300ps級のトヨタ「GRカローラ」やホンダ「シビック タイプR」に対抗する、より強力なWRXを期待!

スバル「WRX」が北米市場で驚異的な販売増を記録した。2026年6月の販売台数は前年同月比252.3%増。長らく苦戦が続いていたスポーツセダンが、一転して復調を見せている。

スバル RWX tS

その理由は、大幅なパワーアップでもフルモデルチェンジでもない。スバルが実施した「価格戦略の見直し」だった。

スバル・オブ・アメリカが公表した販売実績によると、2026年6月のWRX販売台数は1233台。前年同月はわずか350台だったため、252.3%増という大幅な伸びとなった。

スバル RWX tS

もちろん、前年の販売台数が極端に少なかった反動もある。それでも2026年1~6月の累計販売台数は7108台となり、前年同期の6431台から10.5%増加している。単月だけの特殊な現象とは言い切れない。

転機となったのが2026年モデルだ。

北米向けWRXは2025年モデルでエントリーグレードの「Base」が廃止され、「Premium」が事実上の最廉価モデルとなっていた。結果としてWRXの購入価格は大きく上昇し、手頃なAWDスポーツセダンという従来の魅力が薄れていた。

そこでスバルは、2026年モデルで戦略を変更。Baseを復活させ、車両本体価格を3万2495ドルに設定した。2025年モデルの最廉価仕様と比べると5255ドルもの値下げとなる。

値下げはBaseだけではない。Premiumは3万3995ドルとなり前年から3755ドル、Limitedは3万8995ドルで3685ドル、GTとtSも4万4995ドルとなり、それぞれ2710ドル引き下げられた。

つまりスバルは、WRXの商品内容を大幅に変えるのではなく、価格そのものを見直すことでユーザーとの距離を縮めたのである。

それでもWRXの商品力が失われたわけではない。北米仕様には最高出力271hpを発生する2.4L 水平対向4気筒直噴ターボを搭載し、スバル伝統のシンメトリカルAWDを組み合わせる。Baseを含め6速MTを選択できることも、現在の北米市場では貴重な存在だ。

高性能グレードの「tS」には、ブレンボ製ブレーキやSTIチューニングの電子制御ダンパーなどを採用。エンジン出力そのものは標準モデルと同じ271hpだが、シャシー性能を引き上げた仕様となっている。

一方、WRXには依然として大きな空白も残されている。「WRX STI」の不在だ。

現行WRXには、かつてのWRX STIに相当する本格的なハイパフォーマンスモデルが存在しない。300ps級のトヨタ「GRカローラ」やホンダ「シビック タイプR」と比較すれば、より強力なWRXを求めるファンがいるのも当然だ。

それでも今回の販売急増は興味深い。WRXそのものがユーザーから支持されなくなったのではなく、価格設定が購入のハードルを引き上げていた可能性を示しているからだ。エントリーグレードを復活させ、5000ドル以上も購入価格を引き下げたことで、再びユーザーがWRXへ目を向け始めた。

日本市場では事情が異なる。国内で販売される「WRX S4」は、スバルパフォーマンストランスミッション(CVT)との組み合わせのみで、北米仕様に設定される6速MTは選択できない。また、北米のような廉価なBaseグレードも用意されていない。そのため日本では、単純な値下げ以上に「MT仕様が欲しい」「WRX STIを復活させてほしい」という声が根強い。ただし、現時点でスバルから現行WRXをベースとしたWRX STIの市販化について正式な発表はない。

5000ドルを超える価格見直しによって、販売台数を一気に回復させた北米WRX。スポーツカー市場が縮小するなかでも、価格と商品構成次第ではユーザーを呼び戻せることを示した好例といえる。

そして日本のWRX S4に必要なのは価格なのか、それともMTや「STI」という存在なのか。北米で起きたWRX復調は、日本市場の商品展開を考えるうえでも興味深い結果となった。