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イタルジェット・ドラッグスター300……1,067,000円(消費税込み)
イタルジェットは1959年に誕生したイタリアのメーカーだ。ハブステアリング(イタルジェットではインディペンデント・ステアリング・システムと呼ぶ)を採用したモデル、ドラッグスターシリーズを1990年代半ばにリリースし、マニアックなメカニズムが大きな話題となった。その後2003年に経営破綻するも2005年に再建を果たした。
今回紹介するのは新生イタルジェットのドラッグスター300。インディペンデント・ステアリングシステムを(I・S・S)を採用したドラッグスターには、これまで125と200がラインナップされていたが、新しく300がラインナップに追加されたのである。
テスターの後藤は、初代ドラッグスターが登場したときからの大ファンである。ここまで個性的かつ、機能美に溢れたスクーターは他に存在しない。元気の良い2ストロークエンジンを搭載していたところも魅力だった。
新しいドラッグスターは環境規制にも配慮した4ストロークエンジンを搭載しているが、今回のマシンは排気量が300ccでDOHC4バルブ。しかも125とほぼ同じ車体にこのエンジンを搭載しているのだから、動力性能はかなり高いはずだ。
実車を前にすると圧倒的な存在感と質感が伝わってくる。トラリスフレームとアルミキャスティングのプレートで作られたフレームは、どこから見ても素晴らしい機能美を感じさせる。フレームワークやフロントのステアリング機構など、細かいところを見ていっても手抜き感はゼロ。イタリアのモノづくりスピリッツが詰め込まれたようなマシンである。
独特のステアリングフィーリング
かなり特殊なマシンなので、試乗する前にステアリングやサスペンションの動きを確認してみることにした。まずはエンジンが停止した状態でステアリングを切ってみる。普通のテレスコピックタイプのフロントサスを使用したマシンと大きな違いは感じない。ただし、ステアリングダンパーが効いているような重さがあり(フリクションは感じない)、ハンドルがフルロックに近い位置になっていくとさらに少し重くなるような印象を受ける。
サスペンションを押してみるとスクーターの動きではない。スプリングレートやダンピングの効き方はほとんどスーパースポーツのよう。ストロークも短めで、かなり思い切った車体と足回りであることがわかる。雰囲気だけでなく走りも追求しているのだろう。
ちなみにフロントブレーキを握った状態でフロントサスを縮めようとしてもビクともしない。これがI・S・Sの特徴だ。
スクーターとは思えないコーナーリング
走り出してみると予想していたほど乗り心地は悪くない。サスペンションはハードなのだが、初期の動きがスムーズだから硬質なショックは伝わってこない。一般的なスクーターのような快適さはないが、スポーツバイクと同等のレベル。そして少し走っただけで、車体が非常にしっかりしていることが伝わってくる。
ドラッグスター300の魅力の一つはフロントタイヤの圧倒的な存在感から生まれる安心感だ。バイクからスクーターに乗り換えると小径タイヤによるクイックさによって、落ち着きなく感じてしまう場合がある。ところがイタルジェットは違う。小径タイヤとは思えないほどに安定しているのである。
車体をバンクさせるときもこの安定感が生きる。独特の粘りがあるけれど違和感はなく、不安なくコーナーリングすることができる。長い期間を経て熟成されてきてからこその完成度の高さだ。
圧倒的な減速時の安定感
I・S・Sのメリットを最も強く感じるのはブレーキングだ。減速でまったくノーズダイブしない。かといってサスペンションが突っ張っているわけではなく、ブレーキレバーを強く握っているときでも、ギャップではスムーズにショックを吸収してくれる。
急減速しているときの安定感は絶大で、車体がバンクしているときにブレーキを強くかけても車体が起き上がるような挙動は発生しない。コーナーリングで減速からターンインまでの過程は、もっとも操作が忙しくて不安定になるところなのだが、ドラッグスター300はレールの上を走っているように車体がブレないのである。
ブレーキもスポーツバイクのように鋭いタッチでよく利く。試しにフロントブレーキだけを強く握ってみると、停止直前に車体の前側が少し持ち上がるような動きをする。リアブレーキだけを握ってみると、減速Gでフロントサスがわずかに沈む。別々にブレーキ操作をすると若干の姿勢変化があるわけだが、前後を同時に使用すれば、そういった挙動も発生しない。
ちなみに前後ブレーキともにABSが採用されている。あまり緻密な制御はされていないが、IMUなどを使っているわけではないので、ABSに関しては妥当なところだろう。緊急時のフルブレーキングで姿勢を乱さないようにするのであれば十分である。
力強いエンジン特性
ドラッグスターシリーズ最大排気量となるこのマシンの走りは実に力強い。エンジンは低回転からトルクがあるし加速力もある。DОHC4バルブらしく高回転でも気持ちよく伸びていく。250ccクラスのスクーターではこのマシンに追従していくのは難しいことだろう。
ただし停止状態からスロットルを大きく開けてもドカンと飛び出すようなことはない。駆動力が穏やかにつながるのでスタートは滑らか。走り始めはスムーズで、速度が出てからは排気量なりのパワーで加速するような感じになる。個人的にはもう少し荒々しい感じが欲しいような気もするが、そこはライダーによって意見が分かれるところだろう。
ドラッグスター300は、非常に面白いマシンだった。友人にこのマシンのことを話したところ「なんでスクーターにそんな装備を……」と言っていたのだが、スクーターだからこそ意味があるのだと思う。トラリスフレームやI・S・Sなどのメカニカルな美しさは、タンクなどに隠されていないから際立つし、ロードスポーツにはない遊び心も感じられる。税込みのメーカー希望小売価格で106万7000円にはなってしまうが(200は94万6000円、125は90万2000円)、ハブステアのロードスポーツに比べれば相当に現実的である。
マニアックなモノづくりが好きなライダーたちの期待を裏切らない作りが実に魅力的なマシンだった。
ポジション&足つき(身長178㎝ 体重75kg)
車体寸法がドラッグスター125とほぼ同じということもあって、車体に跨ると非常にコンパクトに感じる。取り回しも軽い。シートはかなり硬くて一般的なスクーターように包まれるような快適感はない。しかしこれが意外に悪くなくて、街中を半日走った程度ではお尻が痛くなるようなこともなかった。
シート高は770mm。車体がコンパクトかつシートのスポンジが厚くないので足つき性も良好だ。
ディテール解説













