旧き良きシャシーに最強の心臓!

HONDATAが描くEKの未来

アメリカ・カリフォルニア州に拠点を置くホンダ車用チューニングECUメーカー『Hondata(ホンダータ)』。純正ECUの書き換えサービスやフレックスフューエル対応の燃料系パーツも手掛けるが、主力製品のひとつが、OBDⅡポートに接続してECUを書き換えるセッティングツール『フラッシュプロ』だ。

プリインストールされたチューニングデータを利用できる手軽さに加え、無料の専用ソフトを使えばレスポンスやスピードリミッターなど、さまざまな制御項目をユーザー自身が調整できる点も大きな魅力となっている。

そんなホンダータが2025年のSEMAショーへ出展したのが、FK8シビックタイプRのK20C型直列4気筒直噴ターボを移植したEKシビックだ。

オーナーはホンダータのサービスマネージャーを務めるハビエル・ロアルカ。彼は自身の愛車を実験車両として使い、自ら開発を主導したK20Cスワップ用フラッシュプロの動作確認だけでなく、エンジンマウントやドライブシャフト、地上高など、スワップに必要な各部を総合的に検証した。

では、なぜECUメーカーの社員がここまで徹底した開発を行ったのか。その理由は、ハビエル自身が「グラスルーツ(草の根)」の精神を何よりも大切にするドラッグレーサーであり、生粋のホンダフリークだからだ。

「私がクルマに情熱を注ぐようになったのは、90年代のストリートレースがきっかけです。ホンダータへ入社する前は、自然吸気B18Cで初めて1/4マイル9秒台を記録した名門ショップ『エリックス・レーシング・エンジン』で働き、自分で製作したEGシビックでプロNA・Bシリーズクラスに参戦していました。2002年にホンダータへ入社してからは、1200psオーバーのK型ターボを搭載したEGシビックで数多くのタイトルを獲得してきました」。

グラスルーツレーサーとして輝かしい実績を積み重ね、現在はホンダータでプロジェクトマネジメントを統括する立場となったハビエル。直噴ターボK20Cを制御するフラッシュプロの開発に成功すると、次なる目標は、その技術を誰もが活用できる形へと発展させることだった。

「K20Cエンジンのチューニングをリードする存在になった以上、このエンジンをさまざまな車種へ搭載できる環境を整えるのは、ごく自然な流れでした」。

ホンダータと並び、このK20Cスワップ実現の立役者となったのが、『OPTION』2026年4月号で紹介したUSオデッセイのビルダー、ジョーダン・ディストリビューター(JDi)だ。

JDiが開発したプラグ&プレイ式スワップ用シャシーハーネス、FK8シビックタイプR純正ECU、そしてホンダータ製K20Cスワップ用フラッシュプロ。この3つが揃うことで、EG/EKシビックやDCインテグラへのK20C換装が現実のものとなったのである。

FK8シビックタイプRから降ろしたK20C型直噴ターボエンジンを、ハスポート製マウントを使って搭載。スプーン製ヘッドカバーが存在感を放つ一方で、MR2純正の電動油圧パワーステアリングポンプをさりげなく組み込むなど、全体的には純正然とした仕上がりが印象的だ。

縦長レイアウトで知られるK型エンジンだが、オイルパンは純正のまま使用。ただし、最低地上高を確保するため、エキゾーストの中間パイプにはステンレス・ブロス製の楕円パイプを採用している。

燃料系にはE85にも対応するホンダータ製CANFlexと、ラジウム製燃料フィルターを装着。ラジエターはライワイヤ製タックラジエターを採用し、コアサポート内へ収めることでエンジンルームをすっきりと見せている。最高出力は319ps、最大トルクは45.5kgmと、北米仕様ノーマルを上回るスペックを実現した。

ホイールはスプーン製SW388に、タイヤはトーヨー・プロクセスR888Rを組み合わせるなど、アメリカのホンダチューナーらしい足元を演出。ブレーキはスプーン製キャリパーに、アメリカ・レンチモブモータースポーツ製282mm・2ピースローターを組み合わせ、制動性能を強化している。

ドライブシャフトは、ノースカロライナ州のドライブシャフトショップへワンオフ製作を依頼。このプロジェクトをきっかけに、現在ではEG、EK、DC2向けK20Cスワップ用アクスルが製品化され、すぐに注文できるようになったという。

インテリアはステアリング、バケットシート、シフトノブをスプーン製で統一。ビレット削り出しのシフターにはK-Tuned製を採用し、機能性とレーシーな雰囲気を高めている。

運転席足元のOBDⅡポートへ接続されているのが、ホンダータ製『K20Cスワップ用フラッシュプロ』だ。

このOBDⅡポートは、JDi製スワップ用コンバージョンハーネスに含まれるもので、各種センサー用配線やリレーボックスも一体化。アクセルペダルは電子制御スロットル対応品への交換が必要となり、メーターについてはJDiがスマートフォンやタブレットによる表示を推奨している。

エクステリアは、カーボンボンネットやフロントスプリッター、ドアミラー、リヤスポイラーまでスプーン製で統一。ハビエルは「グラスルーツなホンダ好きの精神を表現するなら、スプーンが最もふさわしいブランド」と語る。

フロントバンパーから顔を覗かせるインタークーラーはギャレット製。マフラーもステンレス・ブロス製をベースにワンオフで製作され、テールエンドまで美しく仕上げられている。

最後に、ハビエルへ「なぜSEMAに向けた開発車両としてEKシビックを選んだのか」と尋ねると、彼はこう答えた。

「EKはシビックタイプRの原点とも言える、グラスルーツなシャシーだからです。このクルマは確かに私の愛車ですが、このプロジェクトは単なる個人的な願望ではありません。今もEGやEKをベースにホンダチューニングを楽しんでいるグラスルーツコミュニティへ恩返しをしたい―そんな思いも込めています」。

ひとりのホンダ好きが抱き続けた情熱は、現役最強との呼び声も高いK20C直噴ターボを、往年の名車へ違和感なく移植できる環境を築き上げた。その挑戦は、世界中のホンダファンへ新たな可能性を示したと言えるだろう。

Photo:Akio HIRANO Text:Hideo KOBAYASHI

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