わずか22万円の差が選択を左右? 3グレード構成に隠された販売戦略

新型SUVの価格が上昇するなか、マツダ「CX-5」の330万円というスタート価格は、国産ミドルサイズSUVとして目を引く存在だ。

マツダ CX-5

2026年5月21日に発売された新型CX-5は、全長4690mm、全幅1860mmへとボディを拡大。室内空間や安全性能を進化させながら、最廉価グレード「S」の2WD車を330万円に設定した。

マツダ CX-5

マツダが6月23日に発表した初期受注データによると、6月21日時点で国内受注は1万台を突破。月間販売計画2000台の5倍を超える好調なスタートとなった。

グレード別の受注構成を見ると、最上級の「L」が65%、中間の「G」が32%を占め、最廉価の「S」はわずか3%だった。つまり、受注全体の97%をSより高いグレードが占めたことになる。 

それでもマツダが330万円のSを設定していることには、どのような意味があるのだろうか。

まず、新型CX-5の価格構成を見てみよう。2WD車のメーカー希望小売価格(税込)は、Sが330万円、Gが352万円、Lが407万円となっている。SとGの価格差は22万円だが、GからLになると55万円に広がる。

ここで興味深いのは、Sが単に装備を大幅に省いた廉価仕様ではないことだ。Sにも12.9インチのセンターディスプレイや前席シートヒーターが標準装備され、新型CX-5の特徴である広い室内空間や基本的な安全性能は上級グレードと共通している。

一方、Gではシート表皮に合成皮革とレガーヌを組み合わせ、パワーリフトゲートなどの快適装備を充実させている。さらにLでは本革シートや15.6インチの大型センターディスプレイ、ハンズフリー機能付きパワーリフトゲートなどを採用。上級SUVとしての質感や利便性を高めている。 

つまり、Sでも新型CX-5の基本的な魅力を味わえる一方、22万円を追加すれば快適装備が充実したGを選べる。この価格差が、購入者のグレード選択に影響している可能性がある。

では、そもそもなぜCX-5は330万円という価格を実現できたのだろうか。

理由のひとつとして考えられるのが、パワートレインの構成だ。新型CX-5には、2.5L直列4気筒ガソリンエンジンにマイルドハイブリッドシステムを組み合わせた「e-SKYACTIV G 2.5」を搭載している。

日産「エクストレイル」のe-POWERや、トヨタ「ハリアー」のハイブリッドとは電動化の仕組みが異なり、比較的シンプルなシステムを採用している。

また、スバル「フォレスター」が全車AWDであるのに対し、CX-5には2WDも用意されている。こうした商品構成が、330万円という入口価格を設定できる要因のひとつと考えられる。

もっとも、マイルドハイブリッドの採用や2WDの設定だけで、ライバルとの価格差をすべて説明できるわけではない。装備内容や車両設計、生産規模、メーカーごとの価格戦略も異なるためだ。

注目したいのは、CX-5がマツダの販売を支える中核モデルであることだ。

2012年の初代登場以来、CX-5は世界100以上の国と地域で販売され、2025年末までに世界累計生産台数、累計販売台数の双方が500万台に到達した。2018年以降はマツダの最量販車種となっており、ブランドを支える重要な存在へと成長している。

一方、マツダはCX-60やCX-80など、より上級のSUVも展開している。そのなかでCX-5まで400万円台からの価格設定となれば、ミドルサイズSUVを比較的手頃な価格で購入したいユーザーにとって、選択肢が狭まることになる。

330万円のSは、こうしたユーザーをCX-5の購入候補につなぎとめる役割を担っているとも考えられる。

さらに、SとGの価格差を22万円に抑えることで、購入者が予算や装備内容を比較しながら上級グレードを検討しやすい構成にもなっている。

実際、初期受注ではLが65%と圧倒的な人気を集めた。マツダの発表によると、Lではスポーツタン内装が約4割を占めており、購入者が内装の質感や快適性を重視している様子もうかがえる。

ただし、Sの受注比率が低いからといって、その存在意義が薄いとは限らない。

新型車の発売直後は、上級仕様を希望する購入者や、装備の充実したモデルを早期に手に入れたいユーザーが多くなることも考えられる。今回の3%という数字は、あくまで初期受注段階のものであり、今後も同じ比率が続くとは限らない。

また、購入予算を重視するユーザーにとって、330万円から選べること自体が重要な意味を持つ。実際にSを購入するかどうかにかかわらず、CX-5を購入候補に加えるきっかけとなるからだ。

最廉価グレードを設定する目的は、必ずしもそのグレードを大量に販売することだけではない。購入の入口となる価格を抑えながら、装備や予算に応じて上級グレードへ選択肢を広げることにも意味があるのだ。