驚くほど軽快にして爽快なKR250 1980年代に生まれた、カワサキ2スト250ccの歴史を振り返る②

1984年に登場したKR250の紹介文では、独創的という言葉がよく使われる。そしてその言葉は、ルックスやエンジン形式だけではなく、ライディングフィールにも当てはまることだったのだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

安定性より、運動性を重視したディメンション

 第1回目の最後に触れたように、僕がKR250に乗るのは今回が初めてなのだが、同時代のライバル車、1980年代の2ストレーサーレプリカはそれなりの台数を経験している。また、試乗車は足まわりを後年式のカワサキ車用に換装し、タイヤをラジアルのダンロップα-13、チャンバーをBEET製に変更しているので、ノーマルとは異なる印象を抱く可能性がある。以下のインプレは、そのあたりを踏まえてお読みいただきたい。

 1984年型KR250で走り始めて、僕が最初に感心したのはハンドリングの軽さだった。右へ左へという進路変更はスパッと軽やかで、コーナー進入時のバンキングスピードも相当に速くて(直進状態を維持しようという抵抗をあまり感じない)、ベタな表現をするならよく曲がる。

 この感触はエンジンとクランクの幅が狭く、安定性に寄与するジャイロ効果が少ないタンデムツインならではという気がするけれど……。現役時代のKR250のライバル、エンジン幅が広いパラレルツインのRZ250RやRG250Γより軽いのは当然としても、タンデムツインに近い幅の90度VツインのNS250Rと比べても、明らか軽い。不思議に思って後にスペックを調べると、意外な事実が判明した。

 ハンドリングを左右する車体寸法、キャスター角、トレール、ホイールベースは、大雑把に表現するなら、小さければ運動性重視、大きければ安定性重視である。ライバル勢の数値が、RZ-R:26度30分/99mm/1385mm、RG-Γ:28度45分/102mm/1385mm、NS:27度15分/100mm/1375mmだったのに対して、KRは27度/84mm/1360mm。キャスター角はRZ-RとNSのほぼ中間だが、トレールとホイールベースは露骨に短い。つまり、KR250は幅が狭いエンジン+クランクの美点を伸ばすべく、車体寸法でも軽快さを重視した数値を採用していたのだ。

 もっとも、現代の高性能ラジアルタイヤを履いた状態でそう感じるということは、グリップ力と剛性が低い当時のバイアスタイヤだったら、軽さが怖さにつながる場面があったのかもしれない。事実、当時の専門誌に掲載されたインプレでは、かなりクイック、オーバーステアという言葉が使われていた。なお試乗車のタイヤサイズは、フロント110/70R17・リヤ140/60R18だが、外径はノーマルのフロント100/90-16・リヤ110/80-18とほとんど同じである。

タンデムツインならではの特性

 続いてはエンジンの話で、こちらも車体と同様の表現になってしまうのだが、回転フィーリングは驚くほど軽かった。と言っても、4ストのような動弁系が存在せず、燃焼回数が4ストの倍となる2ストは、どんなモデルでも軽さを感じることが多いのだけれど、クラス唯一のロータリーディスク&リードバルブ吸気を採用したKR250のエンジンは、抵抗が存在しないかのように、レッドゾーンが始まる10500rpmまでスルスルスルッと回って、そのままどこまでも回転が上がって行きそうな雰囲気。とてつもなく爽快な一方で、ちょっと不安を感じるほど軽快なのである。

 僕がそう感じた理由としては、振動の少なさという理由もあると思う。KR250を含めた当時の2スト250ccレーサーレプリカは、いずれも振動対策としてエンジンをラバーマウント式としていたものの、2つのピストン+コンロッド+クランクが同一線上に並ぶタンデムツインという構造のおかげで、エンジン本体を揺すろうとする偶力振動が発生しないからだろうか、KR250の振動の少なさはダントツなのだ。逆にこのバイクを体感すると、当時のライバル勢を走らせた際は、高回転域における振動の増加が、脳内レブリミッターに作用していたと思えて来る。

 もっとも2ストの場合は、エンジンと振動の特性はチャンバーによって劇的に変わるので、上記したフィーリングがノーマルで味わえるかどうかは何とも言えないところ。とはいえ、過去に僕はチャンバーを交換したライバル勢を体験しているのだが、KR250のような軽さは記憶にない。

 なおKR250のエンジンに関するスペックで興味深いのは、最高出力発生回転数がライバル勢より500~1500rpm高い10000rpmで、最高出力と最大トルクの発生回転数が2000rpmも離れていること(2ストレーサー&レプリカの最高出力と最大トルク発生回転数は、なるべく離さないのが通例で、ライバル勢は500~1000rpmしか離れてない)。この数値を見ると、超高回転指向でつながりが悪そうというイメージを持つ人がいそうだが、実際のKR250のエンジンは、むしろパワーバンドが広くて扱いやすい印象だった。

ライバル勢とは一線を画する魅力

 ライバル勢に全然負けていないし、ライバル勢とは一線を画する魅力があるじゃないか。試乗後の僕はしみじみそう思った。もっとも、1984年に僕が2ストレーサーレプリカを購入できる立場だったとしたら、熟成が進んでレース界でも定評を得ていたRZ-Rを選びそうだけれど、新しいモノ好きという視点で見るなら、KR250に興味津々のライダーは少なくなかったはずだ。そんなKR250がヒットしなかった理由は、やっぱりルックスが独創的すぎたうえに、レースで活躍する姿があまり見られなかったからだろうか(キャブレターのセッティングが出しづらく、パワーを上げるとエンジンが壊れやすかった、という説もある)。

 いずれにしても今の僕は、カワサキがこのバイクの販売たった2年で止めてしまったことをもったいないと感じている。とはいえ、以後の2スト250ccレーサーレプリカの驚異的な進化を考えると、タンデムツインを早い段階で諦めた、当時のカワサキの判断は正しかったのかもしれない。

ディティール解説

フロントマスクはGPZ900Rに似ているものの、アッパーカウル左右にビス留めされたナックルガードはKR250ならではの装備。バックミラーは1985年型でハンドル→カウルマウントに変更された。
試乗車はステムがKR-1用に変更されているが、ノーマルに準じる形で、セパレートハンドルはトップブリッジ上にクランプ。
ライバル勢のメーターが速度/回転/水温計の3連式だったのに対して、KR250は燃料計を加えた4連式。
ガソリンタンクはニーグリップ時のホールド感を考慮した形状。容量は当時の2スト250ccレーサーレプリカの平均値となる18ℓ。
1980年代後半以降とは異なり、この頃の2スト250ccレーサーレプリカのシートは、ツーリングに余裕で使える肉厚を確保していた。
テールランプは当時のバイクでは相当に珍しい丸型。シートカウル右側には後方気筒用のサイレンサーが設置されている。
この写真では判別できないが、エンジンは2ストタンデムツイン。ワークスKRのシリンダーがほぼ直立だったのとは異なり、公道用KRは33度前傾。
シリンダー右側に並ぶ2つのキャブレターは、フラットバルブのミクニVM28SS。
試乗車の前後ホイール/ブレーキディスク/φ41mmフォークはKR-1S用で、フロントキャリパーはZZR用。
アルミスイングアームは下部にスタビライザーを装備。チェーン調整は当時のカワサキの定番だったエキセントリック式。ユニトラック式リアサスのショックユニットは、エンジン下に設置されている。

主要諸元

車名:KR250

全長×全幅×全高:2035mm×685mm×1185mm

軸間距離:1360mm

最低地上高:130mm

シート高:770mm

キャスター/トレール:27°/84mm

エンジン種類:水冷2ストロークタンデムツイン

吸気形式:ロータリーディスク&リードバルブ

総排気量:249cc

内径×行程:56.0mm×50.6mm

圧縮比:7.0:1

最高出力:45PS/10000rpm

最大トルク:3.7kgf・m/8000rpm

始動方式:キック

点火方式:CDI

気化器:ミクニVM28SS

トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン

クラッチ形式:湿式多板

ギヤ・レシオ

 1速:2.641

 2速:1.776

 3速:1.317

 4速:1.082

 5速:0.961

 6速:0.888

1・2次減速比:2.791・2.714

フレーム形式:ダブルクレードル

懸架方式前:テレスコピック倒立式φ41mm

懸架方式後:スイングアーム リンク式モノショック

ホイールサイズ前後:2.15×16 2.50×18

タイヤサイズ前後:100/90-16 110/80-18

ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク

ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク

乾燥/装備重量:132/157kg

燃料タンク容量:18ℓ

オイルタンク容量:1.5ℓ

発売当時価格:49万8000円

著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…