「欲張りすぎない性能に安心を感じた」|ロイヤルエンフィールドのミドルアドベンチャーツアラー『ヒマラヤ』試乗記

世界的なブームだと思われていたアドベンチャーツアラー人気は、いまや定番のジャンルとしてラインナップされています。文字どおり冒険的な旅を実現してくれるデュアルパーパス性が最大の特徴で、ツーリングユーザーの旅心を大いに刺激しているアドベンチャーツアラーですが、インドのロイヤルエンフィールド社からもミドルクラスのアドベンチャーツアラーが発売されています。それが『ヒマラヤ』です。
REPORT●栗栖国安(KURISU Kuniyasu)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ロイヤルエンフィールド・ヒマラヤ……706,200円〜

アルミ製パニアケースはオプション品。

当初抱いていた信頼性に対する不安はいつしか雲散霧消していた

 元々はイギリスのメーカーだったロイヤルエンフィールド社は、インドのメーカーとなった現在も英国車の雰囲気を漂わせるクラシカルなイメージのモデルが主力となっています。しかし近年はスポーティなモデルも登場させていて、ラインナップの充実度が高まっています。そうした中で誕生したのがアドベンチャーツアラーのヒマラヤです。ただし、世界的な本流であるアドベンチャーツアラーとは少し違っています。日本や欧米メーカーのモデルでは先進のデジタル技術が投入されていますが、ヒマラヤはとにかくアナログ要素が強く、搭載するエンジンも411cc空冷OHC単気筒です。アドベンチャーツアラーも基本はクラシックというわけですね。
 ロイヤルエンフィールドに対するボクの印象は、クラシカルなスタイルでメカニズムも前時代的なバイクというものです。そういう意味ではヒマラヤもクラシックなバイクに分類されると感じます。フォルムはたしかにアドベンチャーツアラーなんですけど、少し懐かしい雰囲気が全身から漂いますし、ほのぼのとした優しさや安心感が見て取れます。ヘッドライトからガソリンタンク横までをカバーするバンパーがヘビーデューティなイメージを作り出しているのも印象的ですが、基本的には80年代のデュアルパーパスモデルといったところでしょうか。
 懐古的なデザインや機能が悪いといっているわけじゃありません。アドベンチャーツアラーというよりスクランブラーと呼んだほうがしっくりくるデザインは、変に存在感を主張してないから親しみやすさを感じますし、老若男女だれもが自然体で付き合えるんじゃないかと思います。
 車体構成はオーソドックスな空冷シングルスポーツに、ダート走行に対応した足周りを備えたという造りで、フロント21インチタイヤを採用するなど、なかなか本格的です。フロントフェンダーはダウンとアップの2本だて。リアフェンダーもラウンド形状で後部まで回りこんでいます。デザイン的には現代風じゃないけど、機能性は高いと思います。
さらに一般的なアドベンチャーツアラーにはフロントカウルが装備してありますけど、ヒマラヤには小型のウインドスクリーンしか装備されていません。防風性でいえばカウルより劣ると思いますけど、エンジンスペックから察するに、高速走行でもとくに不満は感じないですむと思います。欲をいえば、ハンドガードがあると良かったんですけど。
 走ってさえいれば快適なアドベンチャーツアラーだが、車高が高めで足つきに苦労するのが難点。ところがヒマラヤは800mmと低めのシート高に加え、乗車したときのサスペンションの沈み込みもあって足が着きやすかった。感覚的には国内で人気の250㏄アドベンチャーツアラーと変わらない。つまり、体格が小柄な日本人にとっては手頃なサイズといえるでしょう。ただし車重は199㎏もあるので取り回しがしやすいとはいえない。ちょっと残念です。ポジション的にはとくに不満は感じませんでした。これならロングツーリングも快適にこなすはずです。
 エンジンは空冷単気筒OHC411㏄と中途半端な排気量。とはいえ、250とか400という具合に分類しているのは国内の事情なので、世界市場からすれば、まぁどうでもいいことなんでしょう。いまどき電子制御システムを導入していないのも珍しいのですが、実はこのアナログ式がアドベンチャーツアーには有効らしい。万が一故障したりしても修理がしやすく、結果的に生きのびて帰ることができるということらしい。ヒマラヤの名のとおりヒマラヤ周辺をツーリングする実証実験をしたようです。
 さて、そのエンジンですが、感覚的に強烈なトルクを発生するタイプじゃないのですが、低中速重視なので日常走行で使いやすいと感じました。またバランサー内蔵のため、街中から山岳路まで不快な振動も感じませんでした。反面、シングルらしい鼓動感もなく少し寂しい印象はありましたけど。言葉で表すのは難しいんですけど、普通に扱えてそれなりにちゃんと走ってくれる。高速道路でもドカーンと加速できないけれど、車の流れに乗って走るのには十分な力を発揮してくれます。高性能を求めるライダーには向かないけれど、のんびりとツーリングを楽しみたいライダーには最適な選択肢になりうると思います。
 走行性については、いわゆるツーリングペースで淡々と走るならば安心感があり、疲れない乗り味です。しかしがんばってスポーティに走ろうと思うと、安定性の高いハンドリングが機敏な動きに反応しないし、エンジンも高回転まで一気に吹け上がっていく特性じゃないので欲求不満になると思います。まあ贔屓目にみれば、頑張って走っている感じがいいともいえますけど。
 乗り心地については悪くない。オンもオフもハードに攻めた場合はどうかわかりませんけど、普通に走っている限り、前後サスペンションもちゃんと動いてくれていたし、コーナリング安定性もまずまず。フロント21、リア17インチとオフロードバイクのようなタイヤサイズのため、どちらかといえば安定性志向で、クイックに向きを変えるタイプじゃないですけど、ワインディングをちゃんと楽しめるだけの操縦安定性はあります。
 前後シングルディスクブレーキを装備していますが、フロントブレーキの効きはイマイチの印象でした。おそらくオフロード走行時のことを考えているのでしょうけど、少なくとも国内では、実際にオフロードを走ることは少ないので、オンロードでしっかりとした効きを発揮してくれると良かったなと思いました。反面リアはちゃんと効いていました。
 大型バイクに魅力があることはもちろん否定しません。ただ、ボクのように頻繁に乗るツーリングユーザーには手に余るというのが正直なところです。歳を重ねて体力が落ちるとなおさらです。そんな現状を実感しているからこそ最近は、ミドルクラス以下のバイクに目が向くのですが、性能や大きさなどさまざまな要素から、ヒマラヤは熟年のツーリングライダーに最適なモデルの1台だと今回試乗してみて感じました。
上体がアップライトで、ヒザの曲がりにもきつさがないので、ロングツーリングにも疲労しにくいポジション
シート高は800㎜とアドベンチャーツアラーとしては異例の低さ
乗車時にサスペンションが沈み込むこともあって、ゴー&ストップが頻繁な市街地でも不安なく足が着けられる
ご覧のとおり、長身(178cm)のボクの場合、両足がラクに着けられる。平均的な体格のライダーでも両足のつま先を着けられるだろう
411ccの排気量ながら心臓部の空冷OHC単気筒は決して高出力を発生するタイプじゃない。だが低中回転でトルクのある出力特性は、一般道、高速道路を問わずほっとできる走りを実現。
アドベンチャーツアラーとしての機能はしっかりと備えている。シングルエンジンの下部にはアルミ製アンダーガードが装備してあり、オフロード走行時でのダメージを抑制してくれる
クラシカルな雰囲気のモデルだが、機能部品に関しては現代的な装備で固めてある。リアサスペンションについてはボトムリンク式のモノショックユニットを採用
ヒマラヤの特徴的なところのひとつがフロント21インチタイヤの採用。これによってオフロード走破性を高まり、ツアラー性がアップ
オフロード走行を見据えてか、抜群に効くタイプとはなっていないフロントシングルディスクブレーキ。とはいえ通常走行で不安を覚えることはない
リアにもシングルディスクブレーキが採用。フロントのΦ300㎜に対してΦ240㎜の小径ローターながら効きはいい。もちろん前後ともABSを装備
不測の事態にも燃料タンクの破損を抑えるため、がっちりとしたタンクガードが装備してある
フラット気味のアップハンドルは、高さ、幅ともに程よい感じで、アップライトで快適なポジションも実現してくれる
標準的な配列で使いやすい左スイッチ
シンプルな丸型ヘッドライトはハロゲンランプを採用。上部にウインドスクリーンが装備される
ハザードランプスイッチも使いやすい位置に配置
小型テールランプを採用。リアキャリアは標準装備
アナログとデジタルを組み合わせたメーターパネルは一見すると複雑だが、瞬時に多くの情報を確認することができる。時刻を表示している右端のディスプレイは、ロイヤルエンフィールドのアプリ導入で機能するバイク用ナビとなっている https://motor-fan.jp/bikes/article/20786/
ボディはスリムだがシートはワイドな形状をしているので、適度なクッション性と併せて長時間走行でもお尻は痛くなりにくい
オプション用品として用意されているアルミ製パニアケース。専用の取り付けフレームと併せて装備できる。26L容量のケースはロック式のフタを採用

主要諸元

エンジン:空冷4ストローク単気筒SOHC 2バルブ 
排気量:411cc 
ボア×ストローク:78mm×86mm 
圧縮比:9.5 最高出力:17.88kW/6,500rpm 
最大トルク:32Nm/4000-4500rpm 
クラッチ:湿式 
ミッション:5速 
燃料供給:インジェクション 
エンジン始動:セルフモーター式 
燃料タンク容量:15L 
フロントサスペンション:テレスコピック式Φ41mmフロントフォーク(トラベル量200mm) 
リアサスペンション:モノショック式スイングアーム(トラベル量180mm) 
前ブレーキ:Φ300mmシングルディスク+2POTキャリパー(ABS) 
後ブレーキ:Φ240mmシングルディスク+1POTキャリパー(ABS) 
タイヤ:前90/90-21 後120/90-17 
電装類:12V 
乗車定員:2名

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著者プロフィール

栗栖国安 近影

栗栖国安

TV局や新聞社のプレスライダー、メーカー広告のモデルライダー経験を持つバイクジャーナリスト。およそ40…