トヨタにとって、スポーツカーやレーシングカーの開発は珍しいものではない。しかし、2027年頃の発売を目指して開発が進む「GR GT」は、これまでの市販GRとは明らかに立ち位置が異なる。

新開発のV8ツインターボを積むフラッグシップでありながら、生産規模は極めて小さい。米国市場への割り当てはわずか200〜250台程度とされ、トヨタ北米部門で自動車事業を担当するアンドリュー・ギルランド上級副社長は、海外メディアの取材に対し、GR GTについてクルマ単体では財務的に意味をなさないという趣旨の発言をしている。

つまりGR GTは、1台でも多く売って利益を稼ぐためのクルマではない。一時は米国割り当て分が「発売前に完売した」とも報じられたが、トヨタは2026年8月、正式な事前販売や売買契約はまだ行なわれておらず、購入者も決定していないと説明している。

では、世界最大級の自動車メーカーであるトヨタが、なぜ数百台規模のスーパーカーに巨額の開発リソースを投じるのか。

トヨタ GR GT RS 市販型プロトタイプ スパイショット

その答えを探るうえで欠かせないのが、GR GTと同時に開発されている「GR GT3」の存在だ。
GR GTは、TOYOTA GAZOO Racingの新たなフラッグシップとして開発される公道用スポーツカーである。新開発の3998cc V8ツインターボエンジンに1基のモーターを組み合わせたハイブリッドを搭載し、システム最高出力650ps以上・最大トルク850Nm以上を目標とする。駆動方式はFRで、新開発8速ATを採用。車両重量1750kg以下、最高速度320km/h以上も開発目標値として掲げられている。

骨格にはトヨタ初となるオールアルミニウム構造を採用。前後重量配分は45:55とされるなど、「公道を走るレーシングカー」というコンセプトを文字どおり形にしようとしている。

そして、このGR GTをベースにFIA GT3規格へ仕立てたレーシングカーがGR GT3だ。GR GTと骨格部品の多くを共用しながら、3998cc V8ツインターボのこちらはICEを搭載する。

GR GT3 プロトタイプ/GR GT プロトタイプ

GT3はメーカーのワークスマシンだけが競うカテゴリーではない。プロドライバーからジェントルマンドライバー、プライベートチームまでが参戦する世界規模のカスタマーレーシングカテゴリーである。
トヨタもGR GT3を「レースで勝ちたいと願うすべてのカスタマー」に向けたマシンと位置づけている。つまり、GR GTの開発は公道用スーパーカー1車種で完結するものではなく、カスタマーモータースポーツ事業にも直結しているのだ。

GR86など比較的身近なモデルでモータースポーツを始め、さらに上のカテゴリーへ進み、最終的にはGT3へ――。そんな「階段」を用意できれば、レースは単なる広告活動ではなく、ユーザー自身が参加するGRブランドの大きな柱になる。

トヨタ GR GT RS 市販型プロトタイプ スパイショット

さらにGR GTの技術は、サーキットだけにとどまらない。
もう1台、重要な存在となるのがレクサス「Lexus LFA Concept」だ。

LFA Conceptは、GR GT/GR GT3と並行して開発されているBEVスポーツカーのコンセプトモデルである。一見するとV8ハイブリッドのGR GTとはまったく別のクルマだが、「低重心」「軽量・高剛性」「空力性能の追求」という開発思想を共有している。

Lexus LFA Concept

さらにLFA Conceptには、GR GT/GR GT3と技術を共有する軽量・高剛性のオールアルミニウム骨格が採用されている。

つまり、

GR GTはV8ツインターボ+ハイブリッドの公道用フラッグシップ。
GR GT3はV8ツインターボで世界のレースを戦うカスタマーレーシングカー。
LFA ConceptはBEVスポーツカー。

パワートレインも用途も異なる3台が、スポーツカーづくりの根幹となる技術と思想を共有しているのである。

Lexus LFA Concept/GR GT/GR GT3

これは開発投資という面でも重要だ。
GR GTを数百台販売するためだけに、新しいアルミ骨格やV8エンジン、空力技術を一から開発するなら、採算を合わせるのは容易ではない。しかし、その技術をGR GT3やLFA Concept、さらに将来の商品へ広げていけば、開発プロジェクト全体の意味は大きく変わる。

トヨタ自身、この3台を「トヨタの式年遷宮」を体現するモデルと位置づけている。
TOYOTA 2000GTや初代LFAで培ったスポーツカーづくりの技術や技能を絶やさず、ベテランから若手エンジニアへ受け継ぐ。そのうえで新しい技術を加え、次の世代へ渡していくという考え方だ。

トヨタ 2000GT
レクサス LFA

GR GTの開発費は、1台のスーパーカーを作るためだけの費用ではない。トヨタがこの先もスポーツカーを作り続けるための技術と人材への投資という側面がある。

GR GT3も、現在GT3カテゴリーで戦うレクサス「RC F GT3」に代わって、トヨタ/レクサス陣営のGT3活動を担う存在になっていく。さらに、そこで鍛えられる高剛性・軽量化、空力、パワートレイン制御などの技術が、将来のGRモデルや量産車へ広がることも考えられる。

レクサス RC F GT3

実際、トヨタはGR GT、GR GT3、LFA Conceptについて、レースで鍛えたプラットフォームを起点に「トヨタのすべてのクルマに貢献していく存在」と説明している。

GR GTで問われているのは、200台、300台を売っていくら利益を残すかではない。
GR GT3でレースを戦い、LFA Conceptへ技術をつなぎ、そこで得た技術と人材を次のクルマへ渡していく。GR GTは単なる超高額スーパーカーではなく、トヨタがスポーツカーを作り続けるための“技術継承装置”でもあるのだ。