大切なのはクラシックではなく、“クラシカル”ということ

 ネオクラシックバイク。通称「ネオクラ」。正確な語義はさておき、ルックスは懐古的だけどメカニズムは最新のバイク、ということになると思います。もっと砕けて言えば、クラシカルなデザインをまとった現代車……という感じになるでしょうか。

 そんな“ネオクラ”ジャンルの興りは1989年発売のゼファーにある、というのが定説です。その後1990年代には排気量や車種を問わずジワジワと勢力を拡大し、やがて2000年代には明確にブームを形成。サブからメインの一角としてジャンルを成すようになりました。

 ただし細かなことを言えば、それらのバイクたちの“クラシック具合い”“モダン具合い”はそれぞれ車種ごとに解釈やアプローチが異なっており、ひと口に「ネオクラっぽいね」とは言えないほどさまざまなスタンスのネオクラバイクが市場に溢れています。

 そしていま開催中の「ジャパンモビリティショー2025」にもそんなネオクラたちが多数出展されています。ジャンルの勃興から30年以上が経ったネオクラの最新形がどのように進化しているのか? ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキの順で眺めていきましょう。

再現性の高さに胸アツ! あの“F”が、40年以上の時を経てカムバック

 今回のモビリティショーに少しだけ先行して10月10日に発表されたのが新型「HONDA CB1000F」(写真はSE)です。モチーフは1979年に発売されたCB750F。かねてより噂になっていた車種だけに、「やっと出てくれたか……」「なかなかカッコいいじゃん」と胸騒ぎするバイク好きの方、きっと多いと思います。

 ボディにはあの“F”で特徴的だったスクエアなタンクのデザインやポップなグラフィックが見事に再現されています。もちろん仔細に見ていくとディテールは別物ということがわかりやすいですが、それでも「なるべく寄せていこうぜ」という気概が随所に満ちている。これはとても嬉しいですね! そしてなによりCB1300SUPER FOURのモデルアウト後を担う、新型水冷4ストロークDOHC直列4気筒エンジン搭載大型ロードスポーツモデルの発表。もうそれだけでホンダファンのココロは暖まるというものです。

 今回はイメージカラーとしてAMAスーパーバイクで大活躍したフレディ・スペンサーの仕様の「ウルフシルバーメタリック・ブルーストライプ」が採用されたこともトピックとなる出来事でしょう。そしてなによりCB1300SUPER FOURのモデルアウト後を担う、水冷4ストロークDOHC直列4気筒エンジン搭載大型ロードスポーツモデルの発表。もうそれだけでホンダファンのココロは暖まるというものです。

 そうそう。懸案のプライスもスタンダードモデル同士のCB1300SUPER FOUR→CB1000F比で33万円ダウン。さらに車重も大幅な52kg減量……って、 繰り返しますね。ココロもお財布も暖まる新型CB1000F、乗ってみたいぞ!

こちらスタンダードモデルのCB1000F。価格は140万円を切る139万7000円に抑えられており、ハーフカウル付きモデルCB1000F SEは159万5000円に設定されています。
モンキー125に懐かしの1974年式Z50J、通称“4ℓモンキー”のカラーリングが施された市販カスタム仕様車がホンダブースに参考出展されています。社外パーツの装着も多数。
 

グランプリシーンを想起させるヤマハの“栄光カラー”、ここに蘇る!

 往年のグランプリシーンを知るオジサンたちの“ヤル気スイッチ”を押しまくって人気なのが、このヤマハ「XSR900GP」です。かつて世界中のサーキットを席巻したGPマシン「YZR500」をモチーフにデザインされたマシンだけに、人気の高さへの理由に深くうなずくことができます。

 そして昨年の5月の国内発売から1年半が経過したXSR900GPの2026年モデルがここモビリティショーで展示されているのですが……なんと言っても目を惹くのがこの“USインターカラー”仕様! イエロー×ホワイトのボディに黒のスピードブロック(通称トロボライン)が引かれた、このボディカラーを見ただけでナイスミドルたちは感涙必至でしょう。

 メカニズム的なトピックも豊富なXSR900GPですが、もっともオジサンに響くのはセパハンなのに前傾過ぎないということでしょう。最適化された絶妙なライディングポジションがカラダへの負担をミニマムに抑え、レーシーな雰囲気ながらデイリーユースでの使い勝手をしっかりと実現してくれています。

「展示、ギリギリで間に合わせました!」とおっしゃっていたヤマハブースの方の荒い鼻息と笑顔、とてもステキでした。皆さんもぜひ会場で実車をご覧ください。購入への段取りはその後でも遅くはありません(笑)

電動アシスト自転車のコンセプトモデル「Y-00B/Bricolage(ブリコラージュ)」。創立70周年を迎えたヤマハ発動機のプロダクト1号車である「YA-1」をオマージュしてデザインされています。セミドロップハンドルだ! と声を上げたアナタはアラフィフ以上確定。クラシック×モダンという観点ではこのY-00B/Bricolageもネオクラ、ですね。

クラシックとモダンの間を絶妙に縫って走る、スズキのオリジナリティに感心!

 スズキはいつの時代もスズキらしいですね。今回のモビリティショーで展示された「GSX8TT」も明らかにそう感じさせてくれるオリジナリティに満ちています。無理に擬古的に振る舞わないポジティブなデザインと柔軟なスタンスに、ファンは「これこそスズキ」と唸るのでしょう。

 そういう意味ではネオクラというジャンルにあって本流ではないかもしれないデザインが新型GSX8TTの外装です。デザインモチーフは1968年式の「T500」とHPで明言されてはいますが、正直を言うとそこまで似ているとも感じません。世界初の500cc 2サイクル2気筒エンジンを搭載したロードレーサー「TR500タイタン」のベースマシンであるT500は当時、最高速度181km/hを誇ったスーパーマシンでした。

 ベースとなるマシンは既発のロードモデル「GSX8S」ですが、外装デザインを担当したフランス人のデザイナーさんはきっと、T500ばかりに固執することなく、もっと自由なコンセプトでラフデザインを引いていったのだと思います。無理にオリジナルに寄せるのではなくディテールをさりげなく引用し、その上で新しいマシンをクリエイトしていく……バイクという自由な乗り物への、なんともスズキらしいアンサーがGSX8TTには込められています。

こちらGSX8Tもこの夏にヨーロッパや北米で発売が開始された現行モデルです。国内への導入時期はまだ決まっていませんが、展示モデルは限りなく日本仕様に近いものと言われており、そう遠くない時期に市販時期やプライスがアナウンスされるでしょう。

幾度となく繰り出される伝統の“火の玉”、カワサキブランドを体現するZ900RSが一新!

 今回のモビリティショーのプレスデー(10/29)で唯一、プレスブリーフィング前に厳かにヴェールがかけられていたのがこの「Z900RS」「Z900RS SE」でした。気高いフラッグシップモデルらしいデビューを華々しくしたい、との思いの現れでしょうか。

 そしてついに発表された新型Z900RS。それは誰がどこから見ても“Z900RSな”アピアランスでした。ティアドロップ型タンクにペイントされたファイヤーボールカラーをはじめ、丸みを帯びたテールカウルとオーバル形状のLEDテールライト、砲弾型の二連式メーターなどなど……ボディのすべてに「これでもか!」というくらいにかつての世界的名車、1972年式Z900RSへのオマージュが各部に散りばめられています。

 ホンダ、ヤマハ、スズキの順で新型車を紹介してきましたが、オリジナルモデルへの忠誠心はこのカワサキZ900RSがもっとも高いと言い切れるでしょう。そういう意味では「カワサキ」というブランドの持つルーツへのこだわりみたいなものをひしひしと感じますし、それ自体はコンサバティブであって当然というプライドも垣間見えます。新型になってもイメージを大きく変えないことにはワケがある、ということですね。

こちらもワールドプレミアとなった「Z900RS CAFÉ」。フロントカウルや段付きシートが装着されており、タンクのグラフィックはマッハシリーズで引かれていたレインボーラインに着想を得ています。プライスは154万円で、2026年2月に国内販売予定。
現行モデルのカワサキW800。そのルーツは1966年発売の「650-W1」にまで遡ります。空冷4ストロークのバーチカルツインエンジン搭載というアウトラインもまったく変わりません。130万9000円。
緊張感のあるブラック&メッキの引き締まったクラシカルボディ……「メグロS1」もまたれっきとした現行モデルで、「250メグロSG」の後継車であることをアピールしています。74万2500円。

 いま開催中の「ジャパンモビリティショー2025」ですが、こと二輪車についてはこれまでと同様に、いや、これまで以上に種々の“ネオクラ”ジャンルの新型車がシーンを牽引しているように感じます。

 もちろん時代に流れに即した環境対応は避けて通れないテーマですが、それらの事柄と不可分で「あまり無理せず、自分たちのライフにフィットするライディング環境を揃えていきたいよね」という自然体なアプローチもますます加速しているようです。

 そんな“今”にピッタリなのがまさに、「ルックスは旧車、メカは最新──」という雑多なネオクラスピリットなのだと思います。

 みなさん。肩肘張らずに乗りたい時にスッと乗れる、等身大の新型バイクを手に入れて、モーターライフをめいっぱい楽しみましょう!