ホンダのクロスオーバータイプの軽二輪スクーターがADV160だ。現在、国内正規ラインアップでオフロード色を強く打ち出しているスクーター系モデルは、X-ADVとADV160ぐらい。ADV160は、軽二輪のカテゴリーで根強い人気を誇っていて、近年の新車販売台数では常に上位に顔を出し、中古車市場でも動きが活発だ。そんなADV160の2026年モデルを試乗してみることにした。

軽二輪唯一のアドベンチャースクーター

2020年に発売されたADV150は、街乗りや通勤・通学で扱いやすいスクーターの利便性を保ちながら、長めのサスペンションストロークやブロックパターンのタイヤ、高めに配置されたマフラーなどを採用。舗装路だけでなく、荒れた舗装路やフラットな未舗装路にも対応できる、新しいタイプのアドベンチャースクーターだった。

2023年に156ccのeSP+エンジンや新型フレームを採用したADV160となり、大幅に進化。今回試乗したのは2026年5月に登場したモデルで、5インチTFTフルカラー液晶メーター、Honda RoadSync、USB Type-Cソケットが採用されるなど装備が充実。車体前部側面のカバー形状が変更され、新色も採用している。

156cc・水冷単気筒4バルブのeSP+エンジンは、最高出力16PS/8500rpm、最大トルク15N・m/6500rpmを発揮する。HSTC、前輪ABS、780mmのシート高、8.1Lタンク、前14/後13インチホイールという構成は従来モデルと変わらないが、カラーは「マットパールアジャイルブルー」「マットガンパウダーブラックメタリック」「パールスモーキーグレー」の3色となっている。

全長:1950mm、全幅:760mm、全高:1195mm、軸距:1325mm、最低地上高:165mm、車両重量:137kg。定地燃費は60km/h定速走行時・2名乗車で52.0km/L。WMTCモード値は42.5km/L(クラス2-1・1名乗車時)。実用航続距離の目安はおおむね250〜300km前後だから、ツーリングでも十分に対応できる。価格は53万9000円となっている。

完成度が高いエンジン

エンジンを始動すると、125ccクラスに比べて明らかにアイドリングの音が力強い。スロットルを開けた瞬間、勢いよく飛び出すのかと思っていたら、実際はスムーズそのもの。クラッチのつながり方もおだやかで、回転のフィーリングも滑らかだ。こういうエンジンの性格なので、特にパワフルという感じはしないのだが、十分すぎるくらいのトルクがある。ストリートを走る場合に重要になってくるのが40〜50km/hくらいの特性なのだが、この速度からスロットルを開けると気持ちよく速度が上がる。エキサイティングというわけではないけれど、いつでもパワーに余裕があるので、走っていてまったくストレスがない。半日いろいろな場所を走ってみたが、ライダーを疲れさせるような要素はまったくなかった。

もう一つ出来の良さに感動したのが、アイドリングストップ・システムだ。エンジンが停止している状態からスロットルを開けると、セルが回ったことも感じさせないくらい瞬時にエンジンがかかるから、アイドリングストップの不自然さがまったくない。シティコミューターとしては、とても完成されたパワーユニットである。

安定感の高いハンドリング

ADV160の前後サスはストロークが長く確保されていて、ダンピングも効いている。跨って前後に車体を動かしただけで、スクーターとは思えないくらい上質な動きをすることがわかる。このサスペンションとフレーム、前14/後13インチのタイヤが、非常に安定したハンドリングを生み出している。特に素晴らしいのはフロントの安定感。単に安定感が高いだけでなく、バンクしているときの加減速でも姿勢変化が少ない。街なかを走っているときに、この特性は絶大な安心感を与えてくれる。試しにハードなブレーキングをしながらバンクさせていくような曲がり方をしても、違和感がないくらいだ。

これは剛性の高いフレームも関係しているだろう。街中を走っていても感じられるくらいしっかりしていて、フルブレーキングや高速から深くバンクさせたときも、車体がしなるような感じがない。前後ブレーキは止まるだけでなく、握り込んでいったときもコントロールしやすい特性だ。握りはじめのタッチは穏やかで使いやすいのだが、握り込めばしっかり減速できるだけの制動力がある(ABSはフロントのみ)。レバーのストロークが長めに確保されているので、とても操作しやすいのである。このサス、フレーム、ブレーキのおかげで、ハードにコーナーを攻めることも可能。ブレーキングしたときはもちろん、スロットルをオフにしただけでもフロントがスッと沈んでくれるので、バンクさせるときもリズムがつかみやすい。それでいてダンピングがしっかりと効いているから、ピッチングモーションもほどよく抑えられている。

ストロークの長いサスペンションは路面のショックも吸収してくれるから、乗り心地も非常に良い。通常ならガツンとショックがありそうな大きめの段差も、なんなく越えてしまうのはクロスオーバーモデルならでは。

実はテスターのゴトー、最近普段の足として使える乗り物を探しているのだが、ADV160は非常に魅力的だと思った。実用性が高いことはもちろんだが、単に快適に移動できるだけでなく走り自体も楽しめるし、ツーリングやキャンプ場へ向かう未舗装路までこなせるから、いろいろな使い方ができる。それに趣味性が感じられるマシン作りが、所有欲も満たしてくれる。実に良いところをついたマシンだと思うのである。

ポジション&足つき

車体サイズは、一般的な125ccクラスのスクーターよりもひと回り大きくポジションもゆったりしている感じ。とはいえ、250ccのフルサイズスクーターほど大柄なわけではないから取り回しに苦労するようなこともない。絶妙なサイズ感である。テーパーバーのパイプハンドルは幅が広く、このことも取り回しを容易にしている。前後サスはよく動くので乗り心地は良いが、シートのスポンジは硬めだ。

シート高は780mm。シートは前の方が絞ってあり、後ろに行くに従って広くなるので、座る位置や足の着き方によって足つき性がずいぶん変わる。足つきを気にするのであれば、シート前方に座ったほうが良い。

ディテール解説

フロントフォークはアクスルシャフトが前に位置するリーディングアクスル。サスペンションは130mmのストロークを確保している。

 

フロントブレーキは油圧式のシングルディスクブレーキでディスクローターはφ240mmのウエーブディスク。フロントのみABSを装備している。

 

リアブレーキは油圧式シングルディスクでローターはφ220mmウェーブディスク。リアブレーキにABSは採用されていない。

 

オフロードの走行を意識したマフラー。後端が跳ね上がった精悍なデザインだ。

 

燃費とパワーを両立させたeSP+エンジンは水冷4ストロークOHC4バルブ単気筒 。排気量:156cc 、内径×行程:60.0mm×55.5mm、圧縮比:12.0。Hondaセレクタブルトルクコントロール(HSTC)を採用している。最高出力12kW[16PS]/8500rpm、最大トルク:15N・m[1.5kgf・m]/6500rpmを発揮する。

 

シートは足つきを考慮して前側が絞られている。スポンジはハードな感触でスポーティな走りでもフィット感が良好。

 

給油口はシート前に位置している。燃料タンク容量は8.1Lを確保。

 

シートしたラゲッジボックスは容量29L。試乗に使用したジェットタイプのヘルメットであれば収納が可能だった。

 

フロントのインナーボックスは容量2L。右のボックス内にはUSB-typeCのソケットがあり、スマホなどを充電することができる。

 

左スイッチボックスにはウインカー、ライトのハイロー切り替え、ホーンに加えて、ディスプレイの操作を行う4ウェイセレクトスイッチを配置。Tマークはトラクションコントロールの切り替えを行うことができる。

 

右ハンドルスイッチはキルスイッチ、スターターとアイドリングストップスイッチ。Aのスイッチでアイドリングストップのオンオフを切り替えることが可能。

 

ハンドルはテーパードバーのバイプハンドル。スクリーンは2段階で調整が可能だ。

 

スマートキーシステムを採用。右のスイッチを押すとは給油口のロックが解除される。

 

スマートキーのボタンを押すと車両のウインカーが点灯し、自車の位置を知らせる機能がついている。

 

デュアルヘッドライトはLED.フロントカウルのパーツは分割式でメカニカルな印象を演出している。

 

テールランプやウインカー類もLED.ハードブレーキングを検知するとウインカーが高速点灯して後続車に知らせ、追突を防止するエマージェンシー・ストップ・シグナルを採用している。

ディテール解説

車名・型式 ホンダ・8BK-KF54
全長(mm) 1,950
全幅(mm) 760
全高(mm) 1,195
シート高(mm) 780
車両重量(kg) 137
燃料消費率*1(km/L) 国土交通省届出値:定地燃費値(km/h) 52.0(60)〈2名乗車時〉
燃料消費率*1(km/L) WMTCモード値(クラス) 42.5(クラス 2‐1)〈1名乗車時〉
エンジン種類 水冷4ストロークOHC4バルブ単気筒
総排気量(cm³) 156
最高出力(kW[PS]/rpm) 12[16]/8,500
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm) 15[1.5]/6,500
燃料タンク容量(L) 8.1