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ハスクバーナMCを躍進させたスヴァルトピレン・シリーズ
試乗会前日に行われたプレスカンファレンスの冒頭で、司会を務めたハスクバーナ・モーターサイクルズ(以下ハスクバーナMC)のプロダクト・マーケティング・マネージャーは、誇らしげに42万台と書かれたスライドを提示した。それは2013年にハスクバーナMCがKTMグループの一員となってからの約10年間で販売したバイクの数だという。そしてその約18%がスヴァルトピレン・シリーズおよびヴィットピレン・シリーズ(ともに701/401/250/125の各排気量モデル)だと。この両シリーズがラインナップに加わったのは2018年であるから、正味5年でこれほどまでのシェアを確立したことになる。それほど、ハスクバーナMCと言えばスヴァルトピレンおよびヴィットピレンなのである。
その最大排気量モデルが、今回発表された新型「スヴァルトピレン801」と言うわけだ。その新型車は排気量799ccの水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブエンジンを、エンジンをフレームの一部として使う、クロームモリブデン鋼管チューブラーフレームに搭載。最新の電子制御技術を搭載した。前身モデルであるスヴァルトピレン701が、排気量693ccの水冷4ストローク単気筒OHCエンジンを、トレリス構造のクロームモリブデン鋼パイプフレームに搭載していたことを考えると、その車体構成は大幅に変更されたことになる。
またスタイリングも大きく変化した。無機質でクリーンな曲面で構成された外装類のデザインコンセプトは継承されているが、フロント18インチ/リア17インチのホイールサイズにゼッケンプレートをアレンジしたヘッドライトカバーやシートカウルを採用したフラットトラックスタイルから、前後17インチホイールにブロックタイヤを装着したスクランブラースタイルとなった。
しかし、ここでふと疑問が浮かんだ。前身の701シリーズにはスヴァルトピレンとともにカフェレーサースタイルのヴィットピレンがあり、今年2024年4月から国内販売がスタートした、フルモデルチェンジを受けた401シリーズはスヴァルトピレンとヴィットピレンを同時にリリースした。では何故801はスヴァルトピレンのみが発表されたのか。その理由は、ネイキッド・カテゴリーの両モデルの中で、スヴァルトピレンが世界中で支持されているから。並列2気筒エンジンの搭載や新型フレームの採用、最新の電子制御デバイスの搭載といった多くのチャレンジを含んだ801シリーズの最初のモデルとしては、その広く支持されているスヴァルトピレンのプラットフォームを利用したと、プロダクト・マネージャーが応えてくれた。その話の流れで、じゃあヴィットピレン801のプランはあるのかと聞くと、いまはスヴァルトピレン801を成功させることに集中していたので、いまのところバリエーションモデルについては何も考えてないと、はぐらかされてしまった。これまでハスクバーナMCのネイキッド・カテゴリーでは、各排気量でスヴァルトピレンとヴィットピレンをそれぞれラインナップしてきた(国内導入ではいずれか1モデルの排気量もあったが……)。その方程式から鑑みると、801シリーズにも両モデルがラインナップされるのは時間の問題であると考えるが……。
扱いやすさとスポーツ性を高い次元でバランス
新型「スヴァルトピレン801」に跨がって感じるのは、そのコンパクトさだ。シート高が低いのはもちろん、ステップに足を載せ、ハンドルに手を伸ばしてライディングポジションを採ったときに、車体が小さく感じられ、何とも言えない安心感が生まれる。なにせシート高は、先に発売された新型401シリーズと同じ820mmだ。遠目から車体を見たときに感じた、少し大きい?というファーストインプレッションからのギャップも、小ささを印象づける要因かもしれない。開発陣に話を聞くと、意識的に車体を大きく設計したという。事実燃料タンクは容量を増やし、それによってタンクそのものも大型化しているし、ホイールベースも伸びている。もちろん並列2気筒エンジンは単気筒よりも幅広い(とはいえこの2気筒エンジンはラジエターなど他のユニットを含めて重量52kgとかなり軽量でコンパクトだが……)。その理由は、車体の大きさがもたらす安定感や快適性も、新型「スヴァルトピレン801」の魅力として最大化したかったからだという。
だからといって新型「スヴァルトピレン801」は、ゆったりノンビリ走るだけのバイクではない(もちろん、そんな走りもできる。排気量を拡大したことを含め、低回転域でのトルクもしっかりと造り込まれている)。いま欧州および北米ではシェアが拡大しつつある排気量1000cc以下のスポーツバイクカテゴリーにおいても、存在感を発揮するスポーツ性能も併せ持っている。排気量799ccの並列2気筒エンジンは、ハスクバーナMCと兄弟ブランドのKTMだけが採用する爆発間隔が与えられていて、さらに2つのバランサーを内蔵することで、振動が少なく滑らかなエンジンの回転上昇とともに、独特のパワー感が造り上げられている。またレイン/スタンダード/スポーツという、出力特性が異なる3つのライディングモードを持ち、オプションのダイナミック・パッケージを選択すれば、さらにダイナミック・モードが追加され、都合4つのライディングモードを手に入れることができる。それにコーナリングABSやMTCと呼ばれるトラクションコントロールなど、パフォーマンスにも安全性にも効く各種電子制御デバイスを搭載し、それらのセッティングを変更して組み合わせることで、パワーが「有る」「無い」なんてステレオタイプではなく、スポーツからツーリングはもちろん、「アガがってる」「オチてる」というライダーの気分に合わせて多様なキャラクターをアジャストすることができる。簡単に調整できるサスペンションの調整機構はその変化量が分かりやすく、設定した足周りの変化も、それら多様なキャラクターをさらに際立たせる。
こんなエンジンと足周りの変化を受け入れ、ガンガン走れてしまうのは、新たに採用した新型フレームによるところも大きい。エンジンをフレームの一部として利用することで軽量&コンパクトに造られたそのフレームこそが、飛ばして良し、流して良しの高バランスを生み出す要とも言える。
スタイリングについては…もう何も言うことは無い。そのコンセプトも基本的なデザインも、ビットピレン401コンセプトが最初に発表されてから10年の歳月が過ぎているとは思えないフラッシュさがある。このスタイルとパフォーマンスの高バランスこそ、ハスクバーナMC/ネイキッドカテゴリーの各モデルの特徴だ。いまのところ、その特徴をリッチに体験できるのが新型「スヴァルトピレン801」と言うわけである。
ライディングポジション&足つき性(170cm/65kg)
820mmというシート高は、今年2024年4月から国内販売がスタートした401シリーズと同じ。800ccモデルとしては非常に足つき性が良い。また膝の曲がりは自然で、タンクシェイプ部も細くニーグリップしやすい。わずかに前傾するが、グリップは自然な位置にある
「スヴァルトピレン801」主要諸元
■ホイールベース 1,388mm(+/-15mm)■シート高 820 mm■車両重量 約181kg(燃料除く)■エンジン形式 水冷4ストロークDOHC4バルブ並列2気筒■総排気量 799㏄■ボア×ストローク 88.0×65.7 mm■圧縮比 12.5:1■最高出力 77kW(105hp)/9,250rpm■最大トルク 87Nm/8,000rpm■燃料供給方式 FI■燃料タンク容量 14L■レイク角 65.5度■フォークオフセット量 32mm■トレール 97.9mm■フレーム クロームモリブデン鋼チューブラーフレーム■サスペンション(前・後)WP製APEX43mm倒立タイプ/伸側圧側減衰力調整/140mmトラベル・WP製APEX/伸側減衰力およびプリロード調整&150mmトラベル■変速機形式 6速リターン■ブレーキ形式(前・後)320mmダブルディスク×ラジアルマウント4ピストンキャリパー・240mmシングルディスク×ワンピストンキャリパー■ホイールサイズ(前・後)3.50×17・5.50×17■タイヤブランド ピレリ製MT60RS■価格 1,389,000円(税込)