走って考え、理論で磨いた快速レガシィ

メーカーの設計思想を読み解く玄人チューン

走りのパフォーマンスアップを狙うコアなスバル乗りたちが集う“ボクサーパラノイア”。その中には、実は自動車メーカーの技術者や関連企業の社長なども多く、自らが設計や開発に携わった車種を、ポルシェやBMWに後塵を拝させる一台に仕上げている例もある。まさに、新車一台をメーカーでまとめ上げる能力を持つ者が、自分の愛車に手を入れて磨き上げているわけで、そのレベルはショップでも敵わないほどだ。

今回取材したBL5は、そんな一台だ。ボクサーパラノイアの顧客でありながら、エンジン製作から足回りの全面的な見直しまで、オーナーの赤鬼さん自らが手掛けている。

「2003年式で、これが2台目のBL5になります。1台目は袖ケ浦フォレストでクラッシュして、全損させてしまったんです。ちなみに、ハコ替え用にボディ色が同じガーネットレッドパールのAT車もストックしています」。

エンジンはHKS製クランクシャフト、ピストン、H断面コンロッドで本体を強化。EJ20系の弱点とされるメインボルトやヘッドスタッドは、すべてARP製に置き換えられる。また、ボクサーパラノイアで製作されるエンジンと同様、ピストンクリアランスには赤鬼さん独自の数値を採用。エンジンと燃焼理論を得意分野とする本人の見識を活かした仕様で組み上げられている。タービンはHKS GTⅢ-RSを選択した。

GTⅢタービンに合わせたサクションパイプは、HKS製カーボンWRX STI用をベースに赤鬼さんが加工。途中でカットし、コンプレッサー入口側にはドライカーボンのストレート管を継ぎ足している。

インマニの間から覗くと、カーボン地の違いからその加工跡を確認できる。

トップマウントのインタークーラーはノーマル。高ブースト下ではカシメが開いてタンクが外れる可能性があるため、カーボンシャフトを接着剤で貼り付けて補強する。また、インタークーラーの下には電動ファンを追加。ボンネットダクトからの走行風を強制的に引き抜き、冷却性能を高めている。

仕様的には450~480psのポテンシャルを持つが、謙遜気味に「現状350psくらいだと思います」と笑いながら話す赤鬼さん。これはもしかすると、かつてロールスロイスがエンジンスペックを明かさなかった、あのプロのノリなのかもしれない。

エンジンと並んで足回りも大きな見どころだ。まずフロントは、ハブ、ナックル、ロワアームをGRB純正に交換。トレッドを約20mm拡大している。

また、アッパーマウントにはワンオフプレートを追加。ワイドトレッド化に合わせて、ダンパーをより内側に倒せるように手直しされている。

同時にストラット(ダンパー)の内傾斜角を増すことで、ロールセンターハイトも高められている。理屈では、これによってリヤ荷重が高まり、アンダーステア傾向が強まるはずだ。が、AWDゆえのフロントヘビーに対してキャパシティが不足気味な265幅のタイヤでは、トレッド拡大によって軸重の負担が軽減され、タイヤの腰砕け感をなくす。つまり、限界付近でのアンダーステア傾向は回避される方向に働くのである。

さらに、フロントサス一式をGRB純正に交換することで、PCDも100から114.3に拡大。これは筑波や富士、本庄、袖ケ浦フォレストに通い、サーキットアタックを楽しむ赤鬼さんにとって、大きなメリットとなる。

「レガシィの場合、PCD100のハブベアリングでは、筑波サーキットの30分枠を赤鬼さんのドライビングで走り切るのは不可能。実際、20分もたたずに前輪をグラグラにしてしまった例もある。サーキット走行が前提なら、PCDの114.3化はマストだよね」と話すのは、ボクサーパラノイアの桑原さんだ。

車高調はHKSハイパーマックスⅢベースの特注品。当時、BL5用は快適性を重視した車高調が多かったが、HKSサスペンションの開発責任者だった尾崎氏にリクエストし、高速巡航とサーキット走行にマッチする特性に仕上げてもらった。ブレーキはエンドレス6ポットキャリパーと340φローターを装着する。

フロントキャリパーの裏側には温度センサーを追加。データを取りながら、走行状況に応じた温度変化を監視する。

一方、リヤサスにも独自の改良が施される。その最たる例が、トレーリングアーム前端のブッシュだ。前後方向の動きを規制しながら、左右方向にはスムーズに動くリニアスライド機構を装備する。これによりトーコントロールリンクを顕在化させ、レガシィのリヤサスを設計どおりに完璧に作動させる。

以前は、トー角制御のためにリニアベアリングを装備していたこともあるという。一般的には強化ブッシュを使うケースが多いが、トレーリングアームは前端で左右にフリーでなければならない。トー角はトーコントロールアームで制御されるのである。

ブレーキはエンドレス製で強化が図られる。しかし、キャリパーが薄く削られて妥協の跡が見え隠れするレガシィ用チビロクではなく、パッドが厚く、本格的な走行にも対応する汎用6ポットを選択。リヤにはグローバルのキットをベースに、特製ブラケットを介してS2キャリパーを装備する。

パッドはCC40~60を指定。エンジンスペックがもたらす動力性能と赤鬼さんの走りを考えると、このパッドは外せないチョイスと言える。なお、リヤのPCDはワイドトレッド変換スペーサーを組んで114.3化。ホイールの前後互換性と利便性を考慮してのことだ。

ダッシュボード上にはイノベートA/F計、デフィブースト計とアドバンスZDを装着。エンジンの状況をリアルタイムでモニタリングする。ステアリングホイールは純正だが、グリップ部をロブソンレザーで巻き直し。シフト&サイドブレーキブーツの製作とダッシュボードの張り替えは、赤鬼さんがDIYで行ったものだ。

運転席はブリッド・ストラディアをベースとしたボクサーパラノイアの限定品。ビニールレザー張りのサイドサポートは、体温で温められるとドライバーの体形にフィットする。

「シートレールに背もたれのマウントをダイレクトに設け、前方に座面をセットした設計は、ワンピース構造のバケットより剛性が高いよね」と桑原さん。

外装は、STI製フロントリップスポイラーと控えめなリヤGTウイングを装備する以外、ほぼノーマル然とした出で立ち。それでも、テストでよく足を運ぶという本庄サーキットでは、並み居るGDBやGRBを上回るタイムをコンスタントに叩き出す。

決してサーキットスペシャルではなく、ナンバー付きで毎日の通勤にも使われる一台。BL5が見せてくれたのは、まさに“セダンチューンの理想形”だった。

⚫︎取材協力:ボクサーパラノイア 群馬県前橋市力丸町187-3

「動的バランス・ブロック剛性・排気量…」水平対向を知り尽くした男が語るフラット6の優位性とは

向かい合ったピストン同士が左右対称に往復するため、直列やV型に対して振動面で有利。それが広く知られる水平対向エンジンの特徴で、4気筒はもちろん、6気筒ではスムーズさに一層の磨きがかかる。そこでスバル車チューンを手掛け、同じ水平対向6気筒を搭載する空冷ポルシェ911乗りでもあるボクサーパラノイア代表の桑原さんにフラット6を語ってもらった。

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ボクサーパラノイア
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