[1000km実走燃費]数多くの専用設計パーツから、造り手の並々ならぬこだわりが伝わってくる、ファンティック・キャバレロ・スクランブラー700 1000kmガチ試乗【3/3】

キャバレロ・スクランブラー700の細部を眺めて感心するのは、ひとつひとつの部品に対する造り手のこだわり。改めて考えると近年のミドルクラスで、そういった雰囲気がビンビン伝わってくるモデルは、相当に貴重ではないか……と思う。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)
協力●モータリスト合同会社 https://motorists.jp/

ファンティック・キャバレロ・スクランブラー700……1,750,000円

近年のファンティックは、ヤマハと密接な関係を構築している。キャバレロ・スクランブラー700はCP2エンジンを自社製シャシーに搭載しているが、エンデューロレーサーのXE300は自社開発の2スト単気筒エンジンをYZ250のシャシーに搭載。

ライディングポジション(身長182cm・体重74kg) ★★★★☆

真横からの写真だとオーソドックス?と思えるものの、絞りが少なくてワイドなハンドルや(全幅は890mm)、座面が高くて細身のシート、近年のオンロードバイクの基準より前方に設置されたステップは、スクランブラーならでは。僕はこういう乗車姿勢が大好きで、スポーツライディング中はベストと思えたものの、ロングランの後半では尻の左右に痛みを感じた。この問題はシート幅を30mmほど広くしたら解決しそうだが、そうすると軽快感が損なわれるだろうし、現状でも良好とは言い難い足つき性がさらに悪くなるので、微妙なところである。

シート高は830mmで、足つき性は同じCP2エンジンを搭載するヤマハXSR700と同等。両足がベッタリ接地するためには175cm前後の身長が必要だが、車体がスリムで軽いため、165cm以上のライダーなら大きな不安は感じないようだ。なおライバル勢のシート高は、トライアンフ・スクランブラー900:790mm、ドゥカティ・スクランブラー:795mm、ホンダCL500:790mm。

タンデムライディング ★★☆☆☆

タンデムライディングで印象的だったのは、後部座席に座る富樫カメラマン(身長172cm・体重52kg)の身体が、加減速で前後に揺すられる度合いが高かったこと。もちろん、その事実を把握した時点で、以後の僕はていねいなスロットル/ブレーキ操作を心がけたのだけれど、根本的な解決には至らなかった模様。「このバイクは基本的に1人乗りだと思う。シートは快適そうに見えても面積が小さいし、位置が高いステップは踏ん張りが利かないし、シートに近すぎるグラブバーは力が入れづらい。まあでも、身長が160cm以下の小柄な人だったら、僕が感じた問題はあまり気にならないのかもしれないね」

取り回し ★★★☆☆

前後サスストロークとホイールベースが長めのスクランブラーは、同じ排気量帯のオンロードバイクと比較すると、車格をやや大柄に感じるのが通例。しかもキャバレロ・スクランブラー700の場合は、ハンドル切れ角があまり多くないので(数値は非公表)、狭い場所での切り返しにはちょっと気を遣う。と言っても、装備重量はミドルの中では軽い部類の185.1kgだから、一般的な体格の成人男性であれば、押し引きで苦労することはないはず。

ハンドル/メーターまわり ★★★★★

テーパータイプのアルミハンドルはかなりワイド、初試乗時は違和感を抱いたものの(ちなみに、今どきのアドベンチャーツアラーはもっとワイド)、慣れが進むと“それでこそスクランブラー”と思えてきた。バックミラーは林道で重宝する可倒式で、後方視認性は可もなく不可もなく。ラウンンドタイプの3.5インチTFTモニターは専用設計で、右側にはライディングモードを絵柄で表示(写真はストリート。その他にオフロードとカスタムが存在し、後者はABSとトラコンを任意で設定できる)。

左右スイッチ/レバー ★★★☆☆

左側スイッチボックスは過去にアプリリアも採用した製品と同系のドミノ製で、ウインカーとモードセレクトボタンのタッチはやや曖昧。ハザードボタンは意外な場所、左側スイッチボックスのスイッチボックスの前側下部に設置されている。

ライディングモードとABSの切り替えボタン、セル/キルスイッチが備わる右側の操作性は至って良好。スロットルは昔ながらのケーブル式で、ブレーキレバー基部にはシンプルな位置調整ダイヤルが備わる。

燃料タンク/シート/ステップまわり ★★★★☆

外装やシートも専用設計だが、デザインのイメージは既存のキャバレロ・スクランブラー125/250/500を踏襲。ガソリンタンクは樹脂製インナー+樹脂製3分割式カバーという構成で、前後に動きやすいフラットな座面のダブルシートは1970年代以前のオフロード車的。なおサイドカバーを含めたこのあたりのパーツからは、車体のスリムさに対する開発陣のこだわりが伺える。

ステップバーは耐久性に優れるスチール製で(ペダルはアルミ鋳造で、スイングアームピボットプレートはアルミ削り出し)、ラバーを外せばブーツとのグリップを高めるギザギザ仕様に変身。ちなみにこのラバーは結構な厚みがあって、取り外すとシート~ステップの距離が広くなり、大柄な僕の場合はその状態のほうが好感触だった。

積載性 ★★★☆☆

グラブバーがたまたま上手い具合に使えて、筆者の私物であるタナックスのダブルデッキシートバッグがいい塩梅でセットできたけれど、積載性に関する配慮は特に無し。ツーリング指向のライダーは、純正アクセサリーのリアキャリアやタンク/サイド/リアバッグの購入を検討したほうがいいだろう。シート下は電装系とエアボックスでギチギチなので、ETCユニットの収納は難しそう。

ブレーキ ★★★★★

マスターシリンダーも含めて、ブレーキパーツはブレンボで統一。ディスクはF:φ330mm・R:φ245mmで、キャリパーはF:ラジアルマウント式4ピストン・R:対向式2ピストン。舗装路の峠道をムキになって飛ばしているときは、フロントの効力に物足りなさを感じることがあったけれど、シングルディスクはスクランブラーとしての軽さを追求した結果だし、コントロール性はピカイチなので、その点に異論を言うべきではない気がする。ABSのモードはオンロードとオフロードの2種だが(後者は介入が控えめ)、完全にカットすることも可能。

サスペンション ★★★★★

フロントフォークはφ45mm倒立式、リアサスペンションはボトムリンク式モノショックで、ブランドはいずれもザックス。調整機構はリアのプリロードのみで、当初の僕はその構成に物足りなさを感じたものの……。実際の走行中に、アジャストの必然性を感じる場面は無かった。とはいえ前後の伸圧ダンパーを弱くしたら、現状よりまったり走行が楽しみやすくなりそうな気はする。

実測燃費 ★★★★☆

キャバレロ・スクランブラー700と同じCP2エンジンを搭載するヤマハ車の燃費をネット調べると、MT-07とXSR700は27km/ℓ前後、テネレ700とYZF-R7は25km/ℓ前後という数値を公表しているライダーが多い。そして車格や車重を考えると、今回のトータル燃費に物足りなさを感じる人がいるかもしれないが、CP2シリーズとは一線を画するエンジンフィーリングを堪能した僕は納得、と言うか満足している(指定ガソリンがハイオクであることにも、とりあえず納得)。燃料タンク容量は13.5ℓなので、、平均燃費から割り出せる航続可能距離は25.5×13.5=344km。

アロー製のエグゾーストシステムは専用設計で、アップタイプのサイレンサーは右側2本出し。ボリュームはそんなに大きくないものの、スクランブラーならではの元気が良くて歯切れのいい排気音が堪能できた。

主要諸元

車名:キャバレロ・スクランブラー700

全長×全幅×全高:2164mm×890mm×1136mm

軸間距離:1453mm

シート高:830mm

エンジン形式:水冷4ストローク並列2気筒

弁形式:DOHC4バルブ

総排気量:689cc

内径×行程:80.0mm×68.6mm

圧縮比:11.5

最高出力:54.4kW(74ps)/9400rpm

最大トルク:70N・m(7.14kgf・m)/6500rpm

始動方式:セルフスターター

潤滑方式:ウェットサンプ

燃料供給方式:フューエルインジェクション

トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン

クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング

ギヤ・レシオ

 1速:2.846

 2速:2.125

 3速:1.632

 4速:1.300

 5速:1.091

 6速:0.964

1次・2次減速比:1.925・2.813

フレーム形式:ダイヤモンド

懸架方式前:テレスコピック倒立式φ41mm

懸架方式後:ボトムリンク式モノショック

タイヤサイズ前:110/80R19

タイヤサイズ後:150/70R17

ブレーキ形式前:油圧式シングルディスク

ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク

乾燥重量:175kg

使用燃料:無鉛ハイオクガソリン

燃料タンク容量:13.5L

乗車定員:2名

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…