林道熱が再発しそう !? ホンダ・CRF250L sにはそんな魅力が詰まってました!

オフロードファンはもちろんのこと、軽量スリムなロードスターとして、幅広いキャリアのライダーに人気を得ているホンダ「CRF250L」シリーズ。今回はそのなかから、オフロードでの走行を強く意識した「CRF250L s」を試乗する。
REPORT:河野正士(Tadashi Kono)
PHOTO:山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
衣装協力:クシタニ

オフロード走行に特化したディテール

2025年2月末、ホンダは新しいカラー&グラフィックを採用し、また一部仕様変更した「CRF250L」および「CRF250L s」を発表した。CRF250Lシリーズはホンダのオン・オフロードモデル。スタンダードの「CRF250L」はオフロードの走破性と足つき性の良さを両立したモデル。「CRF250L s」は、前後サスペンションを伸ばしオフロードでの走破性を高め、また専用形状のシートを採用して、オフロード走行時にライダーがより積極的に動いてバイクをコントロールしやすくした、オフロードパフォーマンスを高めたモデルである。同プラットフォームに大型燃料タンクや大型カウルを装着した「CRF250ラリー」を含めて、CRF250ファミリーは軽二輪市場で常に販売台数上位に位置する大人気モデルである。

今回試乗したのは、「CRF250L s」。跨がった瞬間に、シート高の高さよりも、細く、そして硬めのフォームで仕上げられたシートそのものに、オフロードでのやる気を感じた。競技専用のモトクロッサーが採用するような、座ることよりも、荷重を掛けたり車体を積極的にコントロールしたりするために形状や硬さが決められたモトクロッサー用シート、とまでは言わないが、乗り心地の良さを重視したシートとは違う硬さ=やる気を感じるシートである。

とはいえ「CRF250L s」はオフロード専用モデルではない。オフロード走行でのパフォーマンスを維持しながら、オンロードでの走行性能や扱いやすさを高めたモデルである。141kgという車重は、かつて250オフロードブームのときに各メーカーがラインナップしたオン・オフモデルに比べると20〜30kgほど重く、エンジンの水冷化やそれに伴う外装類の大型化によって車格も大柄だ。しかしホンダの250ccモデルにも数多く搭載されている水冷単気筒DOHC4バルブエンジンは扱いやすい。神経質なクラッチ操作を必要とせず車体はスルスルと走り出すし、アシスト&スルッパークラッチの採用によってレバー操作が軽く、減速時のショックが少ない。試乗時は、直前まで1990年代の4ストオフロードバイクに乗っていたことから、その恩恵はサスペンションストロークが長いオフロードモデルの、加減速時の車体の挙動を抑え、スムーズなライディングに寄与していることを改めて実感した。渋滞した街中でクルマの後ろをノロノロと付いていくようなシチュエーションでも、わずかなクラッチ操作と、あとはアクセル操作のみの走行でもギクシャク感も少ない。

そこからアクセルを開けていくと、パッパッパッパッとエンジンのパルス感が高まり、エンジン回転の上昇とともにドューッと鼓動感が繋がり、5000回転を超えたあたりからのエンジンの伸びはとても気持ちが良い。舗装路のワインディングを気持ちよく流すなら5-7000回転あたりがちょうど良いし、なかなかのペースでスポーツすることができる。レッドソーンは1万1500回転付近で、その回転域を何度か試したが、個人的には8000回転あたりでシフトアップしながら加速していく方が、エンジンの伸びやかさを感じながら走ることができて気持ちが良かった。

オフロードらしいシャープさと扱いやすさの両立

またオフロードバイクらしいエッジの効いたスタイルを強く印象づけるラジエターシュラウドは、細いシートとのコントラストによって、車両に跨がったときの膝を広げ、それによって車両の印象を必要以上に大きく感じさせることがある。しかし「CRF250L s」はそのバランスが見事に調和されていた。スタンディング時こそシュラウドの幅はさほど気にならないが、シートに腰を下ろしてライディングする時間が長いオン・オフロードモデルである場合、下半身内側のフィット感や、そこからの印象がライダーを緊張させたりリラックスさせたりする。この細いシートとシュラウドとのバランスは、ホンダはオン・オフロードバイクとしてのCRF250シリーズの立ち位置をしっかりと定めて造り込んでいる結果といえる。そしてそのライディングポジションや常用域でのエンジンのフィーリングの作り込みによって、長い間ベストセラーであり続けているのである。

オフロードでも、かなり楽しめた。ここ最近は、林道ツーリングに出かける機会はめっきり減ってしまったが、それくらいの林道経験値である自分が、これ買っちゃったら、また林道熱が再発しちゃうかな、という感じだ。オンロードで感じたスムーズで力強いエンジンと、造り込まれたクラッチやサスペンションによって轍のライン替えも安定している。コーナーでシートの角に座って走行したときの安定感もリアタイヤからのインフォメーションも分かりやすい。このあたりは、硬め=やる気のシートの影響も大きいなぁ、と感じた。

そしてCRF250シリーズには、メーター脇のボタンを長押ししして、簡単にリアタイヤのABSをキャンセルできる。今回もABS有り/無しの両方を試した。リアブレーキを積極的に使ってリアタイヤを降り出すような走り方ではない自分にとっては、ABS有りの方が使いやすかった。オフロードでもリアのABSはしっかりと機能するし、手練れのマニュアル・リアブレーキ操作に比べれば制動距離は少し長くなるだろうが、ちょっと気分が乗ってラフにリアブレーキを操作しても意図しない挙動が生まれづらく、結果安心してライディングを楽しむことができたからだ。

街中はもちろん、高速道路のサービスエリアでも頻繁に目にする「CRF250L」シリーズ。なかにはオフロードブーツを履いた本格的なオフローダーや、大きな荷物を積んだツーリングライダーのパートナーとしても「CRF250L」シリーズが活躍していることが容易に理解できる。年齢やキャリアを問わず幅広いライダーにとって、軽量スリムなオン・オフモデルはあらゆるシチュエーションでメリットを提供するし、アップライトなライディングポジションと、高い視点によって得られる広い視界はライダーの緊張を和らげる。「CRF250L s」に乗ると、そのメリットを強く感じた。それは、大人気になるワケである。

ライディングポジションと足つき(170cm/65kg)

両足を地面につけようとすると、つま先立ち状態。片足のみ着地させる場合は、わずかに腰をずらせば足つき性が向上される(上記撮影時は腰をズラしていない)。ニーグリップ部にシュラウドの膨らみは感じるが、膝が大きく開く感覚ではない。ハンドルポジションはごくごく自然な位置にある。

ディテール解説

エンジンは、排気量249ccの水冷4ストローク単気筒DOHC4バルブ。そこにFCC製のアシスト&スリッパークラッチを搭載している
低回転域での扱いやすさと高回転の伸びのバランスが非常に良い。アシスト&スリッパークラッチの搭載でクラッチ操作は非常に軽く、シフト操作時の車体の挙動変化も少ない
倒立式フロントフォークに、21インチホイールを装着。同プラットフォームを採用するCRF250ラリーに比べ、小径のフロントブレーキディスクを採用。それに合わせてブレーキキャリパーのマウントも変更している
フレームはスチール製のツインチューブを採用。リアフレームには、この写真の小物ボックスをセットし、簡単な工具類も標準装備。リアシートは、その工具を使って開閉する
リアショックはプロリンク式モノショックを採用。アルミ鋳造一体型スイングアームをセットする
17インチリアホイールを採用。そこにフロント同様、ウェーブ型ブレーキディスクをセット。リアのブレーキマスターシリンダーは、モトクロッサーと同構造のカップ一体型だ。前後ともに中空型アクスルシャフトを採用している
フロントフェンダーとリンクする、きゅっと引き締まったフロント周り。LEDヘッドライトに、小型LEDウインカーをセットする
跳ね上がったリアフェンダーのデザインと一体感を持たせたテールライト
シートはs専用の細身のシェイプ。同時に試乗したCRF250ラリーのスタンダードタイプのシートと比較すると、シートフォームの固さも違い、sの方が固めの設定
シートは、シート両後端にあるボルト型の荷掛フックを工具でゆるめ取り外すことができる。エアクリーナーボックスと、そこから伸びる吸気口がみえる
左グリップのスイッチボックス。ホーンボタンがボックス中央にあり、その下にウインカースイッチがレイアウトされている
右グリップのスイッチボックス。キルスイッチ、ハザードボタン、スターターボタンをレイアウト
ハンドルは、やや幅広のオフロードタイプ。オープンタイプのナックルガードも標準装備される。トップブリッジやアンダーブラケットはアルミ製
ステップ類は、コントロール性を重視してラバー類を装備していない。このあたりでも、オフロード走行の比重の高さを感じることができる
デジタル表示の速度計を中心に、バータイプのエンジン回転計をデザインしたデジタルディスプレイ。ギアポジション/平均燃費/燃料消費量/平均速度などを表示可能
デジタルディスプレイの右脇に、リアタイヤのABSキャンセルボタンを配置。このボタンの長押しでリアABSのキャンセル/復帰を選択できる

CRF250L 主要諸元

■全長×全幅×全高 2,230×900×1,205mm
■ホイールベース 1,455mm
■最低地上高 285mm
■シート高 880mm
■車両重量 141kg
■エンジン形式 水冷4ストロークDOHC4バルブ単気筒
■総排気量 249㏄
■ボア×ストローク 76.0mm×55.0mm
■圧縮比 10.7:1
■最高出力 18kW(24PS)/9,000rpm
■最大トルク 23N・m(2.3kgf・m)/6,500rpm
■燃料供給方式 FI
■燃料タンク容量 7.8L
■フレーム セミダブルクレードル
■サスペンション(前・後) テレスコピック式倒立タイプ・スイングアーム式プロリンク
■変速機形式 6速リターン
■ブレーキ形式(前・後)油圧ディスク・油圧ディスク(ABSリアキャンセル機能付)
■タイヤサイズ(前・後)80/100-21M/C 51P・120/80-18M/C 62P
■メーカー希望小売価格 ¥649,000-

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著者プロフィール

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河野 正士

河野 正士/コウノ タダシ
二輪専門誌の編集スタッフとして従事した後フリーランスに。その後は様々な二…