排気量2割増しでエンジンパワーは4割アップのタイガースポーツ800。これぞミドルスポーツツアラーの理想像だ|トライアンフ

共通プラットフォームでロードスターのトライデント660、クロスオーバーのタイガースポーツ660、ミドルウエイトスポーツのデイトナ660を展開するトライアンフ。中でも人気のタイガースポーツに「800」が加わった。プラス138ccから最高出力は何と42%もアップしている。その狙いを確かめるべくじっくりと試乗した。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

タイガースポーツ800……139万5000円~(2025年2月発売)

タイガースポーツ800
タイガースポーツ660(2025年型)

660とプラットフォームを共有しながら、ストリートトリプル765RSベースの798cc水冷トリプルを搭載するタイガースポーツ800。別体式サイレンサー、スクリーンの両サイドに追加されたウィンドディフレクター、大型化されたラジエーターシュラウド、車名入りのシート表皮などが主な外観上の相違点だ。燃料タンク容量は660の17.2Lに対し、800は18.6Lと8%多く入る。

車体色は4種類。グラファイト×サファイアブラックが139万5000円。カスピアンブルー×ファントムブラック、コスミックイエロー、サファイアブラックが1万3000円高の140万8000円となる。ちなみに660は112万5000円(緑、白、赤は113万8000円)なので、差額は27万円だ。

ストトリ765RSベースのエンジンだからこそスムーズさが際立つ

トライアンフの本国公式YouTubeで、タイガースポーツ800発表時の動画を視聴した。500件近いコメントのほとんどは当然ながら英語であり、モアパワーを歓迎する声が多かったのには驚いた。というのも、個人的にはトライデントもデイトナも660で十分だと感じていたからだ。その理由についてあれこれと考えを巡らせ、ふと「国によって成人男性の平均体重がどれぐらい違うんだろう?」という疑問が浮かんだ。ざっと調べたところ、我々日本人よりも、トライアンフ本社のあるイギリスの男性の方が約19%も重かった。これを踏まえた上でパワーウエイトレシオがどれだけ不利になるかを計算したところ、バイクの車重が200kgの場合でパワーは5%ぐらい低く感じるようだ。加えて、おそらくライダーを含めた前面投影面積も増えるだろうから、体格の良い欧米人から「660では力不足」という意見が出ても不思議ではない。

800に搭載されている798cc水冷4ストローク並列3気筒は、タイガースポーツ660ではなくストリートトリプル765RSをベースにストロークを2.3mm伸長し、排気量を765ccから798ccへと拡大している。よって一次/二次減速比や6段の各変速比が660とは異なるのだ。圧縮比は13.2:1とかなり高く、最高出力は660の81psに対して115psを公称する。電子制御スロットルやスリップアシストクラッチを採用し、ライディングモードはスポーツ/ロード/レインの3種類。シンプル機能のクルーズコントロールも標準装備する。

660の81psに対して800のエンジンは115psを発揮する。42%もアップしているからさぞかしパワフルかと思いきや、実際に走らせてみると、意外なことに低~中回転域でのトルク感は660よりもほんの少し厚いかな、というレベルだ。そう感じさせる要因は二つ考えられ、一つは総減速比が660よりもややロングになっていることだ。例えばトップ6速、100km/hでのエンジン回転数は、660が約4,800rpmなのに対し、800は約4500rpmとなる。そしてもう一つは、最大トルクの発生回転数が660の6250rpmに対して8500rpmと高めであることだ。

その程度の差ならわざわざ800を選ぶ必要はないのでは? などと思われそうだが、実はエンジンを始動した瞬間から明瞭な違いがある。800は明らかに660よりも微振動少なく、雑味のない回り方をするのだ。加えて、一般道ならせいぜい回しても4000~5000rpmまでなのだが、アイドリングからそこに至るまでの、まるで微発砲のような脈動感が実に心地良く、上質にすら感じられるのだ。同じ水冷トリプルで排気量は2割しか変わらないのに、ベースエンジンが異なるだけでここまでフィーリングが違うとは驚きだ。

最強のスポーツモードでスロットルを大きく開けると、官能的なサウンドを響かせながら気持ち良く突進する。34psもパワーアップしているだけに660とは段違いの加速感だ。中間のロードモードでも、中~高回転域での力量感は660よりも明らかに上回っており、うるさ型の英国ライダーもこれなら納得するだろう。なお、標準装備の双方向クイックシフターは、1速から2速、2速から3速と、低いギヤでのシフトアップ時にやや大きめのショックが出るが、実用上は特に問題ないと言っていいだろう。ただ、何度かシフトペダルを踏み外すことがあったので確認したところ、トライデントやデイトナとはペダルの形状が全く異なっていた。近い将来、これが改善されることを願う。

双方向クイックシフターの「トライアンフ・シフトアシスト」を標準装備。トライデント660やデイトナ660とはシフトペダルの形状が異なり、リンク比の違いからか変速動作がやや重かった。またペダルの突起が短いため何度か踏み外すこともあった。

同じく標準装備のクルーズコントロールは、作動させた状態からボタン操作で1km/hずつの増減速できないシンプルなものだ。筆者はクルコン設定中に増減速をひんぱんに行うことから、これができないことを少なからず残念に思った。とはいえ、空いた高速道路でとりあえず使えれば十分という人にとっては有益な装備だろう。

サスの動きがワンランク上、防風効果の高さはトップクラスだ

ハンドリングについては、二次減速比の違いからかホイールベースが5mm長く、それに伴ってかキャスター角とトレール量もわずかに異なるが、基本的な方向性は660と全く同じと言っていい。ネイキッドのトライデント660に通じるニュートラルな旋回特性であり、ライダーの操縦に対して過不足なく忠実に反応する。アドベンチャー系の「タイガー」という名を冠してはいるが、マシンのキャラクターとしては完全なスポーツツアラーであり、フロント19インチホイールの「タイガー850スポーツ」をラインナップしているからこそ、コンセプトを明確に分ける必要があったのだろう。

基本的なハンドリングは660と同じベクトルではあるのだが、800は明らかに乗り心地が良い。標準装着タイヤの銘柄はミシュラン・ロード5で共通なので、その差の要因となっているのはショックユニットということになる。800のフロントフォークはショーワのセパレートファンクションで、伸び側と圧側の減衰力が調整できるタイプだ。おそらくグレードの差が作動性の違いを生んでいるのだろう。一方、リヤは660と同様に油圧プリロードコントローラー付きで、またがった状態でも左手でクルクルと回せるのは非常に便利だと感じた。

ショーワ製のφ41mm倒立式セパレートファンクションカートリッジフォーク(SF-CF)を採用。660は非調整式なのに対し、800は右で伸び側、左で圧側の減衰力が調整可能だ。標準セッティングは、伸び側/圧側とも時計方向へ回しきったところから1.75回転戻した位置だ
リヤサスはリンク式モノショックで、油圧プリロードコントローラー付きだ。1人乗りでの標準セッティングは最小値(全抜き)で、伸び側減衰力は1.25回転戻しだ。

800で特筆すべきはウインドプロテクション効果の高さだ。660も十分に快適と言えるレベルにあるが、800はスクリーンの左右に透明のウインドディフレクターが追加されており、さらにラジエーターシュラウドの大型化も下半身の防風に貢献している。スクリーンを適切な高さに調整することでライダーはほぼ完全に走行風から遮断され、快適な高速巡航を楽しむことができるのだ。

スクリーンは片手で高さを7段階に調整可能だ。800はエアインテークの上にDRLを備える。

ラジアルマウントの対向式4ピストンキャリパーを採用するフロントブレーキは、660の片押し式2ピストンよりも絶対制動力が高いだけでなく、コントロールできる幅が広い。これもマシンを上質に感じさせる要因だ。また、バンク角によって介入レベルが調整されるコーナリングABSは、大きな安心材料と言えるだろう。

フロントブレーキセットは660よりもグレードアップしている。φ310mmのブレーキディスクはディスクハブ(インナーディスク)を組み合わせた一般的なタイプとなり、キャリパーはピンスライド片押し式2ピストンからラジアルマウント式の対向式4ピストンへ。IMU(6軸慣性測定ユニット) を組み合わせたコーナリングABSを採用する。標準装着タイヤはミシュラン・ロード5で660と共通だ。

先のYouTubeのコメントで、モアパワーの歓迎に次いで目立っていたのが「メーターパネルが残念」という意見だった。確かに、昨今はスマホのような5インチクラスのTFTメーターが増えているので、そう思われても仕方ないだろう。とはいえ、ブルートゥース連携機能が最初から搭載されているので、使いこなせればかなり便利であることは間違いない。

上段がLCD、下段がTFTという構成のメーターパネル。スマホとの接続機能である「My Triumph コネクティビティシステム」が標準装備されており、ターンバイターンナビをはじめ、電話の着信や音楽情報などを表示させることが可能だ。

タイガースポーツ800は660の完全な上位互換であり、27万円差以上の価値を実感することができた。それでもなお660を併売しているのは、安価であること以外にEU加盟国におけるA2免許に対応するためだろう(現状、800はA2免許非対応となっている)。ミドルクラスにおけるスポーツツアラーの理想像であり、個人的にも今年のベスト1になりそうな1台だ。

ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

ライディングポジションは660と共通で、上半身はほぼ直立し、膝の曲がりは緩やかだ。
シート高は660と同じ835mm。身長175cmの筆者が両足を下ろすとかかとがわずかに浮く。

ディテール解説

スイングアームは鋼鈑プレス製。リヤブレーキはφ255mmディスクと片押し式シングルピストンキャリパーの組み合わせだ。ホイールトラベル量は前後とも150mmで、これは660と共通である。
コックピットを構成するパーツは色も含めて660とほぼ同じ。800はスクリーンの左右にウインドディフレクターが追加されている。
左スイッチボックスに多くの操作機能を集約。800はDRLボタンを備えており、これを押すと周囲の明るさに応じてDRLとロービームが自動的に切り替わる。クルーズコントロールは30~160km/h、2速以上で作動させることができ、ボタン操作による速度調整ができないシンプルなものだ。ハザードボタンは右側にある。
灯火類はオールLED。一体型パニアマウントがすでに装備されているので、純正アクセサリーのパニアケースがスマートに装着可能だ。
シートは前後一体式で、800は表皮に車名ロゴが入る。

タイガースポーツ800 主要諸元

●エンジン、トランスミッション
タイプ:水冷並列3気筒DOHC12バルブ
排気量:798cc
ボア:78.0mm
ストローク:55.7mm
圧縮比:13.2:1
最高出力:115ps(84.6kW)@10,750rpm
最大トルク:84Nm@8,500rpm
システム:ボッシュ製マルチポイントシーケンシャル電子燃料噴射、電子制御スロットル、ライディングモード3種類(RAIN、ROAD、SPORT)
エグゾーストシステム:ステンレススチール3into1ヘッダーシステム、サイドマウントステンレススチールサイレンサー
駆動方式:Xリングチェーン
クラッチ:湿式多板ワイヤー式、スリップアシスト
トランスミッション:6速

●シャシー
フレーム:チューブラースチールペリメーターフレーム
スイングアーム:両持ち式、スチール製
フロントホイール:チューブレス5スポーク 17×3.5インチ、アルミニウムリム
リアホイール:チューブレス5スポーク 17×5.5インチ、アルミニウムリム
フロントタイヤ:120/70ZR17
リアタイヤ:180/55ZR17
フロントサスペンション:Showa製41mm径倒立式セパレートファンクションカートリッジフォーク(SF-CF)、トラベル量150mm ※伸圧減衰力の調整可能
リアサスペンション:Showa製油圧プリロード調整機能付きモノショックRSU トラベル量150mm ※伸び側減衰力の調整可能
フロントブレーキ:310mm径フローティングダブルディスク、4ピストンラジアルキャリパー、OCABS
リアブレーキ:255mm径シングルディスク、シングルピストンスライディングキャリパー、OCABS
インストルメントディスプレイとファンクション:LCDマルチファンクションメーター、TFTカラースクリーン

●寸法、重量
全長:2,070mm
ハンドルを含む横幅:835mm
全高(ミラーを含まない):1400mm
シート高:835mm
ホイールベース:1425mm
キャスターアングル:23.8º
トレール:99mm
車体重量:214kg
燃料タンク容量:18.6ℓ
燃料消費率:4.7L/100km(21.3km/L)

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…