米国では約550万円もの購入支援に加えて1万5000ドル分の水素燃料まで提供

トヨタ MIRAI

トヨタが世界に先駆けて市販化した燃料電池車(FCEV)「MIRAI(ミライ)」を取り巻く環境は、依然として日米で厳しい状況にあると言えるようだ。

とくに驚かされるのが米国だ。2026年モデルのMIRAIは5万1795ドルからだが、現在トヨタは条件を満たす購入者に対し、3万5000ドル(約550万円)もの購入インセンティブを設定している。

さらに72回までの金利0%ローンも用意。現在のオファーは2026年9月30日までとなっている。米トヨタ公式サイトでも、この3万5000ドルのキャッシュインセンティブと0%APRが確認できる。 

しかも購入者には、1万5000ドル分、または6年間のいずれか早い方まで水素燃料を無償提供するプログラムも用意されている。つまり車両購入時だけでなく、その後の燃料代まで手厚く支援しているわけだ。

それでも、MIRAIの販売は伸び悩んでいる。

元資料によれば、米国販売は2024年の499台から2025年には210台へ減少し、57.9%減となった。2026年も1~7月累計152台にとどまるという。

なぜ、車両価格に匹敵するほどの購入支援を用意しても、販売につながらないのだろうか。

最大の壁となっているのが、水素インフラの整備

トヨタ MIRAI

米国でMIRAIが販売されるカリフォルニア州でも水素ステーション網は限られており、供給障害などによって一部施設が利用できなくなるケースも発生している。

MIRAIそのものの商品力が低いわけではない。

現行型は後輪をモーターで駆動するFRを採用し、米国仕様のEPA推定航続距離は最大402マイル(約647km)。2026年モデルもToyota Safety Sense 3.0などを標準装備している。 

航続距離だけを見れば、長距離移動にも十分対応できる水準だ。それでも燃料を補給できる場所そのものが少なければ、一般ユーザーにとって購入のハードルは高い。

そして、この問題は米国だけの話ではない。

日本でもMIRAIの販売は厳しい状況にある。

現行2代目は2020年12月に登場。初代からプラットフォームを一新してFR化し、従来の環境対応車というイメージから、高級スポーツセダンを思わせるスタイルへ大きく方向転換した。

国内販売も一時は年間2000台を超えたものの、その後は急減。元資料によれば2021年の2438台から、2022年831台、2023年318台、そして2024年には97台と、ついに年間100台規模まで落ち込んだ。2025年上半期も41台にとどまったとしている。 

それでもトヨタはMIRAIを終わらせてはいない。

2025年12月22日には一部改良を実施。現在の国内価格は「G」が741万4000円、「Z」が821万5900円となっている。

さらに今回の改良では、スマートフォン向けカーナビアプリ「moviLink」との連携にも対応した。

MIRAIと連携したTOYOTAアカウントでログインすると、ルート検索時に水素ステーションへの立ち寄りを提案する機能などが利用できる。水素ステーションの少なさというFCEV特有の課題に対し、ソフトウェア側から利便性を高めようという取り組みである。 

しかし、日本でも根本的な課題は変わらない。

BEVなら自宅に充電設備を設置することも可能だが、MIRAIは水素ステーションへ出向かなければ燃料を補給できない。水素価格も事業者やステーションによって異なる。

クルマ自体が優れていても、燃料を手軽に入れられなければ普及は難しいというわけだ。

一方、MIRAIの販売不振をもって「トヨタが水素を諦めた」と考えるのも早計である。トヨタは燃料電池技術を乗用車だけでなく商用車や定置用発電などへ広げるとともに、水素を直接燃焼させる水素エンジンの開発も続けている。

つまり、現在のMIRAIの苦戦は単なる「不人気車」の話ではない。

米国では約550万円もの購入支援に加えて1万5000ドル分の水素燃料まで提供。それでも販売は低迷し、日本でも年間100台規模まで縮小している。

クルマの完成度だけではFCEVは普及しない。

日米におけるMIRAIの苦戦は、水素ステーションの整備や燃料供給を含めたインフラ全体を拡大できるかどうかが、FCEV普及の最大のカギであることを改めて浮き彫りにしている。