モデルライフ22年で未だフルモデルチェンジなしの「APV」とは?
インドネシア市場では、3列シート車の人気が高い。そこでスズキも複数の3列シート車を投入しており、現行モデルの中で最も長く販売されているのが「APV」だ。

APVはインドネシアと縁の深いモデルで、ASEAN諸国を中心とした世界戦略車として2004年7月に発表。同年8月よりインドネシアの工場で生産を開始、 9月より現地での販売が始められた。発表時、部品の現地調達率を約7割とし、コストを抑えた現地フレンドリーなモデルであった。その後、フェイスリフトを含む改良を受けているものの、22年間1世代のまま作りづけられている。

名称のAPVは「All Purpose Vehicle」の頭文字を取ったものであり、つまり「多目的車」という意味。日本でも良く使われるMPV(Multi Purpose Vehicle)と同義語だ。現在は、ミニバンと商用バン仕様が販売されているが、APVをベースとしたピックアップトラック「メガキャリー」も用意されていた。

現在、インドネシアでは、キャリイはAPVベースのセミキャブオーバーからフルキャブオーバーの新型にフルモデルチェンジ済み。なので、今回は、実車展示のあったミニバンを中心に解説する。

エクステリア&パワートレインはシンプル・イズ・ベスト
最新のモデルラインは、7人乗りの上級仕様「APVアリーナ」と8人乗りのスタンダード仕様「APV GE」、そして、2シーターバン「BLIND VAN」の3タイプが設定されている。展示されていたのは、最上グレード「アリーナSGX」だ。

スタイリングはセミキャブオーバータイプなので、初代のタウンエースノアなどを彷彿させるもの。商用バンとボディを共有する点も共通だ。ボディ構造は、モノコックボディとフレームを組みわせた堅牢なもので、FRレイアウトを採用。ただボンネット空けてもエンジン自体は見えず、フロントシートに近い位置に配置されている。

背が高く見えるボディは構造上の理由だけでなく、全長4230mm×全幅1655mm×全高1865mmと、実際に背が高め。全長と全幅を見るとホンダ・フリードに近いサイズ感で、日本の5ナンバー規格に収まる。背が高い理由は、最低地上高をSUVに迫る175mmも確保しているため。これは新興国での多い状態の悪い未舗装路や洪水などの水害時に想定したものであり、さらにエンジン用のエアインテークも高い位置に配置している。

エクステリアは、フェイスリフトを受けたことで現代的になっているが、灯火類はシンプルなもので、ヘッドライトもハロゲンだ。そして、ミニバンながら後席ドアはスライドではなくヒンジ式。これはコストと軽量化、室内スペースの最大化が理由なのだろう。

エンジンは、旧世代ではあるが信頼性の高いG型エンジンの最終形といえるG15A型を搭載。1.5L直列4気筒SOHCエンジンで、最高出力68kW(約92ps)/6000rpm、最大トルク126Nm/3000rpmを発揮。トランスミッションは5速MTだけという潔さだ。


サスペンションは、フロントがストラットなのは全車共通。リヤは全車リジットでリーフスプリングがベースとなるが、「アリーナ」シリーズでは3リンクコイルとすることで乗り心地の向上が図られている。

インテリアも装備も懐かしさを感じるレベルのシンプルさ

2000年代設計の新興国向け車なので、中身も非常にシンプル。安全装備は、フロント用のSRSデュアルエアバックとドア内部のサイドインパクトビームのみ。なんとABSすら未設定なのだ。ある意味、ドライビングテクニックが問われるクルマともいえるかもしれない。

全車共通の快適装備といえば、エアコン、パワーステアリング、1DINタイプのオーディオくらいものもの。そして、「アリーナ」シリーズなら、パワーウィンドウが標準化される。ちなみに、カタログにある主な装備リストは21項目しかなかった。

展示車である「アリーナSGX」の特徴的な装備は、フロントグリルとドアミラーカバー、ドアハンドルの3点メッキ仕様であることに加え、フォグランプを装備。そして全モデル唯一の贅沢装備として、2列目キャプテンシートが与えられているのだ。
ただスクエアなデザインもあって、車室内は思ったよりも広い。シート生地も2000年代を思い起こさせるファブリック仕様だ。その座り心地は、懐かしい日本車の味わいに溢れている。またプラスチッキーな内装も懐かしい。コスト重視のスズキでも最新型車は樹脂内装の質感が高まっているので、このあたりも時代を感じさせるところ。実際、先日乗ったエブリイワゴンの方がだいぶ豪華だった。

ただ洒落っ気もあり、なんとボディカラーには「アリーナ」にはワイン系の「バーガンディレッド」、「GE」にも真っ赤な「ラディアントレッド」を用意。他の色は「ホワイト」「シルバー」「ブラック」など無難なものが多かったので、インドネシアでは赤が人気なのだろうか……。

これで200万円台前半は安い?高い?
さて注目の価格だが、ミニバン系のエントリーグレード「GE」が2億2910万ルピア(約203万円)で、最も高価な「アリーナSGX」が2億5470万ルピア(約225万円)なので、お手頃ファミリーカーであるのは確か。ただエントリーグレードであっても続々と登場する新世代モデルの方が安全装備を中心に優位性があるため、今の主力はビジネス向けになっているのかもしれない。

実際に、インドネシア自動車工業会による2025年新車販売データでも、最も売れたスズキ車は、クロスオーバーワゴン「XL7」であり、乗用仕様のAPVの数字は遠く及ばない。

現地では救急車として活躍するAPVも発見した。コンパクトなボディを最大化したAPVならば、機動性も良く、道路事情の悪いインドネシアの救急車には良い選択なのかもしれない。日本では考えられないほどシンプルなAPVだが、新興国市場ではまだまだ自家用車は憧れの存在だけに、同車が今後どのような道を歩むのか気になるところだ。






