スーパーカブ110の124ccボアアップ仕様には、日本車にはない魅力が沢山ありました。|スーパーカブtypeX

ご覧の通り、少し趣の異なるスーパーカブに試乗した。写真からわかる通りダブルシートの採用が特徴。国内仕様とは異なる乗用タイプのスタイリング。果たしてその正体は如何に!?

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●株式会社 シルバーバック https://silverback-mc.co.jp/

ホンダ・SuperCub typeX…….322,300円

ホンダ・スーパーカブ110
ホンダ・スーパーカブ110
ホンダ・スーパーカブ110
ホンダ・スーパーカブ110
ホンダ・スーパーカブ110
ホンダ・スーパーカブ110

イエロー

ホンダ・スーパーカブ110
ホンダ・スーパーカブ110
レッド
ブルー
ホワイト
ピンク

 今回の取材車両は、2021年7月31日付けで「タイ車両関連事業」を有限会社エンデュランスから譲渡された株式会社シルバーバッグで取り扱われる新商品である。
 スポーツ、ファミリー、ATの3部門から成る同社のラインナップには、既に総勢27機種が揃えられている。今回はファミリーカテゴリーで主力となりそうな新型スーパーカブtypeXに注目してみた。もともとスーパーカブの製造国はタイ(タイホンダマニュファクチャリングカンパニー・リミテッド)なので日本国内で市販されているスーパーカブも基本的に共通と考えて良いが、仕向け地によっていくつかの微妙な違いがある。さらにこれはタイ本国でモデルチェンジされた最新モデルと言う点も興味深い。
 国内で販売されているモデルとの違いが一目瞭然なのは、日本仕様には無いダブルシートが標準装備されている点。そのためリヤキャリアは存在せず、一方でコンパクトな黒いフロントキャリアが標準装備されている。
 もともとスーパーカブは荷物の運搬等、商業用途で開発されたのが基本だが、ニーズの異なるタイでは家族を乗せる乗用用途に使われるケースが多い事も良く知られており、それに相応しいモデルもリリースされている。
 外観からわかる通り、基本的にこのモデルがスーパーカブ110である事は間違いなさそうだが、実は「スーパーカブtypeX」と命名されたシルバーバッグのオリジナルモデルである。
 
 同社の公式Webサイトによると、「SuperCubをベースに125ccにボアアップしました。」と明記されている。つまり110のカブをベースにエンジンを125にした特別仕様である事が見逃せない。
 公式サイトの情報を鵜呑みにすると「アレッ?」と疑問が沸く。恐らく“ボア”ではなく“ストローク”あるいは“スケール”アップの事を意味しているのではないだろうか。
 諸元表によれば空冷4ストロークSOHC単気筒。ボア・ストロークは50×63.1mm、総排気量は123.9ccと明記されている。
 このtypeXについて、実は最高出力データも含めて多くの詳細情報は未だ公表されていない。ただ、公開済み主要諸元から判断すると、110をベースに125の新エンジン(タイ仕様)を搭載したと考えるのが正解だろう。タイ本国でリリースされているウェーブ125iからの流用かもしれない。
 車体寸法は、やはりスーパーカブ110と同レベルだが、全長とホイールベースは2cmほど大きめ。そして4kg軽量化されたと言われる車両重量は98kg。
 国内仕様のスーパーカブ110よりも1kg軽く、スーパーカブC125と比較するとなんと12kgも軽いのが印象深い。

 その他外観比較で明確なのは、イグニッションスイッチには盗難抑止用のキーシャッターを装備。左サイドカバーにもキーロックが採用されている。
 始動方式はセル及びキック併用式。スケールの異なるスピードメーターもオドメーターはドラム式ではなく、組み込まれた液晶表示式になり、ギヤポジションインジケーターも採用されていた。
 そしてもうひとつ。シートと共に決定的に異なっているのはピリオンステップが専用のダイキャストステーを介してマウントされている。
 ちなみに日本仕様はスイングアームに直付けされているので、バネ下の衝撃を拾う。それが無くなるだけでも後席の快適性向上が期待できるのである。

国内仕様には無い、スマートなダブルシート装備が魅力的。

 黄色い試乗車を受け取ると、自然と親しみやすさを覚える。本来のスーパーカブはこんな感じだった。前述の通り、いくつか異なる部分はあるが、国内で言う所のスーパーカブ110そのままの雰囲気。
 先日試乗した既報のスーパーカブC125と比較するとあくまで素のモデルとしての標準的な感じに改めて好印象を覚えた。
 筆者は四半世紀にわたってかつてのスーパーカブ90を愛用していた事もあるだけに、カブに対して描くイメージは、豪華に仕上げられたスーパーカブC125よりむしろスーパーカブ110の方が馴染み深い。
 道具として自由自在に使い倒すには、むしろこの仕上がりが丁度良い。上級モデルのスーパーカブC125が魅せる仕上がりの素晴らしさは十分に評価するものの、筆者にはちょっと“贅沢”に感じられてしまうだけに、直感としてスーパーカブtypeXには“親しみ”を覚えたと言うわけである。

 シートに跨がった時も至って軽快で誰もが馴染める感覚。大差があるわけではないが、スーパーカブC125には重厚感を覚え、それはそれで落ち着きのある乗り味として快適。
 しかしその一方でスーパーカブ110並に軽く、車格もややコンパクトなスーパーカブtypeXは、その車体に触れた瞬間からお気楽でいられるのがまた魅力的なのである。
 長さが690mmあるロング・ダブルシートは着座位置に自由度があり、小柄な人から長身の人まで柔軟に対応できる。走行時間が長い時等に、着座位置をずらして気分転換を図る事にも有効。
 もちろんタンデムライディングでも窮屈感はまるで無い。海外では3人乗りしているシーンが見られる事も少なくないが、それも納得できる程のスペースがある。

 注目のエンジンはスーパーカブC125とほとんど同じフィーリング。あえて言えば、車重が軽い故に発進時の逞しさが増しているような雰囲気を覚えた。
 車重の軽さから来るのか、出力特性に違いがあるのかについては定かではないが、あくまで感覚的な物としてスロットルオープンに対して歯切れの良いレスポンスを発揮し、吹け上がりも優秀。 動力性能的に大差は無いが、気分的に生き生きと元気良く走ってくれるのが何とも心地よかった。
 さらに狭い路地に迷い込んでUターンや切り返して戻ってくるようなシーンでは、やはりスーパーカブ110と同様の感覚、つまり軽快で扱いが自由自在になる。
 スーパーカブC125だって絶対的に重いバイクではないのだが、比較論としてスーパーカブtypeXはスーパーカブ110並の気軽さで便利に扱えてしまうのが魅力的だった。
 共に125ccエンジンを搭載し、実際同程度のパワーを発揮しているのなら、約1割りも軽いスーパーカブtypeXの方が、動力性能も燃費性能もそして制動性能も有利に作用することは間違いないだろう。
 
 前後ドラム式のブレーキは、絶対的な制動力の優劣で言えば、スーパーカブC125のディスクブレーキが優勢である事は間違いなく、実際操作フィーリングも良いが、実用上の制動装置としてドラムブレーキでも実力は十分。
 急制動時には強い握力や踏力が必要にはなるが、車両を停止させる能力として不足は感じられないのである。
 スポークホイールの採用も相まって、細いタイヤと前後サスペンションはなかなか良い仕事ぶりを発揮。クルージング時の安定感と素直な操縦性も一級の仕上がり。
 やはりスーパーカブの完成度の高さは侮れない。乗り心地が快適でロングツーリングでも疲れにくいのである。
 今回テストはできなかったが、快適なタンデム走行が可能な事、飾りっ気のないシンプルなデザイン。キック始動ができる事等、個人的な好みを満たしてくれる仕上がりを見るにつけ、自分の気持ちの中でtypeXは大いに気になる存在へとクローズアップされた。
 筆者が再びスーパーカブ購入を考えるなら、これまでは本音で「110がベスト」と思っていたが、それと大差ないお値段で125ccモデルが買えてしまう今回の“typeX”も俄然気になる存在に浮上してしまったのである。

足つき性チェック(身長168cm/体重52kg)

ホンダ・スーパーカブ110
ホンダ・スーパーカブ110
ホンダ・スーパーカブ110
ホンダ・スーパーカブ110

ご覧の通り、両足はベッタリと地面を捉えることができる。膝にも大きなユトリがある。脛はステップの直後に降ろせ、車体幅がスマートに感じられる。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…