5時間を支配したアルピーヌ。このまま1-2かと思われた

正直なところ、レース終盤まで「今日はアルピーヌの日だ」と思った人は少なくなかっただろう。
前日の予選が雨でキャンセルになったため、決勝のグリッドは3回のフリープラクティスで記録した最速タイムを基準に決定された。トヨタは8番手と13番手。グランドスタンドを埋めたトヨタ応援団の大声援のもとスタートしたレースだが、優位に進めたのはアルピーヌの2台だった。

フロントロウからスタートした2台のアルピーヌA424は、レース開始から約5時間にわたって主導権を握った。トヨタ#8 GR010 HYBRIDは6番手を走行。一時はハリー・ティンクネルとの接触でブレンドン・ハートレーがスピンを喫するなど、決して順調なレースではなかった。
流れが変わったのは残り約1時間だった。#58ガレージ59のLMGT3マクラーレンが大きなクラッシュを喫し、セーフティカーが導入されたのである。
各車が一斉にピットへ向かうなか、トヨタは勝負に出た。
#8の平川亮はタイヤを交換しない。さらに給油も短時間で切り上げる。
一方、アルピーヌ#36は新品タイヤ4本、#35は左側2本を新品へ交換。このピット作業時間の差によって、それまで6番手だった#8トヨタが一気に首位へ浮上した。
新品タイヤのアルピーヌ対中古タイヤの平川亮
もちろん、これで勝負が決まったわけではない。
リスタート時点で残り時間は約20分。
新品タイヤ4本を履いた#36アルピーヌのビクター・マルタンは猛烈な追い上げを開始する。アストンマーティンをかわし、姉妹車#35のシャルル・ミレジもマルタンを先行させる。そしてBMWも攻略すると、ついに平川の背後まで迫った。
残り20分。タイヤの状態だけを考えれば、新品4本のアルピーヌが有利に見えた。
しかし平川は譲らなかった。
変化するコンディションのなか、冷えた中古タイヤで首位を守り続ける。最後はマルタンの猛攻を抑え切り、#8 GR010 HYBRIDがトップでチェッカーを受けた。トヨタにとって今季2勝目、富士では3年ぶりとなる勝利だった。平川自身もレース後、「特に最後の2周はものすごく緊張しました」と振り返っている。チームから「どこでプッシュすべきか、どこで守るべきか」を常に伝えてもらったことにも感謝を示した。 トヨタ 優勝!!!
結果は#8トヨタが優勝、#36アルピーヌが2位、#15 BMWが3位となった。
「レースはトータルで含めた実力」

興味深いのは、決勝を前に行なわれたメディアとのラウンドテーブルで、トヨタ・レーシングの中嶋裕樹会長がまさに今日の勝利を思わせる話をしていたことだ。
中嶋会長は、ライバルに勝つためにはエンジニアリングが重要なのは当然だとしたうえで、レースではピットワークや戦略によって順位が大きく変わると指摘した。
そして、そうした判断には「プロ中のプロの感覚」があり、

「レースっていうのをトータルで含めると、その部分の実力値と言いましょうか、それを読み切る力というのも重要」
と語っていた。
その言葉通りの逆転優勝だった。アルピーヌが約5時間にわたってレースを支配しながら、最後の1時間で状況が一変した。タイヤを換えるか、換えないか。燃料をどこまで入れるか。そして最後の20分を、中古タイヤでどう守り切るか。
クルマの速さだけではレースには勝てない。戦略、ピットワーク、ドライバー、そして刻々と変わる状況を「読み切る力」。そのすべてを合わせたものが、中嶋会長の言う「レースの実力」なのだろう。
トヨタはそれを、ホームコースの富士で結果として示した。
#8をドライブした平川亮、セバスチャン・ブエミ、ブレンドン・ハートレーは、この勝利によってドライバーズ世界選手権ランキングの首位へ浮上した。

