ホンダX-ADV試乗|これはバイクか、それともスクーターか。なんとも斬新、不思議な乗り物だ。

2021年3月から新発売されたX-ADVは2017年登場の初代に続く2代目モデル。時流を取り入れたクロスオーバーモデルとして異彩を放つ独自性に注目が集まっている。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO ●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●株式会社ホンダモーターサイクルジャパン

ホンダ・X-ADV…….1,320.000円

グラファイトブラック

 ホンダ公式WEBサイトのデザインページから引用すると「都会で、自然で、映えるスタイリング」と謳われている。冒頭に掲げられた1分少々のプロモーションムービーではアクティブな走りも披露され、只者ではない秘めたるポテンシャルの高さと都会の街並みにも良く似合う洗練された雰囲気が巧みに表現されていた。
 写真からもわかる通り、X-ADVは一見スクーターの様なフォルムを見せる。しかし、大径スポークホイールの採用といかにも足の長そうな前後サスペンション。そしてユトリを感じさせるロードクリアランスも印象深い。
 ちなみにスポークホイールのサイズは前17、後15インチ。ブリヂストン製バトラックスのアドベンチャークロスツアラー(チューブレスのラジアルタイヤ)が装着されている。
 比較参考データとして価格的に近いレベルにあるヤマハ・TMAX560ABSを例に上げるとキャストホイールサイズは前後共に15インチ。 スポーツスクーターのパイオニア的存在であり、その評価と人気は侮れないが、スタイリングはそれなりに太くボリューム感があり、基本フォルムはあくまで大型スクーターのそれである。
 
 X-ADVは既報の通りNC(ニューミッドコンセプト)のメンバーに追加投入されたモデルで、基本設計はバイクとして開発されている。それをベースに、外観デザインと機能性にスクーターらしい利便性が加味されているのが特徴的。斬新かつ異色な存在と言える。
 車体のほぼ全ては樹脂カウルでカバーリングされており、ステップも左右にセパレートされたボードタイプ。前後共にブレーキ操作は手動式。13L燃料タンクはライダーシート直下にレイアウト。その後方には22L容量のラゲッジボックスを備えている。
 普通のスクーターと決定的に異なっているのは、既報(発表時の記事)の通り、エンジンから後輪までのドライブトレーンがバイクと同じ。端的に言うとダヤモンドフレームにマウントされたエンジンは、6速ミッションを備え、チェーンドライブ方式が採用している。
 大径ホイールの採用もさることながら、スクーターの様なユニットスイング方式やVベルト無段変速を採用していない点が決定的に異なっているのである。
 ちなみに6速ミッションはDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)を採用。エンジン始動後は右手のスイッチでDレンジを選択する必要はあるが、それ以後の操作はスクーターと全く同じで、右手のアクセルをひとひねりするダケで良い。
 つまりバイクらしい乗り味をキープしながらクラッチ&シフトワークから開放されたイージーライティングを叶えてくれるのが特筆すべき魅力点である。さらにクロスオーバーモデルとして独自のキャラクターと存在感を披露しているのも見逃せない。
 電装系も最新のデバイスが奢られ、例えばスマートキーによる操作は、オプションのトップケースにも同期する。スマホとBluetoothで連携するHSVCS(Honda Smartphone Voice Control system)も新搭載。
 音声入力に対応したヘッドセットを使い、音声ガイダンスに従って左側のハンドルスイッチを操作し、音楽再生や通話が可能となる。スマホと連携する機能が便利である。先鋭的なデザインセンスも都会的に洗練された最新鋭トランスポーターとしての仕上がりが印象深い。

リラックスできる乗り味。アクティブな走りも楽しめる。

 試乗車を目前にすると、何だかとても不思議な感覚を覚えた。自分の頭の中で、これまでカテゴリーとしてバイクとスクーターは明確に区分けされていたが、X-ADV はそのどちらにも当てはまらないような気がしたからだろう。
 かつてスズキがSW-1というフルカバードのバイクを市場投入した事がある。どちらかと言うとそれはレトロなデザインに仕上げられていた。X-ADV はその逆を行く斬新なフォルムを採用。今回の新型ではよりシャープに先鋭化されているのが印象深い。
 バーハンドルを握り、車両を取り回す感覚はバイクに近い。車庫からの出し入れもスクーターよりスムーズ。ギヤにニュートラルがある点とチェーン駆動方式の採用でフリクションが少ない。さらにいうと車体のボリュームに程良さがある。ワイドでボリューム感のある大型スクーターより明らかにスマートで扱いやすいのである。

 イグニッションの操作はダッシュパネル中央の大きな丸いスイッチを押す。もちろんスマートキーを身につけた上での話だが、それはまるでクルマのスターターの様。実際の始動は右手の赤いスタータースイッチを押すが、NCシリーズ一連に搭載された並列ツインの静かなエンジンは、カウルに覆われてさらにメカノイズが抑えられているように感じられた。
 排気音も穏やかな印象。前傾搭載された270度位相クランクのツインエンジンは、先代モデルよりも回転フィーリングが軽い感じ。大きな差ではないが、スロットルレスポンスのスムーズさと、違いがわかるレベルのトルクアップが感じられた。それは実用域での使い勝手向上に大きく貢献する。
 ミッションは6速DCT なので、右手の親指でDレンジに入れると、あとは右手のスロットル操作のみ。発進から高速走行までスクーターと同様なイージーライディングが楽しめる。
 トルクにゆとりがある出力特性と相まって悠然と静かに走れるのが印象的。市街地で走る限り、エンジンの使用回転数は3,000rpm未満で事足りてしまう。それでいて何も不足や不満を感じない柔軟なパフォーマンスを発揮してくれるから気持ちが良い。
 スポーツモードにすると加速時に(状況によるが)4,000rpmまで引っ張るようになり、右手を開けるといつでも期待以上の加速ができるよう低めのギヤでスタンバイしてくれる。郊外や高速でも5速や4速で加速に備えるシーンが見られるようになるわけだ。
 もっとも普通のツーリングやトランスポーターとして使うならスタンダードモードが良い。実に巧みに早め早めにシフトアップをしてくれてエコランにも好都合。しかも峠道でのシフトダウン制御も含め、自動にお任せで賢い制御を披露してくれる。
 あえて気になる所を言えば、高めのギヤでエンジン回転をセーブして住宅街を徐行する様なシーンで、シフトダウンしてしまう事ぐらいだろう。もちろんマニュアルシフトを選択すればそれも解決できる。

 足の位置に自由度のあるステップボードやナックルガードのついたパイプバーハンドルに両手を使うブレーキ操作。見晴らしの良いライディングポジション等、従来の固定観念にない部分の融合で、自分自身の気持ちの中でまごついてしまうのを感じられたが、リラックスして楽~に走れる程良いサイズ感のバイクとして、新鮮な魅力が感じられた。

 やはり決定的と思えるのは、ライディングポジションがバイク風なのに、ステップやメットイン等の利便性がスクーター的な点に違和感を覚えるのだろう。
 もちろんそれは直ぐに慣れてしまう。むしろバイクをベースにスクーターへ歩み寄った作りも“有り”なんだなと思えたのである。

 急ブレーキでは足を前方に突っ張る。峠道では両足の膝下で車体を挟むようにするとライダー姿勢の安定を保ちやすかった。

 操縦性の素直さや安定感、そして扱いやすさはバイクのフィーリングに匹敵。しかもダートに対する不安が少ない乗り味は場所を選ばぬ旅道具にもピッタリ。オプションのパニアケース等を装着すれば、まさにアドベンチャーツアラーに変身できる機能的魅力も侮れない。

 今回の試乗は120kmに過ぎなかったが、X-ADV の実用性と乗り味は、多くのユーザーにとって、改めて歓迎すべき新ジャンルの到来を感じさせてくれた。
 なお、満タン方計測による実用燃費率は24km/L。ツーリング用途なら15%前後伸びることは間違いないだろう。ローギヤ固定でエンジンを5,000rpm回した時のスピードは48km/h。6速トップギヤで100 km/hクルージング時のエンジン回転数は3,100~3,200rpm程度。ギヤリングが高められ、より平然とクルージングできる快適性も魅力的である。

足つき性チェック(身長168cm / 体重52kg)

シート高は790mm。ご覧の通り両足の踵が少し浮いてしまうが、車体幅はそれほどワイドではないので、足つき性が良くバイクを支える上で不安はない。

ディテール解説

斬新なデザインセンスを披露するLED式ヘッドランプ。スクリーンは手動式だが角度を変えながら高さは135mmの範囲で5段階調節できる。
リムの両サイドを支持する17インチホイールを装着。φ40mmの倒立式フロントフォークは左側がプリロード、右側で伸び側減衰調節ができる。ダブルディスクブレーキにはNISSIN製対向4ポッド油圧キャリパーをラジアルマウント。
マフラーは右側に跳ね上げられた1本タイプ。はみ出しは少なく綺麗な納まりを魅せている。ピリオンステップも綺麗に格納されている。
ボトムリンク式のプロリンク式リヤサスペンションを採用。車載のピンスパナとホルダーを使い、10段階のプリロード調節ができる。
いかにも剛性の高そうなスイングアームの上下に振り分けられたリヤブレーキ・キャリパーはいずれもシングルピストンのピンスライド式。上がメインの油圧式で、下はパ-キングブレ-キ用の機械式だ。
ナックルガードを標準装備したパイプバーハドルを採用。アドベンチャーモデルらしい雰囲気が醸し出されいる。
一般的なスイッチの他にモードスイッチがある。ファンクションスイッチと上下左右を指示するセレクトスイッチ。その下の丸いのはハザードスイッチ。左側のウインカースイッチ下にはシフトダウンスイッチ。人差し指で扱う方はシフトアップ用。
ハンドル右側スイッチは、赤いのがエンジンキルスイッチ兼始動用スターター。下はDCT用スイッチで、通常はDスイッチを押すだけで良い。マニュアル操作に拘りたいならグレーのスイッチを1度押す。ブレーキオイルのリザーバータンク手前にある黒いレバーはパーキングブレーキだ。
カラー液晶ディスプレイは表示デザインを変更することができる。右側のモード表示や、ファンクションを押すと出現するハンドルグリップヒーターレベルを示すブロック表示等も見やすい。
アクティブなイメージを醸すナックルガード。6段調節式左手レバーは、リヤブレーキ。使い勝手はスクーターと同じである。
まるでクルマ(4輪車)のようなプッシュ式のイグニッションスイッチ。ダイヤルを左に回すとステアリングロックが掛かる。下方の四角いスイッチは左が燃料給油口の蓋、右がシートのオープナーだ。
右膝前に位置するフェアリングポケット。セキュリティーも確保されている。
スマートキー方式を採用。写真のキーを身につけていれば、イグニッションスイッチを作動させる事ができる。
前後一体式のダブルシートはクッションボリュームも十分。前ヒンジで開閉できる。
ご覧のETCは標準搭載。庫内照明やType-C USBポートも装備されている。
シート下のメットインスペースは22L容量が確保されている。
すっきりとスマートなフィニッシュを魅せるテールビュー。テール&ストップランプもLED式だ。
大型スクーターと比較すると車体幅は明らかにスマート。

主要諸元


車名・型式:ホンダ・8BL-RH10
全長(mm):2,200
全幅(mm):940
全高(mm):1,340
軸距(mm):1,580
最低地上高(mm):135
シート高(mm):790
車両重量(kg):236
乗車定員(人):2
燃料消費率(Km/L) :42.5(60Km/h)〈2名乗車時〉
WMTCモード値(Km/L) :27.7〈1名乗車時〉
最小回転半径(m):2.8

エンジン型式:RH10E
エンジン種類:水冷4ストロークOHC4バルブ直列2気筒
総排気量(cm³):745
内径×行程(mm):77.0×80.0
圧縮比:10.7
最高出力(kW[PS]/rpm):43[58]/6,750
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm)69[7.0]/4,750
燃料供給装置形式:電子式〈電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)〉
始動方式:セルフ式
点火装置形式:フルトランジスタ式バッテリー点火
バッテリー:12V-11Ah
潤滑方式:圧送飛沫併用式
潤滑油量(L):4.0(交換時:3.1、フィルター交換時:3.4)
燃料タンク容量(L):13
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング式
変速機形式:電子式6段変速(DCT)
変速比:
 1速  2.666
 2速  1.904
 3速  1.454
 4速  1.178
 5速  0.967
 6速  0.815
減速比(1次/2次):1.921/2.235
キャスター角(度):27゜00′
トレール量(mm):104
タイヤ(前/後):120/70R17M/C 58H /160/60R15M/C 67H
ブレーキ形式(前/後):油圧式ダブルディスク /油圧式ディスク
懸架方式(前/後):テレスコピック式 /スイングアーム式(プロリンク)
フレーム形式:ダイヤモンド

⚫️試乗後の一言!

バイクリターンを考慮中のライダーにとって、かなり気になる存在だろう。リラックスできる乗り味が心地よい。

著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…