかも車体は49kgと軽い。数カ月単位で新型スクーターが登場していた時代だけに、数字からも技術革新の早さが伝わってくる。

直線基調のフロントからリヤへ向けて流れる独特のボディライン。スズキが「ギャラクシーライン」と呼んだ、カーナならではのスタイリングだ。

乾燥重量49kgの軽量ボディに最高出力6.5psの2ストエンジンを搭載。当時の50ccスクーターでNo.1となる7.5kg/psのパワーウエイトレシオを誇った。

スキーブランド「ROSSIGNOL」とコラボした1986年の限定仕様

この車両はスポーツ用品ブランド「ロシニョール」とコラボした「カーナ・ロシニョール・リミテッドエディション」。資料によると1986年4月発売とされ、メタリックグレーの車体に「ROSSIGNOL」の大きなロゴや赤いライン、「CARNA LIMITED EDITION」の文字が入る。

ロシニョールは1907年、フランス・イゼール県ヴォワロンでアベル・ロシニョールが木製スキーを作ったことに始まるスキーブランド。その後、競技スキーの世界でも存在感を高め、世界的なウインタースポーツブランドへ成長していった。

軽量・高出力を売りにしたスポーティなカーナに、ウインタースポーツのロシニョールを組み合わせた限定仕様ということで、注目を浴びる事となった同車。跳ね上がったサイドカウルには車体形状に合わせてROSSIGNOLロゴが入り、メーターパネルにまでロシニョールの文字が入る。遠目では「カーナの限定色かな?」くらいに見えるけれど、近くで見るほど普通のカーナとは違うことが分かる。今思えばこの異ジャンルコラボそのものが何とも80年代らしい。

大きなROSSIGNOLロゴが限定仕様の主張ポイント。グレー×ブラックのボディに赤いラインを組み合わせた配色も印象的だ。

サイド下部には「CARNA LIMITED EDITION」の文字。さりげない部分だけれど、この1台が通常モデルではないことを示す“限定の証”だ。

メーターパネルにもROSSIGNOLのロゴ入り。外装のデカールだけで終わらせていないところに、限定仕様らしさが見える。

シュートの部品探しから出会った1台! 雰囲気を壊さず自分流に楽しむ

イシイさんは1984年式のスズキ・シュートも所有している。もともとはそのシュートを維持するため、ネットオークションなどで補修パーツを探していたところ、程度の良いカーナを発見したのが入手のきっかけ。しかも、それが珍しいロシニョール・リミテッドエディション。シュートのパーツ探しが、もう1台の80’Sスクーターとの出会いにつながったというわけだ。

今回のカーナも、限定車だから完全ノーマルのまま保管しているわけではない。元の雰囲気を大切にしながら、オーナー自身が楽しめる範囲で少しずつ手を入れている。

そのひとつがヘッドライト。スポーティなイエローレンズに見えるが、じつはオーナーがタミヤカラーのクリアイエローで塗装したもの。シートも後から張り替えられたもので、純正は黒一色だったという。

マフラーにはオーナーの名字にちなんだ「ISHII」ステッカーを貼り、内部にも加工を施して少し元気なサウンドに。限定車らしい部分はできるだけ残しながらアピールも加えているのだ。

そしてシート下を開ければ、そこにも時代を感じる。現在のスクーターならヘルメットが入るような大容量ラゲッジを想像するところだが、ここには燃料タンクやオイルタンク、バッテリーなどが収まっている。荷物用にはフロントカウル内にポケットを装備。見た目だけでなく、こうした構造にも80年代スクーターの作法が残っている。

40年近く前の限定スクーターをきれいに残す。それでいて飾って終わりではなく、自分好みに少し手を加えて乗って楽しむ。シュートをきっかけに始まったイシイさんの80年代スズキスクーター生活、なかなか楽しそうなのである。

イエローヘッドライトはオーナーがタミヤカラーのクリアイエローで塗装。限定車の雰囲気を崩さず、スポーティさを少しプラスしている。

マフラーにはオーナーの名字にちなんだISHIIステッカー。内部も少し加工され、ノーマルより元気な排気音を楽しめるという。

現代スクーターのようにシート下に大容量ラゲッジはなく、燃料タンクやオイルタンク、バッテリーなどを収納。いまとは違うスクーターの設計思想が見える。

荷物入れはフロントカウル内に用意。カーナではこうしたフロントポケットが標準装備されていた。

リヤ周りは跳ね上がるようなボディラインが特徴的。白いシート表皮は後年に張り替えられたもので、純正は黒一色だったという。

このカーナを捕獲したイベントはこちら!

今回のカーナを撮影したのは、2026年7月19日に森の駅箱根十国峠で開催された「十国峠原付祭十周年」。今年で10周年を迎えた「十国峠原付ミーティング」には、関東・中部を中心に全国から100台を超える原付カスタムマシンが集合した。もともとはスーパーカブオンリーのイベントとしてスタートし、現在ではさまざまな原付カスタムが集まる定期開催イベントへとグレードアップ。気になる方は「十国峠原付ミーティング」で検索してみてほしい。

今回紹介したカーナも、そんな濃い参加車の中からモトチャンプが気になった1台。そして隣に並んでいた赤いシュートも、イシイさんが維持する愛車だ。同じ80年代中盤に生まれたレアなスズキ製スクーターが、約40年の時を超えて2台そろって走れる状態で残っている。こういう景色に出会えるのも、原付ミーティングのおもしろさなのだ。

イシイさんが維持する2台の80年代スズキスクーター。赤いシュートとカーナ・ロシニョール・リミテッドエディションが、約40年の時を超えて並んだ。

【モトチャンプ編集部】