開発コンセプトは走りが能動的に楽しめる「グランドツーリングカー」

bZ4Xに続く新たなバッテリーEV(BEV)として登場したbZ4Xツーリングの特徴は、bZ4Xに対して全長を140mm延長したことによるたっぷりした荷室容量とクラストップレベルの一充電走行距離(627〜734km)、それに、アウトドアテイストを盛り込んだ外観意匠などが挙げられる。

トヨタbZ4Xツーリング

見た目はアウトドアテイストなのだが、その実、高性能だ。フロントとリヤにモーターを搭載する4WD仕様はシステム最高出力280kW(380ps)を発生する。0-100km/h加速はトヨタブランド最速となる4.5秒でこなす俊足ぶりだ。なんと、GRヤリスよりも速い。

トヨタ最速の0-100km/h加速…アウトドアが似合う 「bZ4Xツーリング」は、ただの“荷物が積めるbZ4X”じゃなかった!

bZ4Xに続くトヨタのバッテリーEV(BEV)として登場した「bZ4Xツーリング」。都会的なbZ4Xに対し、こちらはルーフを後方まで伸ばし、荷室空間や後席の居住性を大幅に高めた「実用派」にして「アウトドアテイスト」なモデルだ。しかし、このクルマの魅力は「広さ」だけではない。実はトヨタブランド最速の加速性能を秘めた、走り自慢の1台でもあるのだ。 TEXT:世良耕太(SERA Kota)/PHOTO:長野達郎(NAGANO Tatsuo)

ならばじゃじゃ馬かというとそんなことは全然なく(まあ、GRヤリスもじゃじゃ馬ではないが)、扱いにくさはみじんもない。無意識のアクセル操作に対してイメージどおりに力が出てくる。頼もしく感じるのは、高速道路の本線への流入や、走行車線で遅いクルマに引っかかったときに追い越しするシーンなどだ。ちょっと強めにアクセルを踏み込むと瞬時に車速が上がり、あっという間に巡航スピードに達するし、追い越しは完了する。恐怖感をあおるような唐突な加速でなく、じんわりと力が湧き上がる感じがいい。

大きく(全長4830mm、全高1675mm)、重たい(車重2030kg/4WD)ボディにもかかわらず、ドライバーの狙いどおりに動いてくれるのもいい。bZ4Xツーリングの開発コンセプトは「グランドツーリングカー」だそうだが、実は高速道路を淡々と移動するのに特化した仕立てというわけでもない。走りを能動的に楽しめるクルマになっている。そうなっているのは、クルマ好きを公言する開発責任者、井戸大介さんのこだわりだ。

bZ4Xツーリングの開発責任者を努めている井戸大介さん。

まずは、大きなモーター出力のコントロール性について。

「アクセルペダルのストロークは短くて10cm、長くても12cm程度しかありません。そのなかで出力をコントロールしなければならない。改良前のbZ4Xは(4WD仕様の)システム最高出力が160kWでした。bZ4Xツーリングは280kW。出力は低いほうがコントロールはしやすくなります。出力が大きくなっても、ちょっと動かしたときにガツンとこないような制御にしたい。トヨタには1997年に出した初代プリウス以来培ってきた電動車のノウハウがある。そこが生きていると思っています」

bZ4Xツーリングはフロント、リヤともに最高出力167kWのモーターを搭載する。リヤはbZ4X比プラス79kWで、リヤに高出力のモーターを搭載しているのがポイント。そのおかげもあり、旋回時にリヤモーターを積極的に使ってライントレース性を高める4WD制御が適用できている。高い悪路走破性もbZ4Xツーリングの特徴で、ヨーロッパで行なったメディア向け試乗会では、井戸さん側からの要望で試乗コースにグラベル(未舗装路)を設定したという。

bZ4Xツーリングの4WDモデルには74.69kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載。システム最高出力280kWとなるeアクスルをを前後に採用し、0-100km/h加速はトヨタブランドで最速となる4.5秒を実現している。それでいて、じゃじゃ馬感なく扱いやすさにあふれた走りを披露してくれるのに驚かされる。

「前輪左右の回転数差を前後の駆動力配分にフィードバックしています。これにより、ライントレース性を上げています。グラベルを試乗コースに入れたのは、その効果を体感しやすくするためです。雪道でもご体感いただけます。bZ4Xツーリングのコンセプトはグランドツーリングカーですが、スポーツカーのように曲がるクルマになっています」

「とくに違いを意識したわけではありませんが(ハードウェアを共有するスバル・トレイルシーカーとは)姿勢の作り方が違う。トレイルシーカーはヨーを最初に出すのに対し、bZ4Xツーリングはロールさせながら前下がりの旋回姿勢を作っていく。目をつぶっていても違いがわかるくらいです」

結果としてスバルとトヨタで走りの味つけに違いが生じたのは、「お互いのファンにとって良かった」と井戸さんは話す。同じ材料を使っても、シェフが違えば違う料理ができる。それと同じだ。

「86とBRZの経験があったからこそ、お互いのカラーがちゃんと出るのはわかっていましたし、実際にその通りになりました。アクセル開度に応じた出力の出し方や、(アクセルオフした際の)減速の出し方もスバル(トレイルシーカー)とトヨタ(bZ4Xツーリング)では異なっています」

bZ4Xツーリングとトレイルシーカーでは、最初から意図的に走りのキャラクターを分けたというより、結果として分かれたのだという。「ハードウェアとしてはほぼ一緒なんですけどね。同じ素材を使っても、別のシェフがつくると違う料理ができた、という感じでしょうか」と井戸さんは振り返る。

EPS(電動パワーステアリング)の味つけも、結果論としてトレイルシーカーとbZ4Xツーリングでは異なっているという。

「わかりやすく言うと、スバルのほうがちょっと重い。手応え感を重視したのでしょう。bZ4Xは意識して軽くしています。コンセプトがグランドツーリングカーなので、楽に移動できるように軽くしました。一般的にはニュートラル付近の壁感を上げてなるべくステアリングが動かないようにし、直進安定性を担保するのですが、bZ4Xツーリングはデフのプリロードを少し上げました。これをやるとLSDのような効果で直進安定性が出せる。なので、ステアリングに壁感を作ってあげなくても真っ直ぐ走る。そこで、ステアリングは軽くし、旋回時に楽に操作できるようにしています」

「私はクルマ好きだから、普通のBEVを作っては満足できなかったんです」

1997年にトヨタ自動車に入社した井戸さんは駆動系部門でキャリアをスタートさせた。最初に手がけたのは初代ヤリス(1999年)で、その後、MR-S(1999年)のSMT(シーケンシャル・マニュアル・トランスミッション)を担当し、レクサスLFA(2009年発表)の駆動系リーダーを務めた。

トヨタMR-Sには国産乗用車初のシーケンシャル・マニュアル・トランスミッション(SMT)が搭載された。クラッチを操作することなく、シフトレバーもしくはステアリングスイッチで変速操作が可能だった。

LFAは、米国市場に投入するには2ペダルが必要だということになった。SMTを手がけた井戸さんは当然(?)、MTベースでシングルクラッチのシステムを提案。採用となったからにはちゃんとやらねば、ということで、150人規模のソフトウェア開発チームを率いた。ソースコードも書け、中学生のときにはその方面で賞をもらったこともある井戸さんは「今でも不具合が出ていないのは良かった」と振り返る。

2010年に世界限定500台で発売されたレクサスLFA。4.8L V10エンジンには、変速速度0.2秒の6速ASG(Automated Sequential Gearbox)が組み合わされた。

LFAを転機に開発側から製品企画側に異動。「珍しい例」として挙げるのは、2021年の東京オリンピック2020で聖火リレーの先導などで活躍したBEVのコンセプトカー「LQ」。その後、プリウスαを経てbZ4Xの開発チームに入った。最近、愛車をbZ4Xツーリングに買い換えたというが、その前は「マニュアル車に乗りたかったから」とダイハツ・コペンに乗っていたそう。

2019年に発表されたLQ。“Learn, Grow, Love”がテーマで、当時、井戸さんは「技術革新やライフスタイルの変化に伴い、お客様のニーズや感動のきっかけが多様化する中、モビリティエキスパートであるAIエージェント『YUI』によって、1人1人のニーズに合わせた特別な移動体験を提供できれば、新しい時代でもクルマは『愛車』であり続けると考えています」と述べていた。

そんな井戸さんは、次のように話す。「私はクルマ好きなんで、bZ4Xツーリング、普通にBEVを作って満足かというと、それはイマイチだと思いまして」と。走らせて楽しいクルマに仕上がっているのは、作り手の意思が多分に反映されているから。bZ4Xツーリングに乗り、作り手である井戸さんから話を伺うにつけ、そう感じずにはいられない。

井戸大介さん(Mid−size Vehicle Company MS統括部 製品企画 ZZ 主査)