ダート走破性を求めるライダーに、前21インチが頼もしい!|CRF1100Lアフリカツイン<S>試乗記

ホンダのアドベンチャーツアラーカテゴリーの上級モデルがCRF1100Lアフリカツインです。現在はフロント21インチタイヤを採用した<s>と、フロント19インチタイヤに24Lビッグタンクを装備したアドベンチャースポーツESの2機種があり、それぞれにDCT車を設定しています。これら4タイプのアフリカツインの中でもっともオフロード走行性が高いのが、今回試乗したアフリカツイン<s>です。

メーカー希望小売価格:1,639,000円(税込み)

写真:徳永 茂

CRF1100Lアフリカツイン<S>……1,639,000円

ストローク量の大きいサスペンションがオフ色を強めている

「アフリカツイン」の名を復活させてCRF1000Lアフリカツインが登場したのは2016年のことでした。クラッチ操作の必要がないDCTを装備したモデルも加えるなど新しい取り組みも行われ、アドベンチャーツアラーの名にふさわしいモデルに仕上げられていました。さらにその後も、燃料タンクを大型化したアドベンチャースポーツを登場させたり、スロットルバイワイヤの採用、ライディングモードの搭載、グリップヒーターやETC2.0車載器の標準装備化など、細かい変更を加えながら進化させてきました。
2020年には排気量を拡大してCRF1100Lアフリカツインへとモデルチェンジ。車高を低くするなどで乗りやすさを追求していました。一方で、オフ志向のライダーへの対応を図り、前後サスペンションのストロークを大きくした<s>も登場させました。さらに、スマートフォンとの連携で利便性を高めるAndroid Autoと、昼間での被視認性を高めるデイタイムランニングライトをヘッドライトに採用。エンジンも最新の排出ガス規制に適合させました。
そして現行モデルである2024年型では、エンジンの圧縮比アップやバルブタイミングの変更で最大トルクを向上させたほか、フロントカウルの形状を変更。さあらに、バイオ由来で環境に優しいバイオエンジニアリングプラスチック“DURABIO™”を二輪車用透明フロントスクリーンに世界で初めて採用しています。またアドベンチャースポーツESはフロントタイヤに19インチを採用。<s>との差別化を明確にしました。
このように登場から10年足らずで大幅に進化を果たしてきたアフリカツインですが、基本形とも呼べるタイプが今回試乗したマニュアルミッション装備の<s>です。大型オフローダー的なボディデザインは一段と洗練され、車格の大きさも含めて存在感は抜群です。日本の狭い林道を走るにはちょっと手ごわい気もしますが、ルートに林道を組み込んだアドベンチャーツーリングを実践するには強い味方になってくれるはずです。

6種のライディングモードがあらゆる状況にも対応してくれる

オフロード走行を想定したタイプなので車高は高めです。シートは高さを870㎜と850㎜の2段階に調整できます。日本のライダーにはローポジションとなる850㎜にセットしておいたほうが無難だと思います。それでも乗車する際には足を高く上げる必要がありますし、サイドスタンドを払って車体を起こすときには気合もいります。このようにたしかに高いのですが、前後サスペンションの初期作動がソフトなので、シートにどっかりと腰を下ろすと適度に沈み込んでくれて、想像するよりは足つき性は悪くありません。まあこれは平坦な舗装路での話で、足場の悪いダート路ではやはり不安を覚える高さにはちがいありません。
大柄なボディは余裕のあるゆったりとしたポジションを実現
足を下ろす部分はスリムな形状となっていて、ステップとの干渉もない
シート高は870㎜と850㎜にアジャストできる。通常はローポジションにしておくことが多い
身長178㎝の僕の場合、かかとは浮くが両足が着く。サスペンションの沈み込みもあって数値から想像するよりは足つき性は悪くない
低中速重視の水冷SOHC4バルブ並列2気筒を始動させると、右に取り回されたマフラーからは静かなサウンドが奏でられます。温室にも耳障りなところがないので、これなら長時間走行でも疲労を誘発しないでしょう。
ライディングモードをまずはツアーにセットして走りだしました。もっともパワフルな特性となるモードですが、アクセル操作に忠実に反応してくれ、力強さはあるものの暴力的なパワーを発生するタイプじゃないので、市街地からツーリングまで広範囲に対応してくれます。要求する加速をアクセル操作ひとつで実現できるエンジン特性は、走ることを楽しくさせてくれます。車重は231㎏あるのですが、トルクフルなエンジンが重さを感じさせなかったことも好印象です。
このモデル本来のステージじゃないのでしょうが、今回は市街地を中心に走行してみました。オフロードのテクニックがあるライダーならまだしも、一般のライダーがアフリカツインのユーザーとなった場合、市街地から一般道、高速道路を走行することがほとんどだと思います。なので、そうした側面から試乗してみた次第です。
ツアーモードはあらゆる状況に対応してくれることは体感したので、次はアーバンモードに切り替えてみました。全体に穏やかなパワーフィーリングにはなりますが、全域でトルク不足を感じることはありません。そのため通常走行ならアーバンモードでも十分に対応してくれます。またABSやトラクションコントロールの設定から、雨天時や寒冷時にもアーバンモードがベストな選択となると思います。ほかにグラベルとオフロードモードがあるのですが、今回はダート走行しなかったので使用しませんでした。またライダーが任意に設定できるモードも2つあるのですが、こちらも使用しませんでした。任意のモードはユーザー自身の使用状況や好みで設定することになります。
圧縮比、バルブタイミングの変更などでトルクアップを実現した水冷SOHC4バルブ並列2気筒エンジン
右側に取り回されたマフラーには大型サイレンサーが装備され静かなサウンドを奏でる

素直な操縦性と高い安定性がどんな場面でも安心の走りを実現

フロントタイヤの19インチ化が行われたアドベンチャースポーツESに対して、タイプ<s>は21インチタイヤを継続。さらにサスペンションストロークも、フロント230㎜、リア220㎜とESより20㎜長くなっています。最低地上高も30㎜高くなっています。当然のことながらフロントのトレールもESとは異なっていて、ハンドリングにはちがいがあります。端的にいえば、フロント19インチ、リア18インチのESはオンロード向きで、フロント21インチの<s>はオフロード寄りということができます。
タイヤサイズはフロント90/90-21、リアが150/70R18でともにチューブレスを履いています。<s>はオフロード志向となってはいますが、オンロードが苦手というわけじゃありません。実走してみれば体現できますが、直進性を含めて安定性の高さが特徴です。そうなるとバンク操作に粘りがあってやや重たいんじゃないかと思うかもしれませんが、想像するよりはるかに軽快に身をひるがえしてくれます。もちろん変に軽いのではなく素直なハンドリング特性を実現しているのです。
前後サスペンションの動きが良くて、多少路面が荒れた箇所を通過しても衝撃はほとんど吸収してくれ、姿勢が乱れるようなことは起きません。今回はダート走行していませんが、おそらくオフロードでも同様に安定した走りを見せてくれるはずです。そしてソフトなサスペンションは快適な乗り心地も提供してくれるので、ロングツーリングでの疲労も少なくすむと思います。
アドベンチャーツアラーでロングツーリングを楽しみたいと願うライダーにアフリカツインは最適なモデルのひとつであることにまちがいはありません。アドベンチャースポーツESを選ぶか、こちらの<s>を選ぶかはあくまでも好みでいいんじゃないかと僕は思います。オン寄りとかオフ志向といったちがいはたしかにありますが、どちらも優れたデュアルパーパス性を有しているので、ツーリング途中で仮にダート林道が現れたとしても、どちらもためらうことなく進入していけます。日本の道にはオーバークォリティじゃないのかな?と当初は思いましたが、実際に乗ってみると市街地から一般道まで柔軟に対応できてしまう性能を身に着けていました。
夏の北海道ツーリングを計画しているライダーには、最良の相棒になってくれるモデルだと思いました。
形状が刷新されたカウルには睨みの効いたデザインのLEDデュアルヘッドライトが存在感を放つ。昼間の被視認性を高めるデイタイムランニングライトを装備
高い位置にセットされたLEDテールランプ。ホワイトレンズのウインカーもLEDを採用。オートキャンセルウインカー、エマージェンシーストップシグナルも導入している

ディテール解説

主導で簡単に高さ調整できるウインドスクリーンが快適な走行をサポートしてくれる
ウインドスクリーンの高さ調整は5段階
定格 7.5 W (5 V、1.5 A) まで使用できるUSBソケット
ソフトウエアアップデートの際にもこのUSBソケットを使用する
左側のインナーパネルカバーにはアクセサリーソケットが装備されている
ニーグリップ性に優れたスリムな燃料タンクは18L容量
自由度の大きなシートは高さを2段階に調整可能
TFTマルチインフォメーションディスプレイの表示でマシンの状態が確認できる。画面はツアーモードを表示
アーバンモード
グラベルモード
オフロードモード
左手には装備や機能を切り替えたりするためのスイッチがズラリと配置される。すべてを覚えるには少々時間がかかりそうだ
右側の赤いスイッチはセル/キルスイッチ。下にはクルーズコントロールスイッチが配置されている
左側のスイッチには上部にもヘッドライト切り替えなどのスイッチが並ぶ
右手スイッチの前方にあるのはファンクションスイッチ。ブレーキレバーにはアジャスターが装備されている
90/90-21M/C 54Hサイズのフロントタイヤ。チューブレスを採用している。サスペンションは倒立フォークだ
リアタイヤは150/70R18M/C 70Hのラジアルを装着。もちろんチューブレスだ。リアサスペンションはプロリンク
ラジアルマウント4ポットキャリパー装備のΦ310㎜フロントダブルディスクブレーキ
リアブレーキにはΦ256㎜ディスクを装備。IMU装備のABSが採用されている
アドベンチャースポーツESは電子制御サスペンションを導入しているが、<s>タイプはマニュアル式
リアのシングルショックはダイアル式のプリロード調整システムを装備

主要諸元

主要諸元 CRF1100L Africa Twin
【 】内はDual Clutch Transmission

 CRF1100L Africa Twin
Adventure Sports ES
CRF1100L Africa Twin〈s〉
車名・型式ホンダ・8BL-SD15
全長(mm)2,3052,330
全幅(mm)960
全高(mm)1,475(スクリーン最上位置は1,530)1,485(スクリーン最上位置は1,540)
軸距(mm)1,5701,575
最低地上高(mm)220250
シート高(mm)840(ローポジションは820)870(ローポジションは850)
車両重量(kg)243【253】231【242】
乗車定員(人)2
燃料消費率*1
(km/L)
国土交通省届出値:
定地燃費値*2
(km/h)
32.0【31.0】(60)〈2名乗車時〉
WMTCモード値
(クラス)*3
19.6(クラス 3-2)〈1名乗車時〉
最小回転半径(m)2.6
エンジン型式SD13E
エンジン種類水冷4ストロークOHC(ユニカム)4バルブ直列2気筒
総排気量(cm³)1,082
内径×行程(mm)92.0×81.4
圧縮比10.5
最高出力(kW[PS]/rpm)75[102]/7,500
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm)112[11.4]/5,500
燃料供給装置形式電子式 〈電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)〉
始動方式セルフ式
点火装置形式フルトランジスタ式バッテリー点火
潤滑方式圧送飛沫併用式
燃料タンク容量(L)2418
クラッチ形式湿式多板コイルスプリング式
変速機形式常時噛合式6段リターン【電子式6段変速(DCT)】
変速比1速2.866【2.562】
2速1.888【1.761】
3速1.480【1.375】
4速1.230【1.133】
5速1.064【0.972】
6速0.972【0.882】
減速比(1次/2次)1.717/2.625【1.863/2.625】
キャスター角(度)27゜30′
トレール量(mm)106113
タイヤ110/80R19M/C 59V90/90-21M/C 54H
150/70R18M/C 70H
ブレーキ形式油圧式ダブルディスク
油圧式ディスク
懸架方式テレスコピック式
スイングアーム式(プロリンク)
フレーム形式セミダブルクレードル
  • ■道路運送車両法による型式指定申請書数値(★の項目はHonda公表諸元)
  • ■製造事業者/本田技研工業株式会社
  • *1 燃料消費率は、定められた試験条件のもとでの値です。お客様の使用環境(気象、渋滞等)や運転方法、車両状態(装備、仕様)や整備状態などの諸条件により異なります。
  • *2 定地燃費値は、車速一定で走行した実測にもとづいた燃料消費率です。
  • *3 WMTCモード値は、発進、加速、停止などを含んだ国際基準となっている走行モードで測定された排出ガス試験結果にもとづいた計算値です。走行モードのクラスは排気量と最高速度によって分類されます。WMTCモード値については、日本自動車工業会ホームページもご参照ください。
  • ※本仕様は予告なく変更する場合があります。
  • ※Africa Twin、CRF、PGM-FI、PRO-LINKは本田技研工業株式会社の登録商標です。
  • ※この主要諸元は2024年2月現在のものです。

キーワードで検索する

著者プロフィール

栗栖国安 近影

栗栖国安

TV局や新聞社のプレスライダー、メーカー広告のモデルライダー経験を持つバイクジャーナリスト。およそ40…