スズキが6軒の農家と共同で検証する、太陽光発電×BEVの「自産自消」

スズキは2026年2月より軽トラックのキャリイをベースにした電気自動車(以下、BEV軽トラック)の実証実験を、静岡県浜松市(米、じゃがいも)、湖西市(米、みかん)、愛知県豊川市(ハーブ)、熊本県阿蘇郡(米)の6軒の農家と共同で始めた。

スズキはキャリイをベースにした電気自動車(BEV軽トラック)の実証実験を農家と共同で行なっている。

実証実験は約1年間を予定しており、BEV軽トラックを実際の農作業現場や日常生活で使ってもらうとともに、V2H(Vehicle to Home)システムを活用し、BEV軽トラックのバッテリーに蓄えた電気を自宅で使用するほか、一部の農家では自宅の蓄電池からBEV軽トラックへの充電を行なう。

あわせて、農家から意見を聞きながら車両データおよびV2Hシステムに関するデータを取得し、BEV軽トラックおよびV2Hの活用方法を検証。これらの実証実験を通じ、今後のBEV軽トラックの潜在需要やBEVの電池を活用した太陽光発電エネルギーの自産自消(本来は、自分で生産した農作物を自分で消費することを意味)について検証し、より実用的で使いやすい製品開発やBEV関連サービスの提供につなげる考えだ。

LFP(リン酸鉄リチウム)バッテリーの容量は、あえて“ギリギリ”を狙う

キャリイをベースにしたBEV軽トラックは、2025年5月の『人とクルマのテクノロジー展 2025 YOKOHAMA』(パシフィコ横浜)で展示済みだ。ベース車からエンジンを含むパワートレーンを降ろし、バッテリーやモーターなどの電動コンポーネントに置き換えている。実証実験をお願いする農家は自宅や倉庫に太陽光パネルを設置していることが条件だ。

スズキ側が設置するV2Hスタンドと、貸与するBEV軽トラックに搭載するリチウムイオンバッテリー、それに始動用バッテリーはエリーパワー製。定置用大型リチウムイオンバッテリーの「HYバッテリーLシリーズ」を駆動用バッテリーとして使う。正極材はLFP(リン酸鉄リチウム)だ。人テク展では荷台がくり抜かれてバッテリーが見えるようになっていたが、農家に貸し出された車両は当然、一面の荷台である。自然空冷のバッテリーパックを吊り下げるブラケットの厚み(約5mm)ぶんだけ荷台は高くなっているが、使い勝手を損なわないよう、バッテリーパックを薄くし高さを抑えている。

BEV軽トラックに搭載される駆動用バッテリー。
人テク展での展示では、荷台をくり抜いてバッテリーの存在をアピール。
荷台の厚みは5mm増に抑えられている。

CHAdeMO規格の充給電ポートは車両左側に付いている。つまりDC(直流電流)充電。充電時の出力は6kWだ。現状、家庭用のAC(交流電流)充電には対応していない。AC充給電が必要かどうかを確認するのも、今回の実証実験のテーマのひとつだという。AC100Vのコンセントがあれば、農作業の合間にお湯を沸かしたり、電動工具を使ったりすることもできるが……。

エンジンは降ろしているので、キャビンの下はがらんどう。ベース車でエンジンの後方に位置するトランスミッションをeアクスル(モーター+インバーター+減速機)に置き換えている。農家での使われ方では必須との考えから4WDを選択。eアクスルはベース車のトランスファーと締結されている。モーターとインバーターの冷却用に電動ウォーターポンプを搭載。ラジエーターはエンジン車用を流用している。

バッテリー容量やモーター出力は非公表。モーターはBEVトラック以外への展開を視野に入れた仕様なので出力面である程度余裕があるそうだが、バッテリー容量はコストや重量を抑えたい思いから、「不満が出るか出ないかギリギリのライン」で設定しているという。

CHAdeMO規格の充給電ポートは車両左側に搭載。
モーター/インバーター/減速機が一体となったeアクスル。
トランスミッションはeアクスルに置き換えられている。

室内は2ペダル仕様のキャリイとほとんど変わらない。メーターの横に非常停止ボタンが設定されているのが目立った変化点だ。システムのオン/オフはキーシリンダーにキーを差し込んで行ない、P/R/N/Dのシフトポジションはレバーでセレクトする。センターのディスプレイは航続可能距離やバッテリー残量、バッテリー温度、水温などを表示。取材時は航続可能距離56kmに対してバッテリー残量は80%を示していた。ということは、満充電時の航続可能距離は70kmということになるが……。

メーターの左脇に非常停止ボタンを配置。
センターディスプレイにはバッテリー残量などのデータが表示される。

「このまま置いていってほしい」実証実験に参加する農家からは好評の声

浜松市で実証実験に協力している農家さんから話を伺うことができた。本間伸世さん、悠太さん親子である。母屋と離れにソーラーパネルが載っており、両者の間にV2Hスタンドがある。母屋の裏が畑のひとつで、いったん道路に出て100mばかり走り、畑に入る格好だ。キャベツの収穫は終わり、じゃがいもの収穫に入る時期だという。冬は大根を作る。畑は晴れ続きで乾燥していたとはいえ、4WDでないときついだろうなと思わせる路面だ。

BEV軽トラックが来る前は、2週間に1回程度給油していたという。自宅から1km圏内にガソリンスタンドがあるのは幸いだが、BEVトラックを得たことでその手間はなくなったし、月に80L程度消費していたガソリン代が浮くことになった。どの部分が系統からの電力でどの部分が太陽光かとの切り分けはできていないが、月の電気代が7000円を超えることはないという。畑に消毒液を散布するドローンの充電も行なっており、「太陽光は助かっている」と伸世さん。「軽トラックのBEVを早く作ってもらいたい。なんなら、このまま置いていってほしい」とお気に入りの様子だ。

「燃料の残りを気にしなくていいし、ガソリンスタンドのことを考えずに走れるのがいい」と悠太さん。1km圏内とはいえガソリンスタンドに立ち寄る必要はなく、畑からダイレクトに戻って来られる点を歓迎している。戻ってきたら充電ノズルをBEVトラックに差し込むのがルーティン。バッテリー残量はほぼ常に80%ある状態だという。キャベツの繁忙期には1日に3軒の出荷場所をまわり、ひとまわりすると35km超になるそう。そんな使い方に関し、バッテリー容量面での不安は感じていないという。

「エンジン車は音と一緒にスピードが上がっていく感じですが、電気(BEV)の場合はスッと上がっていく感じ。畑での(4WDの)走りは、最初はおっかなびっくりでしたが、何の問題もなく集荷物を運び出すことができる。今まで(ガソリン車)と同じ値段なら電気(BEV)がいいですね。もう少し大きいほうが一度にたくさん運べて助かりますが」

実証実験に協力している本間伸世さん、悠太さん親子。
スズキが設置したV2Hスタンド。
母屋の裏にある畑への往復でBEV軽トラックは活躍中。
不整路を走るには、やはり4WDが圧倒的に頼もしい。

軽トラックは「働くクルマ」から「エネルギーの拠点」へと進化する

開発を担当するスズキの後藤裕太氏(商品企画本部 四輪インドAセグメント・商用商品統括部)は、「単なる走行評価だけではなく、日常の使い勝手や作業環境での実用性、電動化に対する不安や期待といったリアルな使用価値を把握することが目的」と、実証実験の狙いを説明。さらに、実証実験のもうひとつの柱がV2Hだと説明を続けた。

「従来は働くクルマだった軽トラックを移動手段としてだけではなく、エネルギーを蓄え、活用する存在へと進化させることを狙っています。とくに農業分野では、昼間に太陽光で発電した電力を蓄電し、それを車両や家庭で有効活用することによって、エネルギーの自産自消モデルの実現可能性を検証していきます」

今回の実証実験をもとに、スズキは「現場に合った、ちょうどいい電動化」を実現する考えだ。

スズキはこうした実証実験を通じて、今後のBEV軽トラックの潜在需要やBEVの電池を活用した太陽光発電エネルギーの自産自消について検証し、より実用的で使いやすい製品開発やBEV関連サービスの提供を検討していくという。