Ninja ZX-10RR 1000kmガチ試乗3/3 熟成を経て完成形に至った、2021年型の細部を検証

独創的なフロントマスクを除くと、2021年型ZX-10R/RRに革新的と言うべき要素は見当たらない。とはいえ、リッタースーパースポーツの理想を追求した開発陣は、ありとあらゆる部分の徹底的な見直しを行っているのだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

カワサキNinja ZX-10RR……328万9000円

シャシーの基本設計は先代を踏襲。ただし、フォークオフセットが+2mm、スイングアームの軸間距離が+8mmに変更された結果として、ホイールベースは先代+10mmの1450mmになった。

■ライディングポジション ★★★★☆

835mmのシート高は、現代のリッタースーパースポーツでは平均的な数値で、ハンドルの高さやタレ角も、このジャンルでは定番と言うべき設定。とはいえ、ガソリンタンクの前後長が短く、シート~ステップ間に適切な距離が設定されているからだろうか、ライバル勢の多くと比べると、ZX-10RRの乗車姿勢はフレンドリーな印象。もっとも、アップハンドル車しか経験がないライダーが乗ったら、他のリッタースーパースポーツと同様に、慣れないうちは上半身の前傾角に戸惑うはずだし、ロングランでは首や手首、腰などに痛みを感じるだろう。

いつも足つき性の参考にならない写真で恐縮だが、身長182cmの筆者の場合、両足のカカトがピタッと接地(ベッタリというレベルではない)。なお他媒体の記事を見ると、身長170cm前後のライダーなら、つま先ツンツン状態にはならないようだ。

■取り回し ★★★☆☆

ライポジと同じような話になるけれど、取り回しもライバル勢と大差ない感触。2021年型はフォークオフセットを増やし、フォークスパンを広げているから、小回りが利くようになっているのかと思いきや、ステアリングアングル左右27度/最小回転半径3.4mという数値は、先代と同様だった。ちなみに、スポーツツアラーのニンジャ1000SXは31度/3.1mである。

■ハンドル/メーターまわり ★★★★☆

スクリーン高は先代+40mm。もちろん、その高さは空力性能を追求した結果だが(ドラッグは7%低減され、ダウンフォースは17%向上)、昨今のリッタースーパースポーツ愛好者の中で、アフターマーケット製のハイスクリーンが人気アイテムになっていることを考えると、ユーザーフレンドリーと言えなくもない。トップブリッジ上に設置されるオーリンズ製ステアリングダンパーも含めて、コクピットはブラックアウトを徹底。

スマホとBluetooth接続できるメーターは4.3インチカラーTFTで、写真のストリートモードに加えて、ラップタイムを大きく表示するサーキットモードを準備。視認性は非常に良好だったけれど、先代以前が採用していたLCDバーグラフ式回転計に独創性を感じていた筆者としては、ライバル勢と同様のメーターになったことがちょっと残念。

■左右スイッチ/レバー ★★★★☆

フロントブレーキマスターシリンダーは、昨今では日本製リッタースーパースポーツでも定番になったブレンボ製セミラジアル。エンジンの振動を抑えるためだろうか、バーエンドウェイトはライバル勢より大きめ。

左右スイッチボックスは新作で、各種電子制御を切り替えるモードボタン、クルーズコントロール用スイッチの操作感はなかなか良好。パワー特性とトラコンの効き方が変わるライディングモードは、3+1種類が存在。

■燃料タンク/シート/ステップまわり ★★★★☆

フィット感抜群のガソリンタンク+カバーは、先代のスタイルを踏襲している。後部のタンクパッドは標準装備で、純正アクセサリーとして左右セットのニーパッドが存在。先代より後方の傾斜角が強くなったシートは、ブレーキング時のズリ下がりという面で、ツーリングではマイナス要素になるかと思ったが、サスセッティングが絶妙だからだろうか、意外にそうはならなかった。

ステップのホールド感は至って良好。バー位置は先代より5mm高くなっているものの、膝や足首に窮屈さは感じなかった。アップとダウンの両方に対応するクイックシフターは、ツーリングでも実に有効なアイテム。個人的には極低回転域でも作動して欲しいのだが(現状で確実に作動するのは3500rpm以上で、それ以下の回転数ではひっかかりを感じることがあった)、リッタースーパースポーツにそこまで求めるのは酷だろうか……。

■積載性 ★☆☆☆☆

RRはシングルシート仕様なので、積載能力はゼロ。シングルシートカバーにベルトを巻き付ければ、シートバッグが装着できなくはないけれど、RRを購入するライダーで、そういう手法を選択するケースはほとんどないだろう。なおスタンダードのRは、タンデムステップブラケットに荷かけフック、タンデムシート裏にヘルメット用ホルダーを装備。

タンデムシート下にはETC2.0車載器キットが収まる。近年のカワサキ製ビッグバイクは、ETCを標準装備するモデルが増えているが、ZX-10R/RRは純正アクセサリー扱い。

■ブレーキ ★★★★★

F:φ330mmディスク+ラジアルマウント式4ピストンキャリパー、R:φ220mmディスク+片押し式1ピストンキャリパーのブレーキは、かなりの好感触。もっとも現代のリッタースーパースポーツは、どんなモデルでも絶大な制動力を備えているのだが、前下がりの姿勢を恐れずにフロントブレーキレバーをしっかり握り込める、車体姿勢の制御だけではなく制動力としてリアブレーキが使えるという点で、カワサキは素晴らしい特性を実現したと思う。なおステンレスメッシュのブレーキホースは、RRならではの装備。

■サスペンション ★★★★☆

臨機応変さという点では電子制御式に及ばないけれど、バランスフリータイプのショーワ製前後ショックは、セッティング次第であらゆる場面に対応。ちなみに第二回目で述べたRR→Rへのセッティング変更に要した時間は、わずか3分だった。フォークトップに備わるのはプリロードアジャスターのみで、伸圧ダンパーアジャスターはボトムに設置。リアショックには無段階のプリロードアジャスターが備わるが、この要素に関して、オーナーズマニュアルには具体的な数値が記されていない。

■車載工具 ★☆☆☆☆

試乗車は車載工具が撤去されてていため、パーツリストの図版を掲載。といはいえ、L型六角棒レンチと差し替え式ドライバーが1本ずつなら、わざわざお見せするほどでもないような……。もっとも、この点数はライバル勢も同様なのだが、先代のZX-10R/RRは8点だった。

■燃費 ★★☆☆☆

約1000kmを走っての平均燃費は16.4km/ℓ。現代のリッターバイクの基準で考えると良好とは言えないけれど、この数値は過去にガチ1000km試乗で取り上げた、YZF-R1より良好で、CBR1000RR-Rとほぼ同値である。なおスタンダードのRは、カムシャフトやピストン、コンロッドなどがRRとは異なるものの、ネットで調べてみたところ、燃費はRRと大差ないようだ。

ライバル勢のキャスター角が23~24度台前半であるのに対して、ZX-10R/RRは昔から25度という数値を維持。107mmのトレールも、ライバル勢と比べると微妙に多め。

主要諸元

車名:ZX-10RR
型式:8BL-ZXT02L
全長×全幅×全高:2085mm×750mm×1185mm
軸間距離:1450mm
最低地上高:135mm
シート高:835mm
キャスター/トレール:25°/105mm
エンジン種類/弁方式:水冷4ストローク並列4気筒/DOHC 4バルブ
総排気量:998cc
内径×行程:76.0mm×55.0mm
圧縮比:13.0
最高出力:150kW(204PS)/13200rpm
ラムエア加圧時最高出力:157.5kw(214.1ps)/14000rpm
最大トルク:112N・m(11.4kgf・m)/11700rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ点火
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板
ギヤ・レシオ
 1速:2.600
 2速:2.157
 3速:1.882
 4速:1.650
 5速:1.476
 6速:1.304
1・2次減速比:1.680・2.411
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ43mm
懸架方式後:スイングアーム・ホリゾンタルバックリンク
タイヤサイズ前後:120/70ZR17 190/55ZR17
ホイールサイズ前後:3.50×17 6.00×17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:207kg
使用燃料:無鉛ハイオクガソリン
燃料タンク容量:17ℓ
乗車定員:1名
燃料消費率国交省届出値:20.3km/ℓ(1名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3-2:16.5km/ℓ(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…