語り合うのはこの2人!

津田洋介:80’sスクーターを中心に往時のバイク文化にあまねく精通する「TDF」代表。
宮崎正行:CB750Fにずっと乗っています。グラトラを格安で手に入れました。気負いのまったくない原付みたいな250です。

二輪界のレジェンドライダー 誰も彼には追いつけない

林立する摩天楼のアーバンイメージ(←すべて死語)と平さんだけを際立たせるために、(たぶん)お立ち台のような仮設ステージに立たされたご本人とエクセル。ダブルのスーツの似合うこと!

──人気者の“集客力”に便乗するのがテレビCMの本質だとすれば。

津田:だとすれば?

──“超”がつく人気者だった現役GPレーサー、平忠彦さんの“2枚目”にあやかってCM出演をオファーするも。

津田:するも?

──平さんのカッコ良さばかりがやたらと目立ってしまい。

津田:しまい??

──新商品である50ccスクーター「ヤマハ・エクセル」の魅力が……。

津田:魅力が……?

──全然伝わってこなかった!(笑)

津田:そうそう(笑)。あの当時、1986年にお茶の間に広く流れたヤマハのテレビCMだったね〜。

──いきなり漫才っぽい掛け合いで始めてしまった今回のトークですが、ずばりテーマは「エクセル」です。40代以上の読者のみなさんは憶えていますかね? 30代以下は「知らんがな!」ってカンジでしょうけれど。

津田:ああ、アレね! と頭のなかで車体デザインが像を結んだ人は相当マニアックな人だよ。人気の尺度だけで言えば不人気車だったし、モデルのコンセプト自体も伝わりにくいところがあった。

──どんなバイクだったんですか?

津田:初代“ペリカン”ジョグ、2代目“2JA”ジョグという圧倒的なヒット作を屋台骨にラインナップを形成していた86〜87年当時、ヤマハはその少し上を行くミドルクラスを強化したかったんじゃないかな。いくつかの上級装備をおごりながら大人っぽいルックスを与えたのが新しいエクセルだったんだ。例えばエンジンからのバイブレーションを減らすためマウントに細工を施したり、フロントサスをボトムリンク式にしたり、はたまたボディの塗色にパール系を選んでみたり。

エクセルは1986年6月に「テイスティ・ランナー」を謳って13万5000円で発売された。当時「テイスティ」はやたら流行った和製英語だが、ネイティブ的には“味”にまつわる表現でしか使われない英単語らしい、うむ。

──細工ってなんですか?

津田:ボールベアリングとラバーマウントを組み合わせた防振リンク式エンジン懸架にグレードアップさせて、快適性をアップさせたんだよ。

──エンジンはジョグと同じ?

津田:うん、同型式。でもまったく同じではなくて、こちらのほうが少しだけ馬力を上乗せしていた。ペリカンジョグは当初4.5馬力、最終モデルで5.3馬力に。エクセルはプラス0.5馬力の5.8馬力。ちなみに乾燥重量は59キロでした。

──ジョグ、トライ、ミント、ボクスン、アクティブ……当時の総合カタログにはこれでもかというくらいたくさんのスクーターが並んでいました。売れまくっていたんですね。

津田:キャラの棲み分けがそれぞれのモデルに求められていた。とはいえ「ピタッ!」とお客のニーズにハマるのは難しかっただろうね。一線級のGPライダーをモデルに仕立てて新型車のプロモーションに使おうと思ったら、ふつうに考えればスポーティな車種に当てはめるはず。ヤマハだったらチャンプとか。

かつて何人のライダーが「平になりたい!」と思ったことか

──そこをあえて高級路線のスクーターであるエクセルで起用した。それはやっぱり飛び抜けてカッコよかったからですか?

津田:そうなんだよ! レーサーであろうがなかろうが、モデルとしてすでに成立しちゃってた。であればいっそ……職業レーサー・平忠彦のオフを、(たぶん)素敵であろうプライベートを、CMなりカタログなりで表現してみようと思ったんじゃないかな、演出家は。

──その結果が、“愛車を海水に浸しながら砂浜に寝そべって虚空を見つめる”シーンに結実している、と。

津田:出た、出ました! ねたみそねみ節、全開。2輪界のレジェンドライダー、平さんをひがんでどうすんの? 見苦しいよ!

ツータックパンツに白シャツ、そして両肩に羽織るサマーセーター……完全無欠の80年代ファッションに身をつつむ平さん。軽くイジりたいところだが、そんな邪心を即座に跳ね返すほどカンペキにカッコいいのだ!
都会はスクーター・カントリー」。意訳すると「都市部は原チャリ天国だぜ~」というところか。しかし平さんが横たわるそこは思いっきり海辺の砂浜である。きっと平さんなら立ちションしてもカッコいい。天は二物を、ね。

──いや、津田さんの心の奥底にドロリと沈殿する、ドス黒く渦巻く負の感情を代弁してみたまでです。

津田:人のせいにすんなよ!(笑)

──あれ、バレました?(笑)

津田:バレバレだよ!

──でもそこしかツッコミようがないんですよ、このエクセルの広告ビジュアルは。赤面必至のステレオタイプな“二枚目ナルシスト”を演じさせられているのに、平さんは持ちこたえちゃっている。カッコよさ、揺るぎなし! ギリギリの綱渡りを強いられているにもかかわらず……。

津田:コンプリートしちゃってる。

──そう! しかもそんな男前が革ツナギを着て、鈴鹿サーキットでモンスターマシンを手足のように操るんですから! 神様は本当に残酷。

津田:誰に対して残酷なの?

──われわれ名もなき「その他大勢ライダー」に対して。

津田:ああ、逆説的にってことね。

──僕らが平さんに勝てるところって、何か少しでもありますかね? 2019年現在におけるエイティーズ・スクーターの相場観とか?

津田:おお、それならオレも勝てそうだな!(笑)

──せいぜいそのくらいですよね。

津田:おい!


※こちらの記事はモトチャンプ2019年9月号に掲載されたものです。